2017/2/15投句分
碧眼のソーラン節や渡り漁夫
渡り漁夫納豆混ぜる指太し
泣きぬれる啄木の浜渡り漁夫
五年目の今年息子と渡り漁夫
しんせいをくわえ網引く渡り漁夫
しんせいの火を分け合って渡り漁夫
遊郭の朝眠たげな渡り漁夫
遊女からもらい泣きする渡り漁夫
塩辛に醤油をかける渡り漁夫
学生へ意見している渡り漁夫
白系の子を産む遊女渡り漁夫
娘から届いた手紙渡り漁夫
母からの胸のお守り渡り漁夫
浴室のソーラン節や渡り漁夫
合唱のような鼾や渡り漁夫
渡り漁夫娘想って泣き上戸
渡り漁夫お櫃の飯の減る早さ
泣き顔の少年初の渡り漁夫
黙々と一人手酌の渡り漁夫
猥談の間の沈黙や渡り漁夫
しんせいの煙の行方渡り漁夫
かあちゃんを恋しくて哭く渡り漁夫
野良猫へ打ち明け話渡り漁夫
銀鱗の照り返す海渡り漁夫
渡り漁夫どんぶり飯と生玉子
味噌汁を飯へとかける渡り漁夫
渡り漁夫五徳ナイフを自慢する
ロケットの振袖覗く渡り漁夫
網元を求め流れる渡り漁夫
野良猫の見上げる雲や渡り漁夫
フーテンの寅を気取って渡り漁夫
夕空の口笛波へ渡り漁夫
渡り漁夫なりゆく日々や奥歯噛む
渡り漁夫網引く指の奥歯噛む
2017/2/17投句分
渡り漁夫なる祖父の来た浜の町
網元の子の爪渡り漁夫の爪
よく喋る欠けた前歯や渡り漁夫
渡り漁夫「一握の砂」忍ばせて
網元の娘のえくぼ渡り漁夫
浅黒き目尻の皺や渡り漁夫
縄のれん越しの手酌や渡り漁夫
渡り漁夫網引く指の割れた爪
渡り漁夫次の漁場へ向かう朝
渡り漁夫大漁祝うこぶしかな
隅の墓無縁仏なる渡り漁夫
渡り漁夫連絡船の窓の雨
網元の女将の声や渡り漁夫
漁終えて渡り漁夫らが戻る道
渡り漁夫明けの明星仰ぐ道
渡り漁夫揺れる小舟の網引く手
銭湯の帰りの下駄や渡り漁夫
浅黒き半裸の渡り漁夫の胸
息揃え網引く声や渡り漁夫
連絡船待つ初めての渡り漁夫
函館の渡り漁夫らの混む列車
渡り漁夫連絡船を待つ眉間
腕相撲何度もせがむ渡り漁夫
女房の逃げて独りの渡り漁夫
渡り漁夫顔青ざめる博打かな
渡り漁夫待ったばかりの将棋かな
日々痩せてゆく渡り漁夫顎の皺
握り飯追いかける目や渡り漁夫
渡り漁夫潮の臭いのする寝床
未明から揺り起こされる渡り漁夫
金星を伝えるラジオ渡り漁夫
空腹をなだめて眠る渡り漁夫
染み付いた潮の臭いや渡り漁夫
歯を鳴らしうなされている渡り漁夫
渡り漁夫逃げた女房への未練
渡り漁夫痛む体を騙しつつ
いつの日か夢掴まんと渡り漁夫
渡り漁夫雨下着まで濡らしゆく
渡り漁夫過去ありそうな頬の傷
つらい日々励まし合って渡り漁夫
渡り漁夫働いて寝て働いて
渡り漁夫月月火水木金金
眩しげに女学生見る渡り漁夫
居酒屋の女将を口説く渡り漁夫
2017/2/18投句分
塩振って麦飯喰らう渡り漁夫
体温を奪う渡り漁夫の寝床
体力の失う日々の渡り漁夫
海峡と陸路はるばる渡り漁夫
2017/2/22投句分
渡り漁夫濡れた体のまま眠る
渡り漁夫乾かすゆとり無き下着
車座の連絡船の渡り漁夫
酔って寝る連絡船の渡り漁夫
渡り漁夫水平線を見つめをり
渡り漁夫燗酒あおる津軽弁
デッキから見る郷の山渡り漁夫
銅鑼響くデッキの揺れや渡り漁夫
渡り漁夫無言で食べる握り飯
渡り漁夫函館港の曇り空