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しかし、この写真だけでは野上だということを確認することはできない。
ベンツに乗っている男は、大きな黒いサングラスをしているので、顔の特徴で判断するとこはできない。
「新開さん、どういうことでしょうか? この女は間違いなくベンツの女です。似ているというよりも本人ですよ。安永恵理子・・・偽造ナンバーのベンツ・・・どちらにしても・・・」
「雪ちゃん・・・どちらにしても、話を聞くしかないな。岩ちゃん・・・この女は、どこに住んでいるんだ?その姉さんの・・・三浦真紀という女から聞いていないか?」
「えぇ、宇都宮ということは聞いていますが、その妹は何かの事件に関係しているのですか? もしかしたら、例の足首の?・・・運んだらしい車・・・ということですか?」
「確定はできないが、その可能性が大きいということだよ。宇都宮か?・・・で、住所は知らないのか?」
「はい、宇都宮としか・・・でも、三浦真紀さんに聞いてみたら分かると思います。それと、電話番号も分かるはずですよ。たまに、連絡していると言っていましたから・・・早速、電話して聞いてみましょうか?」
「いや・・・名前が分かっているし、宇都宮ということで、栃木県警に照会してみる。うかつに、電話して聞いてみても、親族なら余計なことを話してしまうかもしれないし、その三浦真紀という女もグルかもしれない。今は、余計なことをしないほうが安全だな・・・それと、その携帯の写真を俺の携帯に移してくれないか? どうも、俺は携帯の使い方がわからん・・・頼むよ・・・」と、新開刑事。
「・・・三浦さんがグル? そんなことはないですよ。そんなことは・・・写真を移す? 僕も分かりません・・・雪ちゃん、詳しいだろう頼むよ・・・」
「・・・新藤君・・・頼むよ・・・」僕も、携帯から携帯への写真移動のやり方は知らなかった。
新藤は、車の知識は当たり前であるが、携帯の使い方についても、素晴らしいものを持っていたのだ。
それからの展開は、予想以上に速かった。
新開刑事が、栃木県警に照会すると、安永恵理子の所在が分かったのである。
栃木県宇都宮市新町二―二―八 マンションドエル 一〇〇〇八号室
安永恵理子 30才
株式会社 チェリーファイナンス勤務
さらに、そのチェリーファイナンスという金融会社は、かなりの違法な高利で貸し付けているという噂の会社であり、過去にも、そこから融資を受けた会社の経営者が自殺したということも分かった。
栃木県警としても、つねにマークしていた会社であり、その実態も把握しようと動いていたことも分かった。
社員数は五人。その代表が、野上幸則なのだ。
これで、間違いなく、野上幸則と安永恵理子の線はつながった。
安永恵理子の調査については、例の殺人事件の関係もあり、日光南署が担当することになった。
今野平太郎刑事・・・スッポンの今野刑事が、安永恵理子の身辺調査をすることになった。
その日の夜。今野刑事から連絡があった。
「雪田さん、何ともおかしな展開ですね。登場人物が線でつながっている。野上、安永、それと、行方不明の中川・・・とにかく、こちらは、ベンツの線から調べていきますよ。もしかして、ベンツを運転していた男が野上だとしたなら、全ての点と線がつながります。さっきも、新開さんと話したのですが、この二人を調べてみたなら必ず何かが出てくると思います。明日、そのチェリーファイナンスに行くことにしました。しかし、あの岩崎弁護士が、こんなことのヒントになるとは・・・」
「えぇ、岩崎弁護士がいなかったなら・・・見合いをしていなかったなら・・・ということです。たまには、何かの役にたつこともありますよ・・・ハハハ・・・」
「これで、足首の件も関係したとなると解決は早いのですが・・・野上のほうは、新開さんに任せてあります。こっちは、安永を追及していきます。偽造ナンバーの車に乗っていたということで、逮捕することもできますからね。しかし、足首と手の人物は不明ですが・・・では・・・」
一方、京都中央署での、中川昭義の死体の犯人捜査で、思わぬ展開となっていた。
中川昭義の所在が分かった。京都中央署の刑事が、中川のアパートへ来たのだ。
住民票の移動を調べていて、多摩市の住所を突き止めたのだ。
そして、大家さんに会ったことで、多摩西部署が捜索しているということが分かったのだ。
京都中央署の刑事たちは、新開刑事に会った。
「京都中央の桑原といいます。やっとですよ・・・たどり着きました・・・」と、中川のことを話した。
「そうでしたか・・・こちらも捜していたのですが、被疑者ということには出来なかったので、全国の警察へ捜査連絡をしていませんでした。私のミスです。しかし、殺害されていたとは・・・畳の中に血痕があったので、もしかしたら思っていたのですが・・・京都でしたか。それで、捜査はどうなっていますか?」
「芳しくありません。目撃者がいないのと、殺害したもの・・・おそらく、何か鈍器のようなものですが、見つからないのです。まる二日、川の中も捜索しましたが・・・」
「そうでしたか。こちらも、中川の知り合いや友人をあたろうと思っていたのですが、誰もいないのです。唯一、アパートの保証人になっている、野上という男に聞こうとしていたのです。働いていた木村自動車解体からも何も出てきません。聞くなら野上しかないと思っています。それと、野上には、死体遺棄の疑いがあるのです。いえ、まだ、確認はとれていませんが、ご存知かと思いますが、日光の足首、横浜の手・・・の殺人死体遺棄事件の件です。どうやら、それに野上が関係しているのではないかと?」
「あぁ、あの事件ですね。覚えています。何やら不思議な事件ということで、京都でも話題になりました。ということは、その野上という男と中川が関係しているということにもなるかもしれませんね?」
