「岩ちゃん、何の用事。ちょっと群馬まで行っていたから・・・」

「新藤に聞いたよ。何でも、殺人事件かもしれないそうだな・・・俺の話は、他でもない。その事件のことなのだが、徳野という御手洗の愛人がいるだろう。少し、気をつけておいたほうがいいな。かなりの女だぞ。実は、少し気になって調べてみたのだが、過去に詐欺で捕まっている。新開刑事は何も言ってなかったか・・・」

「詐欺。前科があるのか・・・何も言ってなかったな・・・」

「ああ、20年ぐらい前だがな。俺の知り合いの弁護士が担当したんだ。昨夜、東京弁護士会の仲間での飲み会があってな、何げに今度の件を話したんだ。そしたら、その弁護士が、担当したことが分かった。大きな詐欺事件ではないが、仲間とつるんで、宝石類の詐欺をしたらしい。初犯でもあったし、金額が大きくないので、執行猶予になったらしい。それと、その時の、詐欺にあった人に金を弁済したのが、死んだ御手洗なんだよ。警察も、御手洗のことを調べたということだが、奴からは何も出なかったらしい。俺の推測だが、詐欺を指示したのは御手洗だと思うけどな。何かの参考にでもなるか・・・」

「そんなことがあったのか・・・分かった。気をつけるよ。それで、その後の、徳野のことは分かるか・・・」

「いや、そこまでだ。知り合いの弁護士も、その案件だけで終わったらしいからな・・・」

「そうか、有難う・・・何かあったなら頼むな。明日は、静岡に行く。この事故は、間違いなく殺人事件に違いない」と言って、今までの流れを岩崎弁護士に全て話しておいた。

徳野茂美という女も、したたかな女であると思った。

表面上だけで人を判断してはいけない。過去だとしても、そういった感覚を持っているのかもしれない。

翌日、新開刑事と清水北警察署に行ったのであるが、署ではこれといった収穫はなかった。

ただ、おかしな噂を聞いた。浅田の自宅に行ってみた時のことである。賃貸の戸建てに住んでいた。

何でも、浅田という男は、近所の人が言うには、5年ぐらい前に、こちらに住み着いたということであった。

近所とは全く付き合いはなく、時折、外国人風の男が何人か出入りしていたらしい。

その中で、近所の町内会長の主婦は、こう話してくれた。

「おかしな人でした。こちらから挨拶しても目も合わそうとしないし。町内会の会費を貰いに行った時も、普通なら、毎月、毎月払う人が多いなかで、3年分を前もって払ったのです。それはそれとして有難いのですが、電話番号も教えてくれないし、家族構成も教えてくれませんでした。見ていると一人だと思うのですが、月に一回、年配の女の人が来ていました。その女は、5日ぐらい泊まっていたようです。東京ナンバーの赤いスポーツカーでした。浅田さんが亡くなる数日前にも来ていました。刑事さんが来るということは浅田さんは、ただの事故じゃないのですか。高速での事故だと新聞には出ていましたが・・・」と、話してくれた。

「ええ、事故ですが、一応、色々な角度から調べています・・・それと、その年配の女というのは、顔を見たなら分かりますか・・・」と、何やら上着の中から二枚の写真を取り出した。そして、その一枚を、その主婦に見せたのだ。その主婦は、しばらく見てから、口を開いた。

「そうです・・・間違いありません。この人です。髪型は変わっていますが、先月見た人と同じです」

僕も、その写真を覗き見て驚いた。新開刑事が、いつ撮ったのであろうか。まぎれもなく徳野の写真であった。

「それとね。奥さん、もう一つ見てもらいたい写真があります。この男は見たことがあれませんか」

と、御手洗の写真を見せたのだ。

「・・・見たことはないですね。この男の人は・・・」と、御手洗は見たことはないと言った。

「ご協力感謝します。また、何かあればお伺いすることがあるかと思いますので、宜しく・・・」

と、新開刑事は、その主婦に礼を言った。

「新開さん、徳野を、いつ撮ったのですか・・・それと、御手洗の写真も持っているとは、驚きましたよ。それよりも、徳野と浅田の点が繋がりましたね。信じられません・・・」と、僕は、とても驚いてしまった。

