兼題「鷹狩」の人選・並選から好きな句を十句選ぼうとしたのですが、十句に絞り切れませんでした。
お知り合いが多くなってしまったのは、お知り合いと知ってその句を好きになったのか、元々感性の好みの結果お知り合いなのかわかりません。
 
鷹狩の夜身籠りし寵姫かな ラーラさま
武家社会だなぁって感じます。きっと殿様が興奮しちゃったのかなぁ。奪われる命と新たな命の対比も感じました。

鷹狩の野辺に一揆の碑の多し 砂山恵子さま
鷹狩の情景ではなく、場を描きました。歴史の重さを感じます。鷹狩の際は農民の都合も考えず、勢子に徴用されます。反発も多いだろうし、処分も厳しそうです。

踏切の裏鷹狩の野へつづく 糖尿猫さま
これも鷹狩の場を詠んでいます。映画の導入部のような情景です。現代の鷹狩から何かを訴えようとするドキュメンタリータッチな映画でしょう。次のシーンは、きっと妙齢の鷹匠の登場です。

鷹狩や神棚に盛る白き飯 さとう菓子さま
鷹狩という命が命に対して命を奪うことを強いる神聖な行為、鷹匠はきっとその不条理に気付いています。事故が無いように願う思いと、獲物への感謝と鎮魂の祈りから、鷹匠の朝は始まるのではないでしょうか。

鷹狩や太陽に爪痕の黒 さるぼぼさま
まさに大胆な比喩ですね。黒点は鷹狩の際、鷹が獲物として掴んだ痕であると思わせる句で、力強さが感じられます。その時の鷹は、映画アバターで描かれたトルークのような、または、インドの伝説の鳥、ガルーダのような巨鳥であったと思います。

鷹狩や行き交ふ草履二千足 まゆ熊さま
この草履の持ち主の多くは、勢子として急きょ徴用された農民であり、後に一揆を起こすであろう人達だと思うのです。田を耕したり、苗代など準備の多い時期に駆り出して、農民を疲弊させる怨念の草履かと。もちろん、裸足で駆り出された人数はその数倍あるでしょう。

鷹匠の目尻に爪の痕ひとつ 小川めぐるさま
やはり目尻を選んだのは素晴らしいと思います。腕であれば平凡です。この傷は生々しいものではなく、古傷で深い傷であって欲しいと思います。その鷹匠の鷹は殊のほか気性が荒く、他の鷹匠では扱えない鷹で、鷹匠は仲間のリーダー的存在であって欲しいと思います。

鷹狩の腕に皮を巻くしじま 松尾千波矢さま
時間を切り取った一句です。しかも静寂と聴覚に訴えています。これから激しい鷹狩が始まる準備として、気持ちの高まりを感じます。この鷹匠は、気の強そうな女性であってほしいですね。ベテランでありながら、容色の衰えを見せない負けず嫌いな女性を想像しました。

鷹狩や解き放たれて空と海 正丸さま
実に開放感の感じられる一句です。鷹の目線で詠まれた一句ではないでしょうか。どこまでも青い空と海、本能のままに狩りをすることを許された鷹の喜びを感じます。しばらくは狩りをせず、広い空を十分に堪能したいという気持ちが伝わってきます。

白神の光を浴びて鷹放つ 津軽わさおさま
白神山地の清らかさを感じます。この大自然の中、多くの動物達の弱肉強食の戦いがいつも行われているのです。春の津軽は雪解けの季節です。岩木川に流れる水量も増しているに違いありません。残雪から照り返す光と、雪解けの増水した川の光の中、鷹は飛んでいきます。

懐の鶉を放つお鷹狩り 耳目さま
鷹狩の誰も見ていない場面へ注目した一句です。あらかじめ状況により放つ準備をしていたのでしょう。いつ放そうか、鷹は気付くだろうかなど、家来たちの焦燥感が感じられます。重臣は、この準備を知っているはずです。何か合図を送ったかもしれません。