緊急会議が始まるということで、ロビンは宮室から去っていった。
寂しそうにする姫。
「ロビンはどうなさるおつもりなのかしら。無理をして、怪我をなさらなければいいけど・・・」
「ロビン様のことだから、きっと何か策があるのでしょう。アメリア様はゆっくり御休みになってください」
そう言って姫を宮室に戻そうとするエルーシオだったが、姫はまだ物足りないようだ。
「さっき起きたばかりなのに、また横になるのはつまらないですわ。メグミ、折角ここまで来てくださったのだし、お茶でも飲んで行かれてはどうかしら?」
私はゲルダのところにそろそろ戻ろうかと思っていたのだが、姫の、期待のこもった目で見つめられ、もう少しここにいてもいいかなと思い直した。
ゼノンのこともまだ話していなかったことだし。
姫に招かれるままに宮室に入っていくと、そこにはもう一人、正直会いたくなかった人がいた。
姫のベッドの横の椅子に座り、うとうとしていたその人は、入ってきた私を見つけるなり目をパッチリ開けた。
「あんた、いつのまに姫様のお気に入りになったのよ!まったく、憎たらしいったらありゃしない」
悔しそうな顔で、バイオリンを片手に私を睨みつけるシルフィ。
「し、シルフィ・・・。あんた何でここに・・・?」
「あら?あなた方、お友達でしたの?」
私とシルフィの様子を見て、姫が尋ねると、二人は声をそろえて、「友達なんかじゃありません」と真っ向から否定した。
「あたしはね、姫様がリラックスできるように、眠っていた姫様にバイオリンを奏でて差し上げてたのよ。あんたの下手くそなフルートとは違って、あたしのバイオリンにはヒトの心を癒す力があるんだから」
自慢げに語る彼に、私は心の中で文句を言った。
下手くそですって~!?
あー、こいつマジでムカつく。
私が毎日どれだけ練習してるかも知らないで!
私はなるべくポーカーフェイスで言葉を返す。
「へえ、シルフィみたいな口の悪い人がバイオリンでヒトの心を癒せるなんて思ってもみなかったなー」
皮肉を言う私にキレるシルフィ。
「なんですってぇ?もっぺん言ってみなさいよ!」
「えぇ、何度でも言ってあげましょうか!」
「おい、二人とも!アメリア様の前で喧嘩はやめんか!失礼だ!」
ヒートアップする私たちの言い争いを、見苦しいとエルーシオが止めた。
姫はそんな私たちを見て、最初は呆気に取られていたが、何がツボにハマったのか、クスクス笑い出した。
「あぁ、女の口げんかというものを初めて見たけれど、何て微笑ましいのかしら。まるで子供同士の喧嘩のようだわ。あなた方、本当は仲がよろしいのではなくって?あぁ可笑しい」
「あ、アメリア様、シルフィは男です」
控えめにツッコむエルーシオ。
姫は「そうだった」と言わんばかりの表情。
そのやり取りが面白くて、私は宮室ということも忘れて爆笑してしまった。
シルフィは相変わらず、むっすりとしている。
「こんなに笑ったのは久しぶりですわ。さぁ、今紅茶を持ってくるから、皆さん椅子にお掛けになって」
姫はそのまま紅茶を汲みに別の部屋に行ってしまった。
姫にお茶を注がせてしまっていいのだろうか。
私は席に着く前にエルーシオに確認した。
「本来ならアメリア様の手伝いをしたいところだが、他人が手を出すと姫様の機嫌が悪くなってしまう。おそらく、姫様のこだわりというものがあるのだろう。だから我々はここで大人しく待っていればいい」
ふぅん。アメリア様って可愛い。
お姫様が入れる紅茶か。どんな味がするんだろう。楽しみだな。
しばらくすると、トレイにティーカップとティーポットを乗せて、姫が戻ってきた。
「お待たせいたしました。さぁどうぞ」
一人ひとり、カップを置き、そこへ丁寧に紅茶を注ぐ。
いい香りが部屋全体に広がる。
この香り、たぶんジャスミンティーだ。
「ありがとう。いただきます」
私は一口飲んだ。
ちょっとクセのある味わい。だけど、後味はとてもスッキリしている。
「美味しい」
他の二人も静かに紅茶を飲んでいる。
エルーシオはジャスミンティーが苦手なのか、少し飲んで、カップを置いた。
シルフィは味より香りを楽しんでいるようだった。
姫はお客様のおもてなしができて満足そうだ。
紅茶を褒められて、得意げに言う。
「まだ飲み足りなかったら、仰ってね」