今後の朝鮮半島における核問題を考える場合、基本的には3つの流れを想定することができる。第一は、中国のコミットメントが徐々に強くなり、北の取り込みに成功し中国ペースのシナリオが強くなっていくことである。第二は、米国が積極的に問題解決に乗り出し、朝鮮半島の非核化が進み、東アジア地域の安全保障問題が進展することことである。第三には、北朝鮮と韓国の連携が一段と強まり、朝鮮半島の統一問題を含めて南北朝鮮主導による問題解決が主流になっていくことである。第四は、全体通して交渉がうまくいかず状況は停滞しそれぞれの国の間で不信感が強まり、現状のままの状態が続き進展しないと言う事態である。もちろんそれぞれは単純でも四者択一でもなく、相互に絡み合って展開していくと考えるのが現実的であろう。
目下の動向を見ると、第一の中国イニシアチブが強まっているように見える。シンガポールサミット時における金正恩への中国特別機の貸与、三度目の中朝首脳会談における「血で結ばれた中朝同盟」の復活、中国の後ろ盾の強調、北朝鮮の改革開放転換の支持などがそれである。
しかし6年前の金正恩政権の誕生以来、噂ではあるが、中国は張成沢の失脚、処刑に絡む金政権の転覆をはかったこと、国連における北朝鮮制裁決議等への同調及びその制裁行為を進めた。これらによって、金正恩は中国政府に対する不快感と不信感を強めていた。もちろん今回の中国からのラブコールのいくつかを北朝鮮当局がおとなしくそれを受け入れると言う事はあり得る。しかし、これまでの経緯を見れば金正恩が直ちに中国政府の言動を信用するようになるとは判断しがたい。仮に中国の言動に従っているように見えたとしても、そのことでただちに中国イニシアチブで事態が展開していると言い切れるかどうかは疑問である。
中国にとって望ましい朝鮮半島状況とはどのようなものであるのか。もともと朝鮮半島は中国にとってはある意味で緩衝地帯、バッファーの存在であった。38度線を境にしてアメリカの軍事力が直接存在している以上、韓国と北朝鮮が対峙している状況こそ、中国の安全保障にとって有利であると考えてきた。1992年以降は、国交正常化させた韓国との間で中国は徐々にプレゼンスを増大させ、朝鮮半島全体を中国の陣営に巻き込もうとしてきたと言える。しかし近年のサードの韓国配備をめぐるトラブルから韓国との関係はぎくしゃくした状態になっている。その上北朝鮮との関係が悪化し、その上で米国のプレゼンスが増大した場合、北東アジア安全保障環境において中国が不利な状況に置かれると言うことになる。その意味では北朝鮮を自らの側に引き止めておく事は、中国の安全保障体制の維持にとって極めて重要であろう。しかしこのような状況は北の非核化を進めようとする韓国、アメリカ、日本などにとって容認できるものではなく、さらには北朝鮮もこれ以上の軍事力増強の負担を避け、経済発展に踏み出したい意向を持っており、韓国の仲介による米国との関係の改善は望むところである。したがって北朝鮮自身が現状維持を望んでいるかと言えば、必ずしもそのように考えているとは限らない。もちろん北にとっては韓国、米国、さらには日本からの経済資源をより効果的に受けるために、中国からの経済支援をカードとして使う事は十分に考えられる。中国は北にカードとして使われるのか。このためには韓国との強い連携が必須になる。それとも中国が強いプレゼンスを発揮して北をカードとして使うのか、この点が注目される。
第二の米国イニシアチブによる事態の進展の可能性は、米国の軍事パワーが北にとっては最大の脅威であり、米国のイニシアチブで事態が展開する可能性は十分にあり得る。しかし北の米国に対する強い不信感と体制崩壊に対する強い警戒心のために、一方的に米国ベースで事態が進むことを北は望まないであろう。そのため上述したように、北が中国をカードとして使いアメリカとのバランスを取ろうとするかもしれない。
