何やら、何度も相槌をしている。どうやら、多摩西部署の課長のようである。
どうやら、早く戻ってこいという内容の話のようである。2日も福岡にいるのであるから、課長もカンカンになっているようであった。「明日には帰りますから・・・宜しく・・・」と、新開刑事は、電話を一方的に切った。
「煩い課長だな。それはそれでいいが、御手洗の本社も閉鎖になったようだ。出口刑事が調べているが、昨日、閉鎖したらしい。御手洗の部下の行方も分からないということだ。それにしても、ジョジズ・カンパニーの金田という男のことは何も出てこないな。何らかの関係があってもいいと思うが・・・」
「えぇ、新開さん、僕もそのことを考えていました。金田という男は何者なんでしょう。もしかしたら、全く関係のない・・・・と思いますが」
「そうかもしれんな。どちらにしても出口や他の刑事が調べているから、それは任せておくことにしよう。しかし、何かはっきりしない。複雑な関係のように見えるが、実際は、単純なことかもしれない。御手洗、倉重、浅田と金田とは何の関係があるのか。皆、死んでしまっているから、外堀からしか調べることしかないな。やっかいな事件だよ。雪ちゃんも、付き合ってくれるのはいいが、店は大丈夫なのかい?」
「まぁ、新藤がいますから、何も連絡がないというのは何もないことだと思います。ちょっとは心配だけど」
と、新開刑事の横顔を見ると、何やら考え込んでいる様子であった。からまった糸がほどけないもどかしさで二人は無言のままに、井上の自宅に着いた。
一章 からまった糸
大きな家である。女一人にしては大きすぎると思うぐらいの豪邸であった。
表札に、大きく井上と書いてある。敷地は、100坪はあるのではないか。
洋風な建物であった。
ガレージには、車が3台は入ることのできる広さである。1台は、真っ赤な外車のスポーツカーであった。
僕が、一生かかっても買えないであろう、ベンツの600SLのクーペなのだ。
そして、驚いたことに、もう1台は、スカイラインGTRの新型である。ここでも、スカイラインGTRに出会った。
しかし、あの年の女性が、GTRに乗るのであろうか。もしかしたら、他に家族がいるのかもしれない。
そんなことを考えていると、新開刑事は、近所の人に聞き込みを始めていた。
数軒の家を訪ねて、新開刑事が「もう1台大きな黒い車があるそうだ。それと、30才ぐらいの息子らしい男が、たまに来ているらしい。息子かどうかは不明だが、一緒に出かける姿を見ていると親子のようだと感じたと話してくれた。それと、もう一つ、以前は、旦那がいたらしいが、20年ぐらい前に亡くなったということらしい。ここの家は、20年ぐらい前に中古で買ったらしいな。それ以外は、付き合いがないので、分からないということだ」と、新開刑事が話していると、携帯が鳴った。
どうやら、駐車場の車の所有者が分かったようである。
1台は、全く別人。しかし、もう1台は、まぎれもなく井上の車であった。
さっき、見た車は、大型の黒いベンツだ。それが、井上の所有になっていたのだ。
釣り人が見た、大きな黒い車というものと合致する。あくまで、推測の域ではあるが・・・
「とりあえず、何らかの収穫はあったな。例の黒い車のタイヤ痕を調べてみることにしよう。博多中央署には、一応、博多港の岸壁にあったタイヤ痕を調べておくように指示はしている。それと、井上の車が合致したなら、確立は高くなる。しかし、特殊なタイヤではない限り、確証にはならないがね・・・」と、新開刑事は呟いた。
「それでも、一歩前進しましたよ。僕も、おぼろげではあるけど、何か関係があるなではないかと思います。それにしても、息子らしい?という男にもひっかかりますね。もし、井上一人の犯行というのなら、疑問が残ります。井上一人で倉重を海に突き落とすことはできるでしょうか?倉重は、大柄な男ですし、女一人の犯行にしては無理があると思うのですが・・・その息子らしい男も共犯ではないかと思っています。新開さんは・・・」
「可能性はあるな。どっちにしても、井上にも尾行をつけたほうがいいな。とにかく、署に戻ろう」
帰りのタクシーの中で「雪ちゃん、事故のトリックの件だが、科捜研では、人為的だと確定しているが、井上が一人でやったとは考えにくいな。誰かが後ろにいることは確かだと思う。井上の素性も徹底的に調べる必要がある。俺の勘だが、ミタライ・コーポレーションは勿論だが、ジョジズ・カンパニーとも関係があるのではないかと思う。ミタライとの関係で、井上が御手洗を殺すとは考えにくい、そうすると、繋がりがはっきりとしてくると思う。これまで、色々と調査しているが、ジョジスの名前は、ほとんど出てこない。それが、不思議なんだよ。倉重も浅田も、ジョジズと関係していた。御手洗からは、ジョジスの名前が出てこない。何かおかしいと思わないか?御手洗と倉重と浅田は昔の仲間だ。そうしたなら、御手洗からもジョジズという名前が出てきてもいいだろう。それが全くない。徳野が隠していたとしたなら別問題だがな・・・」
「隠す・・・それは考えられないと思いますが・・・しかし、浅田と徳野は何課関係があった。そうすると、徳野も知っていてもおかしくないですね。あー、何が何だか、頭の中がぐちゃぐちゃになっていますよ。御手洗と倉重と浅田。御手洗と井上という女。御手洗と徳野。浅田と徳野。ジョジズの金田と、倉重、浅田。完全に糸がからまっていますよ。どこから、ほどいていけばいいのか・・・・」と、僕は頭をかいた。
「そうだな。みんな繋がっているようで、バラバラなんだ。一本の線になりそうで、点と点の集まりになっている。どこかに見落としがあるかもしれないな」と、新開刑事は、タバコに火をつけた。
しばらく無言のままにタクシーは走った。