かと言って、特別な事をしたわけでもない。
自慢したり、卒論のようにいい子ぶったりもあほらしい。
ただ、書いてるうちに創作意欲をかきたてるインスピレーションをたまには掘り起こしたいと思う単なるエゴに付き合わされる読者諸君が気の毒で。まことに・・・・・・。
どこから導入するか。だ、が、純真無垢だった劇団時代から遡ってみようか。
それが果たして純真無垢だったかについては異論も予期しないでは書けない。
いや、役を獲るためにライバルとみたてて必死で自分を売り込んでいたような。
駆け出しの頃。大舞台の商業演劇から渋谷じゃんじゃんなどの新劇小劇場まで観まくって演技のエッセンスを盗もうと目を皿のようにして「ぴあ」をめくりめくった頃。
あんまり前列過ぎるのもハンカチなくしては見られない。
役者の唾きが、よだれのようにじゃんじゃん飛び散るように降り注いでくる砂被りで見上げて、「ほぅ~、これがお芝居か」と。
集中力を切らさないためにどのくらい舞台稽古をしたかなど推し測ってみたら、新劇の大劇場では1か月公演では2か月近く仕込みにかかりそうだ。
六本木に自由劇場という小さな小屋があって同じ劇団の者がそこに出るからってんで観に行ったんだけど、舞台に立ってる時より楽屋にいる方が盛り上がって面白かったなんて役者冥利に尽きない笑えないジョークを交わしたことも。
古今東西の演技も外から拵えていく形、様式美(能とか歌舞伎など)や新劇でも小劇場的な演じ手の内面のキャラに状況のイマジネーションで観客と共に作り上げていく劇的空間や、映画、TVの演目だしものや役、演出や状況によって変わってくるが惚れ込んだ役を生きられればそれでよしと思って感謝しなければ。
と言っても素人の方々にはなんのこっちゃでしょうから、分かり易い例を引っ張ってくるとですな。
劇団研究生になると大概、滑舌トレーニングと言うのがって、そこで虫干しに出されるのが「外郎売 二代目市川団十郎」という古典。
ありゃ江戸時代の戯作者が創作したのか、現代感覚とは相容れない古風な言語づかいで、伝え説明するのに困難な事物も入り混じり、結局問答無用で先ず舌先で憶えさせられる。早口言葉のご先祖さまのようなもの。
アルツハイマー予防とか防止にあれを暗記して、健康のために滑舌トレーニングとしてやってみるのも、胃、心、肺、肝が健やかになっていいかも知れないな。
内容はというと
「拙者親方と申すは、お立会いの中にご存じのお方もござりましょうが、お江戸を発って二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を上りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪いたして円斎と名乗りまする。
(中略)
平仮名を以て「うゐろう」と記せしは親方円斎ばかり。もしやお立会いの中に、熱海か塔ノ沢へ湯治にお出でなさるか、または、伊勢参宮の折からは、必ず角違いなされまするな。御上りならば右の方、御下りならば左側 (以下略)」
と前口上があって、ガマの油売りと同じように江戸時代だから自分で人体実験して(或いはしたように見せかけて)効能、さも効き目があるかのように徐々に早口になって立て板に水の流れるが如く(随分練習したであろう)舌先三寸で売らんかなの早口言葉オンパレードのセールストーク。
だが、そこでひっかかった。
いや、どうも言えぬは、リアリティーがいまひとつ。
伊勢神宮はあるだろうが、その参道に本当に欄干橋虎屋なる店があったのかないのか?
そこで実際に、お伊勢さんに行って、御上りならば右の方、御下りならば左側に果たして「虎屋」なる商い店は実在するのか?そして「ういろう」とは現存するのか?を裏付け実地調査すべくJRの旅へと。
そして道中、ふと目に留まった参宮線のホームの看板に「?」という駅名?
なあんだよく見たら、「つ」の下に「津」と小さい漢字で書いてたから見間違うところだったじゃないか「?」の駅名なんてある筈がない。(ホッと一安心)
で、ついでにもうちっと先っぽに行くと、「松阪」駅。
ここに来るまで松阪牛を「まつざかぎゅう」と思い込んでいた。ところがぎっちょんちょん、駅の看板には「まつさか」と濁っていないのである。
そうか、もともとは「まつさか」で、牛にビール呑ませて濁ったから「まつざか」になったのか・・・・・・。
その辺の真偽を探るべく、いざ現物を。と、松阪牛のビフテキを注文する。
メニューを指し「これをミディアムレアーで焼いてください」と。
女給さんが「はい、まつさかうしのミディアムレアーでございますね」と、やはり濁らない。
やっぱり現地調査して良かった。正しい読み仮名「まつさかうし」これで駅とブランドは一致、一件落着。めでたしめでたし。
出てきた血の滴る赤身ビフテキ。こころなしか、女給さん上気してる。
NYカットステーキほど分厚くない赤身が鉄板の上で、肉汁と甘い香り、耳にジュージューと効果音。まったりと湯気が漂っている。
同じ鉄板の上に乗っかってるガロニもクレソンはじめ人参、男爵、玉葱、ブロっこ、とお馴染みの顔ぶれ。
ここでモノローグ
「嗚呼、お伊勢さんのげくうと内宮お参りできて、こんな美味しいものをいただけてしあわせに感謝」
いざ、左手の4本爪のフォークで上から赤肉をスパイクし、右手で削ぎ斬り落としていく。
おもむろに左手のフォークを口に・・・・・・。
口に広がる五感のパラダイス
「う~ん、やわらかい。ヒレ肉のようなまろやか・・・・・・」
もう、細かい事はこの際どうでもいい。
(じゃんじゃん)
編集後記:
いかんなぁ、まだ読者に媚びようと短絡表現の稚拙。
焦らずじっくり、誰に読まれ誰に何をかかれてもいいように自分が気に入ったものを書くようにしたいものだ。
えっ?単にビフテキが喰いたかっただけじゃないかって?