「雪ちゃん、徳野は、うちの出口が隠し撮りしたんだよ。何かあると思ってね。それと、御手洗の写真は、御手洗の付き合っている業者に聞いた時に、見せてもらったものを複製したんだ。本当は、御手洗の家を捜査すればいいのだが、容疑者でもないので、家宅捜査令状を取ることは出来ない。それと、徳野と一緒に住んでいたのだから、徳野が事件に関係しているとしたなら、証拠となるものは全て処分しているだろう・・・そう思って持ち歩いていたんだよ。これで、徳野と浅田は、何らかの関係だと証明できる。多分、男女の関係だろう。しかし、あの徳野という女は、何者かだな。かなり、色々なことを隠していると思っていたほうがいい。それと、過去に詐欺で捕まっているしな・・・」と言う。

「さすが、新開さんですね。全て調べていたんですか。友人の岩崎弁護士からも徳野の過去は聞いていました。別に、今回の事件とは関係がないと思って、新開さんには、話しませんでしたが・・・」

「いくら、雪ちゃんでも、事前に言えないこともあるし・・・まあ、警察とは、そういうところだよ。雪ちゃんを信用していない訳じゃないけど、徳野は、雪ちゃんに、今度の件の調査を依頼しているだろう。もし、何らかの理由で漏れたら、困るからな・・・いい女だし、雪ちゃんも男だからなぁ・・・」と、僕を、チラリと見た。

「まいったなぁ。そんな気持はないですよ。それより、何故、徳野は、黙っていたのでしょうか。それが、一番の知りたいところです。徳野に聞いてみますか・・・」

「いや、まだ、このままでいい。仮に、聞いたとしても、何とか理由をつけて誤魔化すと思う。あの町内会長だけの証言だけでは何もならない。世の中には、似ている人が沢山いるからな。それと、徳野が、素直に話してくれたとしても、今回の事件との因果関係がない。ただの、愛人だと言ったなら、それまでだ。それよりも、少し、泳がしていたほうが、いいと思う。この件は、雪ちゃんも他言しないでくれよ。少し、徳野も、見張っておいたほうがいいようだな・・・」

「分かりました。僕は、徳野と連絡を密にしていますから、何か不穏な動きがあれば、新開さんに連絡します」

僕の本心は、徳野に聞いてみたいのだが、新開刑事の邪魔をすることは出来ない。

しかし、徳野茂美という女は、一体、何者なのであろうか。御手洗の愛人であり、浅田とも繋がっている。

しかし、入院している、倉重とは面識がないようであったが、もしかしたら、知っていて隠していたとも考えられる。そうだとすれば、徳野は、必ず、何かを知っていてもおかしくないと思う。

と、考えていると、新開刑事の携帯電話が鳴った。

「おぅ、出口か・・・何か分かったか・・・」どうやら、例の、会社を調べている、出口刑事からだ。

「・・・やはり、そうか・・・ジョジズ・カンパニーの社長は、アンジェラスではなくて、日本人だと言うことだな。よし、分かった。ご苦労さん。後で、署に戻ったら、詳しく聞く・・・」と電話を切った。

「雪ちゃん、面白くなってきたぞ・・・ジョジズ・カンパニーの本当の社長は、金田という男だ。何でも、まだ、若い男だということだ。アンジェラスという男は、日本での支社長という肩書きらしいな。それと、福岡、フィリピンにも支店がある。出口の調べだと、金田という男は、前科も何もない。普通に、貿易をしている会社だと言う。近所とのトラブルも何もない。会社の登記簿謄本を取ってみたらしいが、特におかしなところはないらしい」

「新開さん、その金田という男が、何か関係しているのでしょうか。倉重との取引があったということは、御手洗や浅田とも取引があったと考えるのが自然だと思いますが・・・」と、聞くと。

「まぁ、そんなに慌てるなよ・・・いずれ、分かるさ・・・よし、清水北署の担当刑事に、話してから、東京に戻ろう・・・せっかく、マグロの美味しい清水に来たのだから、ちょっとマグロでも食べて帰るか・・・」

