翌日、予期せぬ、事態になった。
フィリピンの佐藤さんから、とんでもない情報がもたらされたのだ。
佐藤さんも、気づいていなかったのであるが、社員の人が教えてくれたということだ。
例の、アンジェラスの他殺死体が、発見されたという。丁度、数日前のフィリピンの新聞に出ていたというのだ。
アンジェラスが、殺された。ということも、驚きであったが、フィリピンにいたということのほうが、大きな驚きであった。何故、アンジェラスかということが分かったのかというと、指紋照合で分かったらしい。過去に、何かの、事件を起こしていたということだ。
僕は、早速、その件を新開刑事に伝えた。
「何だって・・・フィリピンにいたのか?分かった、本庁の国際課に聞いてみる。出国した形跡はないが・・・後で、また、電話する・・・」と、すぐに電話は切れた。
偽造のパスポートなのだろうか?もし、井上や金田も、同じように偽造パスポートだとしたら、日本にはいないかもしれない。しかし、金田の似顔絵や、井上の写真は、手配されているのだから、見落とすことはないのではないか。そうすると、他の何か?飛行機でも船でもないとしたならば・・・?
そんなことを考えていると、社員の新藤が「社長、月刊中古車に、こんな記事が載っていますよ。ゆっくりと見たことはなかったのですが、何げに見たら・・・これ、もしかしたら、例の金田ではないでしょうか?もう、数ヶ月前の記事です。たまってきたので整理しようと思って、何気に見てみたら・・・」と、そのページを見せた。月間中古車という新聞は、業界紙であり、一般の人の目にふれることは少ないが、業界としては、この新聞は、とても必要なものなのだ。つまり、この新聞によって、全国の業者と付き合いができることもある。
そうすることによって、自分の会社を大きくすることもできる。つまり、人脈形成のための一面もあった。
「何だ・・・」と、僕は、そのページを見た。
特集記事として、載っていた。業界の若き社長特集という項目である。顔写真も載っていた。
内容を簡単に説明すれば、20才前後の社長特集であり、5人の社長のプロフィールや事業展開のことが書かれていた。金田純一郎。年齢、30才。車の輸出と国内においての中古車販売となっていた。そして、プロフィールには、元は、自動車の整備士となっていた。国内と海外で展開していると書いてあり、特に、東南アジアに強いということだ。僕は、目が釘付けになった。こんなところで、金田という男を見るとは何ということだ。そして、整備士ということで、車に対しての知識はある。そうであれば、今回の事件のトリックも簡単に作ることは可能だろう。
しかし、こんな記事に金田が載るということは・・・と、新聞の日付を見ると、1年近く前だ。おそらく、新聞社に頼まれて、取材を受けたのであろう。
僕は、新開刑事に電話した。
「新開さん・・・金田の・・・」と、言おうとしたら、僕の言葉をさえぎった。
「分かったよ・・・雪ちゃん・・・やはり、親子だ。DNAが一致した。親子に間違いない。丁度、電話しようと・・・」
と、あせったような言葉であった。
「そうですか・・・こちらも、大きな収穫がありました。金田の顔写真が見つかったのです。業界紙に出てました」
「何・・・写真・・・今から、そっちへ行く・・・」と、電話は切れた。
僕は、写真を発見してくれた新藤に礼を言うまもなく、その業界新聞社に電話をしていた。
「1年ぐらい前の、若き社長の特集を取材した担当の方はいますか・・・第198号ですが・・・」
「ちょっと待って下さい・・・そのページの担当は、替わっていませんから・・・確か、ちょっと・・・」
しばらく、待たされると「担当の磐田といいますが、何か?」と、担当が出た。
「この号の、金田純一郎という社長のことは覚えていませんか?ちょっと、知り合いなので・・・」
と、言うと。
「えぇっと・・・198号ですよね・・・ああ、ああ、よく覚えていますよ。この人ですね。これは、相手からというよりも、確か、女の人からの紹介です。前の号で、募集していたのですが、若き優秀な人がいるので、是非、取材してほしいという形でしたよ。普通は、本人からの場合が多いのですが、この人は違っていましたね。それと、取材の申し込みをしたら、最初は、断ってきたのです。名前も、写真も載せないで欲しいとか・・・普通なら、良い宣伝になると思うのですが・・・でも、他になかなか良い社長が見つからなかったので、強くお願いして取材したのです。それで、記憶に残っているのですが・・・この人が何か・・・」と、問い返した。
「いえ・・・ちょっと知り合いなので・・・それと、その紹介してくれた女の人は、分かりますか?」
「えぇー、ちょっと待って下さいよ・・・連絡先をメモしていたと・・・あっ、ありましたよ・・・井上さんという女の人ですね。福岡の電話番号でしょうか?092・・・となっていますが・・・それが何か?」
「ありがとうございます・・・助かりました・・・」
「ちょっと、あなたは・・・何ですか?・・・」と、相手が話しているうちに電話を切った。
これで、井上が金田を業界紙に紹介したことは確かである。
もしかしたら、親の子を思う気持ちなのかもしれない、子が大きくなることを真剣に思っているのであろうか?
