突然、運転手が「東京の方ですか、警察関係ですか?」と、聞いてきた。

僕は「まぁ、そんなものです。何か?」

「いえね、聞いたことのある名前があったものですから、えっと、井上とかいう女のまことを話していたでしょう。もしかしたら、井上社長のことではないかと・・・いえ、たまに、おたくたちが乗った場所の近くが井上社長の自宅で、過去に何度か、迎車をしてもらったことがあるものですから、もしかしたらと思ってね」と、目をルームミラーにやった。

「運転手さん、知っているの?」僕が問いただすと。

「やっぱり、そうですか。いゃー、大きな家で、高級な車が何台も置いてあるから、車好きな俺としては興味があったものですからね。たまに、中州の事務所まで送っていくのですよ。仲間うちでも有名ですよ。美人で金持ちで、チップもくれますからね・・・へへへ」と、舌を出した。

「運転していかないのかい?タクシーに乗るのかい?」と、新開刑事が聞いた。

「いゃ、事務所の前で一旦降りてから、事務所に入って、数分して出てきて、福岡空港に行くのですよ。あまりよくは知りませんが、東南アジアに行くということを聞いたことがあります。たかだか、数千円の距離なんですがね、3万円ぐらいくれるのです。だから、仲間うちでは有名な社長なんですよ。息子さんも気前のいい人でね。福岡空港から、社長の家まで送るのですが、その時も、チップをはずんでくれますから・・・仲間は、大喜びです」

「息子・・・? 30才ぐらいの・・・」僕は、すかさず聞いた。

「息子らしいですよ。何でも東京で会社を経営していると聞きましたが。息子だと噂ですよ。まさか、愛人ではないと思うけどね。へへへ」と、運転手は、何か得意げに話してくれた。

僕たちは、それ以上は何も聞かなかった。余計なことを教えることはないと思ったのである。

ほどなくして、タクシーは博多中央署の近くに着いた。

運転手は、何度か、刑事さんなのかと聞いたが、無言で車を降りた。

署に入って、捜査本部のある部屋に向かった。

「新開さん・・・困るなぁ。多摩西部署から何度も電話がありましたよ。課長が、何度電話してもつながらないと怒っていますよ。携帯切っていますよね・・・」と、若い刑事が困った顔で聞いてきた。

「すまんな、どうも携帯は、好きにならん。邪魔な時もあるからな・・・後で、課長に連絡しておくから。それと、捜査状況で、皆に話しておきたいことがある。できたら、全員を呼んでもらいたい。俺は、今日、東京に戻るから、早く話しておきたいことがある。大至急、お願いできるかな?」と、新開刑事は、早口でまくしたてた。

若い刑事は、その迫力に負けたのであろうか、捜査員に電話をしている。

1時間もしたであろうか、一応、担当捜査員が揃った。責任者の課長は、何でも東京に出張しているということで、不在だということであった。

「皆さん、忙しいところを申し訳ないが、新しい情報があったなら、教えて欲しい。俺も、話したいことがある・・・」

と、一人の刑事が席を立った。

「新開さん、いくら合同捜査といっても、あまりに勝ってな動きは困りますな。それだけは、覚えておいて欲しい。うちには、うちのやり方がある。まぁ、そんなことを言っても仕方ないか。あんたは、有名な人だと聞いているからな。それと、俺のことを覚えていないかい・・・」と、新開刑事の顔を覗きこんだ。

「えっ・・・もしかして、大ちゃんか?」と、目を丸くした。

「思い出したか・・・懐かしいなぁ・・・元気そうだな・・・」

「お前も、白髪が多くなったなぁ・・・俺は薄くなったがな・・・ハハハ」

何でも、警察学校の同期だということと、この大ちゃんとは、大吾さんという名前で、一年ぐらい、警視庁管内にいたということであった。二人は、懐かしむように握手をした。

「新開、こちらには何もない。倉重の死因は特定できたが、全く、足取りがつかめない。それと、誰と会っていたのかもな・・・ただ、新開の言っていたタイヤ痕は、もうすぐ分かると思う。お前の言っている、女の車と一致すればいいが・・・」と、大吾刑事が話した。

「そうか、タイヤ痕だけだな。それと、井上には息子がいて、何でも東京で会社を経営しているということだ。これは、確定したわけではないが、タクシー運転手からの情報だ。早速、ウラをとって欲しい。井上という女の過去の経歴も徹底的に調べてくれ。息子も一緒にな」

「分かった。それは、うちの署に任せてくれ。明日からでも調べに入る。それはそうと、新開の横にいるのは、署の刑事かい」と、僕のことを尋ねてきた。

「いや、雪田君という。この事件を発見した人だよ。東京で、中古車屋をやっている。俺の警察以外でのパートナーだ。彼の、意見がなかったなら、単なる交通事故として処理されていた。まぁ、刑事じゃないが、変な刑事よりは役にたつと思うから、協力してやってくれ」と、誉めているのか何なのか分からない。

僕は、皆に深くお辞儀をした。

少し雑談をしていると、鑑識から連絡が入った。タイヤ痕が一致したということであったが、ベンツの新車の標準タイヤだということで、確証にはならない。さらなる、証拠がためが必要になったのだ。

そのベンツとは、600SLCという高級車だ。