と、箸を持つ仕草をした。

「そうですね。収穫もあったことだし、マグロの刺身でも食べて帰りましょう・・・」

僕たちは、清水北署で、担当刑事に、捜査状況と、今後も引き続き宜しくと話して、近くの、マグロ料理店に入った。残念ながら、車で来ているので、酒は飲めない。お茶を飲みながら、マグロに舌鼓をうった。

中古車店に戻る前に、多摩西部警察署に寄った。出口刑事が、待っているのである。夜の7時になっていた。

出口刑事が、待っているので、新開刑事は、お土産として、マグロの冷凍を買ってやっていた。

署に着くと、刑事部屋には、出口刑事と小川課長がいた。他の刑事たちは、何やら近所で窃盗傷害事件があったとかで、皆、出払っていた。

新開刑事が出口刑事へ「遅くなって、すまんな。これ土産だ。冷凍のマグロだ。彼とでも食べてくれ・・・」

「新開さんは、意地悪なんだから・・・彼なんていないのを知っているでしょ。両親と一緒に食べます。それで、どうでしたか・・・浅田のほうは・・・」と聞くと、隅の席にいる、小川課長が口を挟んできた。

「新開、俺には何もないのか・・・うん・・・」

「課長の口には合いませんよ。安物ですから・・・」と、新開さんが切り返すと「何だ、俺も一庶民だぞ・・・」

と、小川課長は、何だか不満だという顔をした。

「課長、少しおすそ分けしましょうか・・・」と、出口刑事が言う。

「そうか、少しでいいから・・・」と、顔つきが一変した。何だか、単純な人である。

普段は、堅物として通っているのであるが、こんな一面もあるのかと思うと、何か親近感を覚えた。

「面白いことが分かった。徳野と浅田は、知り合いだ。知り合いというよりも、男女の関係かもしれない。月に、1回、数日は、浅田の家に泊まっていたようだ。御手洗がいながら、浅田とも関係していたのかもしれない。徳野には、何か隠していることがあるな・・・それで、金田という社長について詳しく話してくれ・・・」と、新開刑事が聞いた。

「はい、ジョジズ・カンパニーの社長で、金田純一郎と言います。年齢は、20才台後半だと思います。思うというのは、前科も前歴も何もないので、データがありません。それと、会社自体は、貿易全般ということです。5年前に設立しています。さっきも、電話でお話したように、福岡とフィリピンに支店があります。会社の業績は、かなりいいようです。近所の人に聞いてみたのですが、愛想のよい、好青年だと皆言っていました。今日は、ここまでですが、明日、自宅の近辺も調べてみようと思います。自宅は、品川の北品川にあると分かりました。現時点では、何もおかしなところはないです」

「そうか、それで、福岡やフィリピンについては、何か分かったことはないか・・・倉重は、アンジェラという男が社長だと言っていたのは、嘘だったな。何かひっかかる・・・」と、新開刑事が聞いた。

「はい、福岡については、今、福岡県警に調べてもらっています。フィリピンについては、本庁の国際部に調べを依頼しました」と、少し得意げに話した。

そこで、小川課長が口を出した。

「新開、出口からの調査依頼は、俺が話しをつけておいた。近日中には、報告があると思う・・・」

と、何やら、新米の出口だと不安だから、俺がやってやったという感じである。

「そうですか・・・」と、新開刑事は、課長の言葉を軽く無視して、続けて出口刑事に話した。

「一度、矛盾点をまとめてみるか・・・流れが分かると思うが・・・」と、ホワイトボードに整理し始めた。

死んだ御手洗と徳野茂美は、愛人関係で、一緒に住んでいた。御手洗の女房は、別宅に一人で暮していた。

御手洗と、倉重、浅田は、過去にフィリピンで同じ会社を経営していた。御手洗と浅田は死んだ。

浅田と徳野は、何らかの関係があった。倉重に、スカイラインGTRの仕入れを依頼したのは、金田純一郎というジョジズ・カンパニーの社長である。倉重は、金田ではなく、アンジェラスという男が社長だと思っていた。