私が三、四歳の頃だろうか。

夕暮れをバックに、同い年ぐらいの女の子と二人並んで三輪車に乗っている写真を見つけた。

でも、その女の子の記憶はない。
幼稚園にも小学校にもいなかった。


家の押し入れを片付けているとき、アルバムの古い写真の中に見つけた一枚。

懐かしい団地の背景にオレンジ色の夕暮の空。

幼い頃の自分とその隣りに白いワンピースの女の子。
二人とも同じようにカメラを見て笑っている。


「この子、誰?」

母に聞くと、写真を見たまま首をかしげた。

「近所の子じゃない?」

「名前は?」

「……どこの子だったかな、思い出せないねえ。」

古い写真なので母も覚えてないようだ。



夜になってからも、あの夕暮れをバックにした写真のことばかり考えていた。

あの女の子は誰なのか、誰が写真を撮ったのか。


その夜、夢を見た。

今は無き夕暮れの古い団地の前で、三輪車を並べている。

女の子が言う。

「明日、引越すの。」 

女の子は少し笑って言った。

「でもまた会えるよ。」

「どこで?」

幼い私が聞くと、女の子は夕焼け空を見上げた。

「夕方。」


夢はそこで終わった。


私は夢が気になって仕方なくなり後日、昔住んでいた場所に行った。

当時の団地はすでに取り壊され、新しい団地になっていた。
昔の面影はほとんど残っていない。

それでも夕暮れになると、空だけはあの写真と同じ色だった。


私はベンチに座って夕日を眺めていると、前から小さな女の子が赤い三輪車を押してきた。
後ろにはもう一人白いワンピースの女の子。

私は一瞬、幼い頃にタイムスリップしたような気がした。

でも次の瞬間には、どこにでもいる子どもたちの姿だった。
二人は笑いながら公園の奥へ歩いていき新しい団地の向こうへと消えた。


その夜、もう一度夢を見た。

私の住んでいた団地。

あの夕暮れ。

女の子は引っ越しトラックの荷台に座り手を振っている。

「また会えたね。」

そう呟いた女の子に名前を聞こうと思ったが、

トラックはゆっくり遠ざかり夕日の中へ消えていった。


私は今でも夕暮れになるたび、あの写真の空の色を探してしまう。

夕暮れは帰れない場所を思い出すための時間なのかもしれない。