■勝汰章の著作刊行本
「笑顔になるための246のことば」
悲しみを乗り越える時に・・・
夫婦/恋愛/会社、仕事/子供/家族/友情、信頼/お金/病気、事故/生と死/挫折/セックス/男と女/今/
2030年までの運勢鑑定付
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「茂さん、あの人は誰なの?」と、女将が怪訝な顔で尋ねる。
「ちょっと知り合った人です。さっきも、役場で会ったのでランチを食べに来てほしいと・・・」
「最近来た人でしょう?」
「はい・・・らしいです?詳しいことは知りませんが・・・」
「名前は?」
「確か・・・夏木さんとか・・・」
「夏木さんね?」と、言うと客への対応に戻った。
忙しいランチも終わり、やっと一息つけることになった。
「美幸・・・お母さんは、用事で役場に行かないといけないから後は頼んだよ」
「役場へ?」
「ちょっと行ってくるわ・・・帰りは遅くなると思うから、皆で協力してね」
また、女将は出かけて行く。警察だったり役場だったりと忙しい人だ。
「美幸さん、少しだけアパートに戻っていいですか?」と順子が尋ねる。
「いいけど・・・何?」
「化粧道具を忘れてきたみたいなのです」
「そう、今夜は忙しいような気がするから、出来るだけ早く帰ってね。あっ、茂さんが送っていけばいいのよ・・・」と、言うことで僕が順子のアパートへ行くことになった。
車の中で、順子は何故か寂しそうな顔をしていた。
「何かあったの?」
「聞いてくれますか?山田さんなら安心ですから・・・」
「力にはなれないかもしれないけど?」
「聞いてくれるだけでいいのです。昨日、お話した彼氏なのですが、この街に来ることになったのです。奥さんとは離婚することが決まったのです」
「それはよかったじゃないか。何で寂しそうな顔をしているの?」
「違うのです。違う・・・もう、嫌・・・」と、泣き声になった。
「順子さん・・・何があったの?泣いていたら分からないよ」
僕は、一旦車を止めた。
「離婚は嬉しいのですが、私との結婚は出来ないということなのです」
「連絡があったの?本人から?」
「伯父様からです。理由は分かりません。でも、この街に来て警察の外郭団体の仕事をするというのです。叔父様から諦めてくれと言われたのです。理由も分からないままに・・・」
「伯父さん?あぁ、署長さんのことだね。でも、どうして急に?」
「だから理由は教えてくれないのです。昼間にそっと、彼の携帯に
メールしてみたのですが、あて先不明で戻ってきました。昨夜も、友人にメールしたのですがメールが使えないのです。電話をかけてみたら大丈夫だったのですが、後から高額な請求が来るという電話がありました。この街は一体どうなっているのでしょうか?まるで、外部と遮断されているようで・・・」
「そうなんだよ。この街から他の町への電話は高いし、メールは街の中だけなら使える。それは後で分かったことなんだけど、それはそれとして、結婚出来ない理由を知りたいよね?」
「はい・・・叔父様にもう一度聞いてみたいのですが?」
「分かった、化粧道具を取りに行ってから警察に行ってみようか?」
「大丈夫ですか?」
「うん」
順子の部屋へ行き、そして警察へ着くと署長室へ向かいドアをノックした。
「珍しいな。山田君と順子ちゃんか?何の用事かな?」
「叔父様・・・どうして結婚してはいけないのですか?」
「そのことか・・・駄目なものは駄目だ。まだ、早い・・・」
「署長さん、早いということは何でしょうか?」
「早いということだ。あの男と女房を離婚させたのは俺だが、あの男には問題がある。順子の夫としての資格はない。そういうことだ」
「叔父様・・・教えて下さい。何も分からないままに・・・お願いしますから・・・」
「仕方ないな。実は、あの男は他にも女がいたんだ。その女と結婚しようとしていたと思う。俺の部下が調べて分かったことだが、そんなことなら離婚させるんじゃなかった。俺が女房に慰謝料を払ったのだからな。順子のことを思ってしたことが裏目になった。もっと、早く確認できていたなら・・・部下のミスだ」
「彼に女?本当ですか?」
「あぁ、間違いない。クラブのホステスだ。五年にもなるらしい。俺は、その男にこの街で働くことは言っていたのだが、そのクラブホステスとなら来てもいいと言う。それで、俺は、そのクラブホステスに会って、その女も街で働くようにした。金はかかったが、二人とも了承してくれた。この街で働くことが出来るならそれでいいのだ。この街のために働くなら・・・」
「叔父様・・・どうして彼も働くのですか?私の近くにいるということでしょう?そんなのは嫌です。そんな男と同じ街で暮らすなんて・・・」
「署長さん、順子さんの言うとおりですよ。何で働かせるんですか?」
「順子のためだ・・・いずれ分かる。少しの辛抱だよ。さっ、仕事があるから帰ってくれないか。それと、山田君、夏木という男には注意しなさい。君の友人としては立場が違う。分かったな?」
僕と夏木さんのことは警察では知られているのだ。夏木さんには何があるというのか?
「順子さん、仕方ないよ。署長が言うんだから、諦めるしかないと思うよ」
「えぇ、女がいたなんて許せない。ただの欲求のためだけに私と付き合っていたと思うと・・・」
「しかし、いずれ分かるということは何なのだろうね?」
「さっぱり分かりません。でも、叔父様の言うことに従うしかないと思います」
順子は諦めようと必死であったに違いない。帰りの車の中でも下を向いたままで無言だ。
僕は、そっと順子の手を握ってみた。順子も軽く握り返してくる。
人気のない裏道で車を停めた。周りを見渡して順子の口にキスをした。
順子の体は小さく震えていたが、しっかりと僕の腕をつかんでいた。
何の話もない。ただ、キスを続けていた・・・
とうとうこういう関係になってしまった。不思議と美幸を裏切る気持ちの後悔はなかった。
美幸とは強引な結婚であったし、夫婦として生活していくならば愛情が芽生えると思っていたが、順子が現れたことで美幸への愛情は薄れていたのかもしれない。
とうとう一線を越えてしまった。
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