大越刑事が、しばらくの間、話しをしていた。
この女が、ビビアンであろうか?年のころは、例の井上八千代と同じぐらいだと思う。
化粧も何もしていない顔であった。
そうすると、ビビアンは、大きな声を出して、大越刑事と何やら言い合いをし始めた。
タガログ語なので一体何を言っているのかは全く分からない。
かなり、激しいやりとりである。大越刑事は、浅田保夫が殺されたということを話したようだ。どうやら、その言い合いは、元の旦那の浅田が死んだということにも関係しているのだろう。
かなり、気性の荒い女であった。
すると、少し落ち着いたようで、僕たちを部屋の中に入るように言う。
大越刑事が「金田親子のことは、知っているが、マニラのどこにいるのかは知らないというのです。ただ、偶然に会っただけだと・・・私は、そんなことはないだろう・・・教えてくれと言うと、何か、急に怒り始めたのです。何がなんだか?・・・それで、場合によっては、署に同行してもらうというと、静かになったのです。何か隠していると思います?・・・」と、いいながら家に入った。
そして、大越刑事が、優しく話し始めた。
ビビアンは、それを静かに聞いている。
大越刑事の話が終わると、ビビアンは、落ち着いたかのように、ゆっくりと話し始めた。
ビビアンの旦那は、商社の社員であり、日本とフィリピン間を、月に何度も往復しているという。
驚くことに、八千代の会社との取引もあるというのだ。今は、東京にいるらしい。
ビビアンが、数日前に、マニラに買い物に行った時に、デパートの中で偶然に会ったということだ。
そして、どこにいるのかは聞いていないというのだ。大越刑事の質問が、しつこいので怒ったということであった。
大越刑事は、金田親子が、殺人の容疑者として手配されていると話すと、かなり、驚いた様子で、知っていることは何でも話すという。
しばらく、二人の会話が続いた。
ビビアンは、話し終えると、放心状態になっていた。友人であり、仕事の取引相手に殺人容疑がかかっているとことに対して、体が震えると言っていたようだ。
残念なことに、金田親子の居場所は、本当に知らないようであったが、八千代のフィリピンでの一番の親友がいると教えてくれた。大越刑事は、金田八千代から連絡があったなら、必ず、マニラ署に知らせるように言った。
一番の親友という女は、マニラの中のマカティという高級地に住んでいて、30年以上の付き合いがあると教えてくれた。名前しか分からないが、警察で調べたなら、簡単に分かる。
僕たちは、ビビアンの家を出で、一旦、マニラ署に戻ることにした。
フィリピンに来ている、徳野茂美との約束の時間がせまっていたが、どうやら、間に合いそうにない。
僕は、徳野の携帯へ、遅れるということを電話した。徳野は、何時でもいいから、着いたら電話をしてほしいということになった。
「雪ちゃん・・・金田を追い込んでいるな・・・もう少しだ・・・やはり、闇ルートで日本を出国したのだな。マニラにいるということは・・・親友という女のところにいるのかもしれないな・・・」
「多分・・・そうだと思います。マニラのホテルは、全て、調べていると聞いていますから・・・潜伏するとしたなら、誰かの家しかないと思いますね。それとも、別荘でもあるかもしれません?大越さん・・・名前だけで、すぐに分かりますか?」と、尋ねると。
「えぇ、名前が分かれば簡単です。ただし、ビビアンの言う名前が本名だとしたらです。偽名だったら、どうしようもないですよ・・・信用するしかないと思います。どちらにしても、すぐに分かりますよ・・・」
車は、署に着いた。
事前に連絡しておいたので、しばらくすると、その親友という女の所在は分かった。
ベニーノ・真奈美という女だ。過去の素性も分かっていた。
30年ぐらい前に、大金持ちのフィリピン人と結婚して、今は、貸しビル業をしていて、悠々自適な生活らしい。
自社ビルの最上階に住まいがあるという。どうやら、子供はいないらしい。
かなりの所得もあり、マカティでも、有名な日本人ということまで分かった。
主人のフィリピン人は、10年以上も前に亡くなっていることも分かった。
飲食店も、20軒以上持っていることも分かった。
さらに、調べてみると、驚くことが分かったのである。
結婚する前の名前は、金田という姓であった。
実は、金田栄一の姉なのである。栄一は、若くしてフィリピンに来て、働いていたのであるが、姉も、日本から来たということが分かった。その当時の入国記録に残っていた。その当時、何があったのであろうか?
姉弟が、一緒に日本を出て、フィリピンに渡るということは、何か、やむにやまれない何かがあったのであろう。
とりあえず、金田親子が、その真奈美という女の家にいる可能性があるので、マニラ署の刑事が、張り付くことにした。急に行って、不在だとしたら、また、潜伏先を変えるかもしれないと思ったのである。
フィリピンに来ることがなかったなら、こんな展開にならなかったと思う。
金田栄一、純一郎、八千代、そして、真奈美とが・・・何か一本の線で繋がっていると思った。
フィリピンでの、滞在日も、残すところ4日となっていた。