米国の北朝鮮に対する戦略的な狙いは何か。無論直接的には北の核開発を放棄させ非核化を実現し北の脅威を取り除き、北東アジア地区の平和的な安定を確保することにある。北の軍事的脅威を取り除きアメリカと平和共存の関係を確立するために、平壌を訪問したポンペイオ国務長官は北に対してベトナム方式を提唱したと言われる。つまり改革開放政策の推進と、米国との国交正常化を合わせることによって北ベトナムの体制が安定しかつ経済が反映するという枠組みでありこれを強く期待して提言したと言われている。
長期的に見れば、朝鮮半島における米国の狙いは、台頭する中国の東アジアへの影響力の増大を阻止し、ひいては太平洋地域における米国のイニシアチブを確保するために、北朝鮮の体制を保障し韓国との平和共存の枠組みを構築し、そこに米国の影響力を強める事にあると思われる。もちろんその事は中国にとっては望ましくないシナリオであり、このような流れに進むことを阻止する行動に出るであろう。
長い歴史の中で朝鮮半島問題を考えるならば、大国間のパワーゲームに翻弄されてきた朝鮮当事国の悲劇的な動向を見ることができる。日清戦争然り、朝鮮戦争然りである。今回も米国と中国という大国に挟まれて、米中の利害対立に振り回される可能性がないわけではない。しかし以前の状況と明確に異なる事は南北朝鮮自身が主導的に動くことのできる条件が生まれてきていることである。
この点を踏まえて見ていくと、現在のところ北が重視している事は、米国に傾斜していくのか、それとも中国の懐に戻るのかと言うオプションよりも、韓国との関係を深めることにあるようだ。今回の米朝サミットの実現は2月の平昌オリンピックを重要な契機として文在寅韓国大統領のイニシアチブよって進められた事は明らかである。金正恩北朝鮮委員長は文在寅の呼びかけに応じ、南北の対話交流を進めると同時に米国との対話に踏みこむことを決断した。北朝鮮と米国との交流を考える上でも文在寅韓国大統領がしばしば橋渡しをしていることがわかる。さらに米朝サミット後を見ても、南北朝鮮の交流はスポーツにとどまらず、経済、文化面などでも一段と活発になっている。しかも金正恩委員長が米朝サミット後も経済発展に強い関心を持って国内各地を視察していると言う情報がメディアによって伝えられている。
さらに注目すべきは文在寅の行動である。彼は、サッカーワールドカップでロシアを訪問してプーチン大統領と会見し、朝鮮半島非核化問題の協力と朝鮮半島統一鉄道とシベリア鉄道連結によるロシアと韓国の経済発展を提唱し、支持を求めた。そしてロシア訪問後まもなく、文在寅大統領はインド訪問し、経済の連携を強化することで合意した。朴クネ前大統領が中国との関係を強化し経済の立て直しを測ったのと対照的に、ロシア、インドとの関係を強化し、加えて米国、日本との連携を進めるという多国間協調外交を展開している事は注目すべきであろう。
以上のことから、今後の朝鮮半島情勢を見通すならば、(1)非核化のプロセスが具体的にどのように進展するか、(2)南北朝鮮の平和共存を体制的に保障する枠組みがどの様な形で作られるかがポイントになる。(1) は北と米国との直接の交渉が基本であるが、北の背後にある中国がどのような影響力を発揮するかも、交渉を左右する大きな要因とかんがえられる。(2)では、まず休戦状況にある朝鮮戦争の終結宣言と関連各国による平和共存の保証を宣言することになるだろう。その上で北朝鮮と韓国の間でどのような形で双方の体制を保障することができるかと言うことになる。朝鮮戦争以来これらの問題は基本的には朝鮮半島に関わる大国すなわち米国、中国、ソ連(時に日本も含めてに)よって議論され事実上決められてきた。しかし今日の状況は上述したように南北朝鮮の主体的な行動が重要な意味を持っていると判断される。したがって今後の動きを見る場合、北朝鮮と韓国の関係が(1)(2)と並行して別個どれほど進展するか、それらが(1)(2)にどれほどのインパクトを与えることができるか、東アジア国際秩序の形成の上で大いに注目すべきところである。