20年間ほどの話です。
食道静脈瘤が原因で大量に吐血した父は救急車で運ばれ、そのまま緊急手術が行われた。
手術中、僕と母は不安な想いのまま待合室で待っていた。
かなり長い時間、待合室で待っていた気がする。
そして、手術後。
手術室から出てきた父はストレッチャーで僕らがいる待合室まで来て、
「おぉ来てたのか。まぁ大丈夫だから、心配するな。」
とあっさりした表情で短い言葉を残して病室に入っていった。
その様子から、単純な僕は「よかった本当に大丈夫で大したことはなかったんだね」と母と話した。
ちょっと考えればわかりそうなことだけど、食道静脈瘤が原因で大量に吐血して大丈夫なはずはない。
この時、父はどうにか一命を取り留めたような状況だった。
僕らに心配をかけまいと無理をしていた、ということは随分後になってわかった。
そのまましばらく入院し、最悪の事態は乗り越えることができた。
そして退院後。
父はあれだけ毎日大量に飲んでいた酒をやめた。
1日に何箱も吸っていたタバコもやめた。
「一度やめると言ったらやめる。」
と、それからは酒もタバコも一切口にしなかった。
そして、ついには生き甲斐である仕事もやめた。
父が立ち上げた会社は一代で終わることになった。
この時、父は55歳だった。