淡いもやの中、私に背を向け、黒い何かと激しく戦っている人がいる。


何かから私を守るため、必死に戦うその背中を私は成す術も無くただ見つめていた。


「王子、どうか・・・どうか死なないで・・・」 


私の祈りが通じたのか、王子の剣の一振りが相手の胸を切り裂き、黒い何かは叫び声を上げて消えた。


「あぁ、良かった・・・」 


私は安堵して、王子に駆け寄った。


今まで背を向けて戦っていた王子もやっと私のほうを向いてくれた。


黄色に輝く髪の毛は風になびき、青い瞳は私を優しく見つめていた。


戦いは終わった。これからは王子と二人で平和な世界を築いていこう。そう思った。


・・・しかし・・・。 


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次の瞬間、一筋の黒い光が王子の体を貫いた。


そして、王子は―――




ピピピピ!!ピピピピ!!


朝、けたたましく鳴る目覚まし時計の音で、私は突然、現実に引き戻された。


「・・・夢か」 


頭は枕からずり落ち、布団は足元に追いやられていた。


中学二年になっても、この寝癖の悪さは直らない。


「またあの夢だ。もぅ、何なの・・・?」 


朝から半ばイライラしながら、私は着替えを済ませて、ダイニングルームに向かった。


テーブルには既に兄のトオルがいて、食パンにかじりついていた。


「おはよ、メグミ。なんだぁ?朝っぱらからシケた面しちゃって」 


私のイラついた顔を見るなりトオルがニヤニヤ笑う。


まったく、嫌な兄を持ったものだ。


「またヘンな夢見たの。これで何回目??意味わかんない」


「夢って、王子様が出てくるへんてこりんなあの夢か?いっつもメルヘンチックな事ばっか考えてるから、夢に出てくるんじゃねーの?」 


馬鹿にするように私をからかってくるトオル。


こちとら真剣に悩んでるって言うのに。


腹が立ったので、トオルのコップを奪い取り、中身の牛乳をすべて飲み干してやった。


「あぁ!このやろう!」


「フンだ!トオルなんかバスケやったってろくに背も伸びないんだから、何やっても無駄ムダー」


「ひとが気にしていることを~」


「はいはい、朝から賑やかなのはいいけど、ほどほどにね。さっさと食べて二人とも学校行きなさい」 


私の分の朝食を持ってキッチンから出てくるなり、母が諭すように言った。


いつもこんな感じで、私たち兄弟が喧嘩しそうになると母がストップをかける。


「ごちそうさま」 


母が用意した朝食を本当にさっさと食べ終え、私とトオルは一緒に家を出た。

仲がいいんだか悪いんだか。


「お前さ、最近よく同じ夢見るよな。何か心当たりねーのか?」


不思議そうに問いかけてくる兄。一応、心配してくれているみたいだ。

夢が心配事なんて、ちょっとヘンだけど。


「全然。何にも思い当たらないから気味が悪いんだよ。別にメルヘンなこととか考えてないのになぁ」


「本当か?じゃあ好きな男のこととか理想の相手とか想像して、それが夢に出てきてるだけじゃねーの?」


「そんなこと、想像してません!」 


こういう話を兄の口からされるとなんかムカつく。そういう年頃なのだ。


「怒るなって。まぁどっちにしても、同じ夢を繰り返し見るって事は何かの予兆って可能性もあるよな。昔っからそーゆー類の話あるだろ?だから、せいぜい気をつけろよ」 


そう言い残して、トオルは高等学校がある左の道に行ってしまった。私が通う中学校は右の道だ。


「何かの予兆・・・か」 


小さい頃はあんな夢一度も見なかった。忘れただけかもしれないけど。とにかく、最近になって頻繁に同じ夢を見るようになったのは確かだ。


しかも同じ場面で、同じ終わり方をする。


だから、私は黒い光に貫かれた後、王子がどうなったのか知らない。


「ま、どうせ夢だし。考えてもしょうがないか」 


たかが夢、されど夢。しょせん自分の想像でしかないのだと、私はあまり気にしなかった。 


しかし、あの夢が夢のままで終わるはずは当然なかったのである・・・。