結局、僕は間に合わなかった。

 

 

その日の夕方、母から「そろそろ…」という旨の電話があった。

僕は職場にいた。

 

 

仕事はそのままにして、すぐに家に戻った。

車で30分ほどだった。

 

 

夕方のラッシュ時とかぶっていつもより時間がかかった。

父の家の駐車場に着くと、父の家まで思い切り走った。

勝手口から勢いよく入り、すぐに父の部屋に行った。

 

 


そこには静かにベッドに横たわる父と、その傍に、数人の身内の方が集まっていた。

 

 

母もいた。

 

母は僕の顔を見ると、僕の名前を呟き

「…間に合わなかったよ」

と涙目で僕に言った。

 

 

父は数日前からすでに鎮静剤で眠っているだけの状態だった。

「もう目を覚ますことはない」と数日前から言われていた。

 

僕の中ではもう覚悟ができていた。

 

 

僕は父の髪を撫でて

「お父さん、ありがとう。」

と言った。

 

父の身体はまだあたたかかった。