「否定はできないと思います。野上を任意でひっぱってくることになっています。それが、これからなのです。何かの糸口になるといいのですがね・・・」と、新開刑事は言った。
京都中央署の桑原刑事は、中川のアパートを見聞してから京都へ戻った。
これからは、京都中央署との合同捜査になるかもしれない。
これから、野上幸則の自宅へ向かうことになった。
新開刑事以下、四名だ。
事前に、野上の自宅近辺に張り込んでいた刑事からの報告で、今日は、一歩も外へ出ていないという。
大きな高級マンションである。地下には駐車場があり、そこにも刑事が張り込んだ。
マンションの管理人の話によると、出かける時間も帰ってくる時間も不規則だという。
野上の車も、確認されていた。その駐車場には、BMWの750iLという高級車が止まっていた。
そのBМWのナンバー照会でも、野上の車だと確認できた。
ベンツではない。しかし、ここにベンツがなくとも、どこかに置いてあることは容易に想像できる。
新開刑事は、オートロックのインターホンを鳴らした。
「はい、なんでしょうか?」
「多摩西部署の新開といいますが、野上幸則さんにお話を聞きたいことがあります。ちょっと宜しいですか?」
「警察の方? 何でしょうか? これから出かけるところなのですが、下でお待ち願えますか?」
「えぇ、玄関のところで待っています。では、下で・・・」
特に、あわてることもない淡々とした受け答えである。
少しすると野上が玄関に現れた。野上は、刑事だと分かると一礼した。
「私に何の用事でしょうか?警察の方に尋ねられる覚えはありませんが・・・もしかして、うちの社員のことでしょうか? 以前、警察沙汰を起こして店を辞めた男がいますが、そのことでしょうか?」
と、淡々としている。さすがに、経営者ということで、身なりはきっちりとしていた。
高級なスーツと靴だと誰の目にも分かる。
「いぇ、野上さんの会社のことです。ちょっと時間を下さい・・・宇都宮のチェリーファイナンスのことですが・・・」と、新開刑事も静かに尋ねた。
「チェリーの? チェリーなら栃木の警察ではないのですか? 何故でしょう?」
少しだけ目の奥がするどくなっていたようだ。
「安永恵理子さんについてです。あなたの会社の社員ですね?」
「安永・・・あぁ、うちの社員ですが、それが何か?」
「実は、安永恵理子さんが、偽造されたナンバーの車に乗っていたところが写っていたのです。それで、ちょっとお話しをと思いましてね・・・日光市内ですが・・・」
「偽造ナンバー? 日光? さて、何のことでしょうか? 私とどういう関係ですか。私は記憶がありませんが・・・そういうことなら、安永に聞いて下さい。 時間がないので・・・」
「もう少しですよ・・・野上さんと一緒に乗っていたのではないですか?黒のベンツですが・・・」
「黒のベンツ・・・あぁ、安永のベンツでしょうか? 彼女もベンツに乗っていますよ。でも、偽造ナンバーとは・・・確か・・・何でもナンバープレートをいたずらされたので、代わりのナンバーを申請していると聞いたことはあります。そのナンバーじゃないのですか? 偽造・・・偽造なんかする必要はないと思いますよ・・・調べたなら分かると思いますが・・・」
「いたずら・・・そうではないです。完全な偽造ナンバーです・・・」
「彼女は偽造するなんて人ではないですよ・・・私が保証しますよ。何かの間違いではないですか?その偽造したナンバーというものを見せて下さい・・・警察もいい加減だから、ミスすることもあるのではないですか・・・」と、かなり強気な態度だ。
新開刑事は、その偽造ナンバーの写真を取り出した。
それを、野上はゆっくりと見た。
「刑事さん・・・よく、見て下さいよ・・・ナンバーの一番右の数字が欠けていますよね。確かに、一見すると数字の1に見えますが・・・上のほうを見て下さい。うっすらと見えませんか? これは7です・・・彼女の誕生日の数字なんですよ・・・ほら、417じゃないですか。7のところが誰かにいたずらされて変形していたのです。その連絡は聞いていますよ。私が買ってやった車なので間違いはありませんよ・・・」
「・・・7・・・?」新開刑事は、くいいるように写真を見た。
確かに、ナンバープレートの右端は変形している。誰かが故意に曲げたという感じがした。
そして、かなり汚れているということも分かった。
だから、数字の判別を人の目でしたということだったのだ。
スピード違反のような赤外線の撮影ではないので、ナンバーも乗車している人も確実に写っているということはない。
それが、ミスをした盲点だったのだ。
女の顔が写っていたというのは、助手席で前をしっかりと見ていたから画像として確認できたのだ。
新開刑事は、野上に少し待っていて下さいと合図して、多摩西部署に電話をした。
そして、ナンバープレートの照合をしたのだ。すぐに、折り返し電話が鳴った。
「何? 間違いないのか? 間違いないのだな・・・」と、携帯のボタンを強く押した。
「野上さん・・・間違いないようです。安永さんの車だと確認できました。新しいナンバーも申請されていますね・・・間違いありません」
「刑事さん・・・だから、言ったではないですか? もう、いいですか? 仕事がありますから・・・」
「えぇ、また、何かあったなら・・・・」
と、刑事たちは、野上の後ろ姿を見送ることになった。
何ということだ。日光南署の誰かが大きなミスをしたことになる。
その後、そのナンバープレートの写真を精密に拡大してみたところ、確かに、汚れていてナンバー自体が曲げられていることも確認できた。刑事が思い込みでナンバー照会したのだということも発覚した。
さらに、今野刑事もチェリーファイナンスの安永恵理子に会い、そのベンツも確認したが、何の問題もなく新しいナンバープレートに変更されていたということだ。
さらに、所轄の警察へ被害届けも出されていたのだ。
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