私とアランが話していると、部屋に仲間の一人がかなり焦った様子で入ってきた。


アランが立ち上がる。


「何だ、どうした?」


「やべぇよ!仲間の一人が料理亭から掻っ攫ってきた食材に、猛毒が仕込んであったみてぇなんだ!それ食った奴らが倒れちまった!!」


「何だと!?」


私もアランもさっき食べたチャーハンを見た。



まさか、これにも猛毒が・・・。



「そっちは心配ねぇ。倒れた奴らが食ったのはスープの方だ。とにかくアラン、こっちに来てくんねーか」


ひとまずホッとした様子でアランは頷くと、私を残してその仲間と共に部屋を去っていった。


「猛毒・・・」


城下町では窃盗が多発してた。


きっと、自分の店が狙われたときのために、店の人がわざと毒を盛った食材を準備してたんだ。


確かに盗みは悪い事だけど、ちょっとやりすぎじゃない・・・?


私は足の紐を解こうとした。


しかし固く結んであって、一筋縄ではいけそうにない。


「これだ」


空になった皿を手に取ると、私はそれをスカート越しに、なるべく音を立てないように叩き割った。


皿の破片が鋭く光る。


私はそれを使って紐を切った。


これで足も自由だ。


私は、アランたちが消えた方へ向かった。





「大丈夫か?しっかりしろよ!」


「あうぅ・・・!」


どこか痛むのか、苦しげな声と、泣き叫ぶ声が交錯していた。


アランや他の仲間たちがもがき苦しむ仲間たちを必死で看病している。


毒にやられた人たちの中には、私を揺さぶって起こしたあの女の人もいた。


「だめだ、アラン。このままじゃこいつら・・・」


「あきらめるな!何か手があるはずだ」


アランはそう言ったが、いい考えが浮かばず、悔しそうに唇を噛んでいた。



どうしようか迷ったが、私は意を決してアランたちの前に出て行った。


アランは私を見つけて、アッと声を漏らす。


「お前、どうやって足の紐を!?これに乗じて逃げようったってそうは・・・」


「この人たちを助けたかったら、私を城に帰して!ハトリック城には薬草に詳しい医師がいるの!その人なら、きっとこの人たちを治せるはずだよ!」


必死に訴える私だったが、アランは私を睨んだ。


「そんなこと言って、ここから逃げるつもりだろ?そう簡単に逃がすかよ!」


私も負けじと睨み返す。


「仲間を見殺しにする気!?それとも、他に治す手段があるの?」


「・・・それは・・・」


アランが口ごもる。


一瞬、何か言いかけたが、頭を振ると、


「俺たちはレジスタンスだ!城の世話になんか、なってたまるか!!」


と、吐き捨てるように言った。


なんて分からず屋な奴だろう!


ゲルダなら一発で治してくれるって言ってるのに!!


と、そのとき、仲間の一人が吐血した。


顔は青ざめ、かなり危険な状態だ。


私はそんなことよりも、血の色に目を奪われた。


「真っ黒だ・・・」


まるで墨汁のよう。


それが、口から顎にかけて流れ出ている。



この世界の普通の血の色は黒いんだ。



「何でもいい、解毒剤になりそうな薬を探して来い!今すぐにだ!」


相当、切羽詰った様子でアランが叫んだ。


仲間の何人かが慌ててアジトから飛び出していく。


吐血した仲間は息も絶え絶えだ。


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「ちくしょう・・・。頼むから、死ぬなよ」


コップに水を汲み、それを仲間に飲ませる。


しかし、仲間は血の混じった水を吐き出してしまった。



もう見てられない・・・!



「私やっぱり、医師を呼んでくる!必ずここに戻ってくるから!」


私が出口に駆け出すと、アランが私の手首を掴んだ。


「ムダだ。帰り道も分からないだろ。お前が行かなくても、仲間が薬を持ってくる。だからここにいろ!」


なぜこの人は、ここまで私を帰したがらないの!?


仲間の命が大事なら、プライドなんて捨てればいいのに!


私は、堪忍袋の緒が切れた。


「もういい!私、どうなっても知らないからね!」


大声で怒鳴ると、私は囚われていた部屋に大股で戻っていった。