息子の会社が大きくなるということであれば、親は、何でもするのであろう。
親の子供に対する強い思いを垣間見た気がしていた。
「おーい・・・雪ちゃん・・・確定だな。親子だ。殺人の証拠はないが、一歩前進だな・・・いゃ・・よかった」
と、新開刑事が入ってきた。
「それと、写真だと・・・見せてくれ・・・」
僕は、その新聞を見せた。それと、その新聞に載ったいきさつも話した。
「やったな・・・新藤君、お手柄だよ・・・今度、おごるから一杯やろう・・・」と、新開刑事が言うが、今度、一杯やろうということは、口癖であり、あまり信用はしていない。その言葉に何度期待したことか・・・
「いぇ・・・何となく見ていただけですよ・・・」と、新藤が答えた。
「お手柄だ・・・今まで、金田の写真は一枚もなかったからな・・・よく見ると、井上八千代に目元が似ているな・・・親子だからな・・・」と、新開刑事は、くいいるように新聞を見ていた。
「新開さん、アンジェラスがフィリピンで死んだということは、何らかの方法で出国したのだと思います。飛行機や船ではないとすると、一体何で・・・?」と、僕が尋ねると。
「そこなんだよ・・・そこが・・・闇のルートかもしれないな?」
「闇のルート?もしかしたら・・・密輸船・・・中国のマフィアなんかが使う・・・」
「それかもしれん・・・今、アンジェラスの行動について、フィリピンにも照会している。入国履歴がないとすれば、闇のルートしか考えられない。そうであれば、警察としてもお手上げだ・・・金田や井上も同じように出国していたとしたなら・・・どこにいるのかは分からない・・・困ったものだ・・・今は、金田と井上の戸籍を調べている。これから、何かが分かるかもしれない。しかし、動機が分からないのに、勝手に犯人にするわけもいかない。罪名がないのだ。全ては推測だからな・・」と、ため息をついた。
「親子かどうかのDNA鑑定をしてあげたということだけですね。警察が勝手に・・・」と、僕が笑うと。
「そういうことだ。何とも・・・車を仕入れることを依頼したことだけで犯罪にはならん。トリックしたことは、確認されているが、それも、金田が工作したという証拠はない。元、整備士だというだけでは何にもならん。金田が生まれたフィリピンに何かが隠されていると思うがな。金田栄一と、八千代、それと息子の純一郎の何かがあるのは、フィリピンだな。しかし、20年も前のことだからな・・・どうしたものか・・・」
「新開さん・・・いっそ、行ってみませんか?僕も、取引先との打ち合わせもありますし、その取引先の社員が、ジョジズのアンジェラスを知っていたのです。それと、フィリピンの支店は、ラマダという会社で、代表が、候という中国系の人間らしいのです。今まで、線上に出ていなかった、候という男のことも気になります。アンジェラスを殺した犯人の件はどうなっているのでしょうか?日本にいても何の情報も入ってこないのですよ。ここは、思い切ってフィリピンに行ってみませんか?何か分かると思います。どうですか?」と、提案した。
「フィリピンか・・・課長が何と言うかな?俺としては、行ってみたい。海外には一度も行ったことがないしなぁ・・・雪ちゃんがいたなら、心強いし・・・署に戻って説得してみるか・・・雪ちゃんの言うように、日本にいても何も始まらない。親子も、フィリピンにいるような気がしてならない。闇ルートでの出国なら、とっくに着いているだろう。後で、連絡する・・・」と、言い残して事務所を足早に出て行った。
「新藤、フィリピンに行くことになるかもしれない。その時は、店を頼む。どっちにしても、フィリピンの佐藤さんとは会わないといけないし・・・頼むな・・・」と、言うと、新藤は、まかせておいて下さいと胸をはった。
翌日、新開刑事から電話があった。課長は、なかなか了承はしてくれなかったらしいが、署長に話したなら、すんなりと許可が出たということであった。しかし、7日間という期限つきであった。
このことについては。本庁の国際課から、マニラ警察へ連絡もしてあるということだ。マニラ警察の、日系の刑事をつけてくれることになった。タガログ語は、勿論、片言ではあるが、日常不自由しない日本語も話せるという刑事だということだ。