お昼過ぎ、ゲルダは薬草庫に新しい薬草を摘みに行くと言って出て行ってしまった。
私はもう元気なのに、あと一日、ベッドの中にいなくちゃならない。
私もできることを何かしたい。
もどかしさを胸に、枕に頭をつけて、天井を見つめた。
誰かが姫を亡き者にしようとしている。
でも、一体何の目的で?
あの犯人の男、まるで盗賊のような格好をしていた。
金目当て?
いや、それなら姫を連れ去ろうとするはず。
あの場で殺そうとしたのはなぜなの?
姫に個人的な恨みでもあったのだろうか。
でも、姫と顔見知りって感じでもなかったし・・・。
ってか、あんなのと知り合いだったら逆にビックリするけど。
考えがまとまらず、やきもきしていると医務室のドアをノックする音が聞こえた。
私はドアに向かって声を掛けた。
「はい、開いてます。どうぞ」
「失礼します」
医務室に入ってきたのは、なんとエルーシオだった。
重そうな鎧を身に付け、腰には剣を備えている。
あまりよく眠れていないのか、少し疲れた顔をしていた。
私に何の用だろう・・・。
また何か文句を言いに来たのだろうか。
気まずいなぁ。
私は起き上がる気になれず、顔だけエルーシオのほうに向けた。
エルーシオは軽く辺りを見回した。
「・・・エドモンドは?」
ゲルダのことだ。
「薬草を取りに行ってて、ここにはいないよ」
「・・・そうか」
何だろう。
今日はやけに大人しい。というか、よそよそしい。
「ゲルダさんに用事?」
「いや、ここにはお前に用があって来た」
彼は鎧が擦れあうような音をガチャガチャ立てながら、私の傍までやって来た。
「昨夜、やっとアメリア様がお目覚めになってな。大変怯えていらっしゃった。だが今朝には少し落ち着かれ、俺とロビン様にあの夜の事をお話くださった」
エルーシオはゆっくりと膝をついた。
「お前は、あの時必死にアメリア様を守ろうとしてくれてたんだな。それなのに俺は、お前を追い詰め、剣を向けてしまった・・・」
その顔には深い反省の色が現れている。
エルーシオは、私のこと分かってくれたんだ。
姫が誤解を解いてくれたんだ。
「ロビン様が仰っていたように、血が赤い事は罪にはならない。なのに俺は話も聞かず、勝手にお前を魔族と決め付けて、すべての責任を押し付けようとした。本当に悪かったと思っている。今までもお前と会うなり、度々圧力をかけて済まなかった。どうしたら、俺を許してもらえるだろうか」
そう言って、彼は私に向かって床に頭をついた。
あのエルーシオが、目上の人にしか頭を垂れなさそうな彼が、今私の目の前でマジ土下座をしている!
最初はあまりの事にギョッとしてしまったが、同時に、なんて真面目な人だろうと、そう思わずにはいられなかった。
確かに先入観に囚われて、突っ走ってしまうところはあるけど、それは姫のためにしていること。この人も、姫を守るために必死だったんだ。
誤解が解けた今、彼は誠心誠意を込めて私に謝罪してくれている。
「分かってくれただけで充分だよ。私も、あの時あなたが駆けつけてくれたお陰で命が助かったんだから。お相子だよ」
私はにっこり笑った。
すると、エルーシオは安堵の表情を見せ、立ち上がった。
「そう言ってもらえると、有難い。それで、怪我の具合はどうだ?まだ痛むか?」
「ううん。ゲルダさんのお陰でもうすっかり良くなったの。本当はベッドにいなくても平気なんだけど、念のために一日安静にしてるように言われててね」
私がそう言うと、彼はちょっと残念そうに頭を掻いた。
「・・・そうか。実はアメリア様がお前に会いたがっているんだが、今日は無理そうだな」
え、姫が私に?
そんなの、無理してでも会いに行くに決まってんじゃん!
「全然大丈夫だよ!私、アメリア様のところに行きたい!是非、連れて行って!」
「あ、あぁ・・・分かった」
私の勢いに面食らうエルーシオだったが、姫の望みを叶えられるとあって、少し嬉しそうだった。
私はゲルダが帰ってきたときのために書置きをして、エルーシオと共に姫の部屋に向かった。