「買われた家は、金田さんという人の所有でしたか?」と、聞くと。
「はい、保夫の仲間の・・・安く、譲ってもらいました。何でも、金田さんが事故で亡くなったので、母親と息子さんは、日本へ帰ることになったと聞いています。しばらく・・・そこに住んでいたのですが、日本にいる保夫から、離婚して欲しいという手紙と、100万円の慰謝料を送ってきました。本来、フィリピンでは離婚するとこは無理なのです。フィリピン人同士が離婚することは法律的に難しいのですが、浅田は、役人に裏金を使って離婚を進めたようです。それと、浅田は、日本人ということで特例になったと聞いています。嫁は、離婚したくないと思っていたようですが、保夫の強い気持ちに負けてしまったのです。そして、嫁は家を出ていったのです。保夫からの仕送りもありましたし、現金で家を買っていたので、不安はなかったのです・・・それから、10年ぐらいして土地の買収の話があり、かなり高く買ってくれるということで、別の場所に家を買ったのです。一人だけですから、大きな家はいらないと思ったのです・・・保夫も、年に数回はこちらに来てくれていましたし、何不自由なく暮らしていたのです。でも、1年前から、癌になり、ここのホスピスへ入院したのです・・・保夫に帰ってきて欲しいと言ったのですが、資金のめどがつかないということで、日本に残るということでした。それにしても・・・保夫が死ぬなんて・・・」と、大粒の涙が、また、頬を流れていた。
やはり、金田親子の住んでいた家を買ったのは間違いないが、付き合いはなかったのであろうか?僕は、聞いてみた。
「和子さん・・・その当時、金田親子との付き合いはありましたか?」
「少しはありました。嫁が、金田さんの奥様と仲がよかったのです。私も、何度か一緒に食事をしたことがあります・・・」
僕は、井上八千代、いや、元の金田八千代の写真を見せた。しばらく、その写真を見ていたが、昔の面影があるという。間違いない、井上八千代は、金田栄一の女房である。
「八千代さんに会いたいです・・・数日前、元の嫁が来て、金田親子は、マニラにいると言っていました。新しい男と結婚しているのですが、たまに、見舞いに来てくれています。私の身の回りの世話もしてくれています。こんな年寄りのことは、どうでもいいと言っているのですが、孫が私に会いたいらしくて来てくれているのです・・・月に一回ですが・・・ありがたいことです・・・」
金田親子は、マニラにいる。それも、浅田の元の嫁と関係が続いている。
「そうでしたか・・・で、元のお嫁さんの居場所はわかりますか?どうしても、会いたいのですが・・・」
「机の引き出しに、住所があります・・・それを見て下さい・・・ビビアンといいます・・・」
僕は、引き出しの中のメモを確認した。ケソン市の住所になっていた。
僕は、和子さんに、死んだ浅田保夫の、遺骨を日本から送ることを約束して、病院を後にした。
金田親子は、マニラにいる。早く、元の嫁に会わなくてはならない。
新開刑事も、思わぬ展開に驚いていた。
大越刑事が運転する車は、ケソン市へ向かった。
間違いなく、ビビアンは金田親子の居場所を知っていると思う?
マラカニアン宮殿の傍を車は走り抜ける。赤色等をまわし、サイレンを鳴らしながら・・・
もう、夕方になっていた。ケソンの市内は、車の渋滞だ。
その隙間をぬって車は走る。東京と同じような渋滞である。新しい車もあるが、日本で30年以上も前に走っていた車や、ジープニーも沢山走っている。※ジープニー 小さな乗り合いバス。派手な装飾が有名。
その住所に着いた。小奇麗な、戸建である。このあたりでは、結構裕福な家だと、一目でわかる造りだ。
玄関前の車庫には、日本製の昔のスカイラインが停まっている。10年前の、スカイライン4drのGTであった。
大越刑事が、玄関のチャイムを鳴らした。
中から、タガログ語の声がした。
大越刑事も何か話している。そうすると、ゆっくりとドアが開き女性が顔を出した。