「・・・昔の仲間だ・・・間違いない・・・俺の友人だ・・・」と、うなだれて答えた。

「やはり、そうか。何があったんだ。何かなければ、こんな事件は起こらないな・・・何があった・・・」

と、新開刑事が、鋭く甲高い声になって問い詰めた。

「何もありません。20年も会っていないのです。何も・・・ない・・・」

「そんなことはないだろう。何かなければ命を狙われることはない。隠していても仕方ないぞ・・・」

と、新開刑事は、畳み込むように聞く。

「刑事さん、本当に何もないのです。20年間、二人が、どこで何をしていたのかさえ知りません。20年前に、フィリピンの会社を閉鎖して、日本に戻ってきたのですが、それ以来会っていません・・・」

「フィリピンか・・・御手洗の会社は、フィリピンのケソン市にある。あんたの会社は、フィリピンにはないのか・・・」

「はい、日本に戻ってからは、皆、別々の会社を作りました。私の会社は、台湾にはありますが、フィリピンにはありません。本当に何も知らないのです・・・何故、狙われるのかも分かりません・・・」

と、見ている限りでは、嘘をついているような感じではないと思った。続けて新開刑事が聞いた。

「もう一点、聞くことがある。昔、3人で会社を経営している時に、何かなかったか。もしかしたら、その時の何かが関係しているかもしれないな・・・20年以上前だけどな・・・思い出してみないか・・・」

「もう、過去のことですから、特に何かあったとは思いません。確かに、ビジネスをしていましたから、何らかの恨みはあったかもしれません・・・しかし、殺されるようなことは絶対にないです。もし、あったとしたら、20年も経ってからというのも不自然だと思います。たまたま、事故が重なっただけではないでしょうか・・・」

「倉重さん、重要なことです。倉重さんの乗っていたスカイラインGTRは、前から所有していたものですか。それとも、最近買ったものですか・・・」と、僕が聞いた。

「最近です。外国のバイヤーから依頼があって、高速道路で試乗していたのです。GTRを高く買ってくれるということで、仕入れをしていました。普通の相場よりも、30%以上高値で買うということでしたから・・・」

「必ず、高速で試乗して欲しいとの条件があった・・・」と、聞くと。

「その通りです。200キロ以上出せないといけない。つまり、速度リミッターがカットされていないといけないし、車の性能も良く、安定した走行が出来ないといけない。何でも、複数の東南アジアの小金もちが欲しがっているとのことでしたが・・・」

「そして、試乗は、社長自身がやって欲しいと、言うことでしたか・・・」と、徳野に聞いたことを話した。

「えっ、何で知っているんですか・・・その通りです。それがバイヤーの条件でした・・・」

やはり、御手洗と同じ条件である。そのバイヤーが何かを知っているのではないだろうか。

全く、同じ条件でスカイラインGTRを買うということなのであった。

突然、徳野が口を開いた。

「倉重さん、御手洗との付き合いは長かったのですか・・・」と聞いた。

「御手洗さんとは、10年ぐらいになります。御手洗さんが、フィリピンで、コックをしている時に出会いました。私は、元々、貿易をしていましたが、御手洗さんの働く店に客として行くようになってから、何か急速に親しくなり、二人で何か大きな貿易会社を作らないかと意気投合したのです。そして、御手洗さんの友人の浅田さんを紹介してくれたのです。その当時、浅田さんは、フィリピンのダバオという都市で、レストランを経営していました。何でも、父親が日本人で母親がダバオ市出身のフィリピン人ということで、ダバオに日本食のレストランを出したと聞いています。御手洗さんは、2526才の時にマニラに来て、それから、ずっとコックとして働いていると言っていました。20年前に、そんな形で3人が出会ったのです。そして、貿易の会社を作ったのですが・・・」

「そうでしたか、生前、御手洗は、過去のことは何も話してくれなかったので何も知りませんでした。私も、色々と知りたいと思っても、何も話してくれないので・・・・」と、徳野は言った。

「徳野さんとおっしゃいましたか。御手洗さんとは何年ぐらいの付き合いですか・・・」と、倉重が聞いた。

20年になります・・・」と、徳野が短く答えた。

「それなら、私たちがフィリピンから日本に戻った時の後になりますね。いや、最初は、順調にいっていたのですが、色々と大きな貿易会社の参入で、利益がなくなってきて、会社の状態も悪くなってきたので、日本に戻ったのです。浅田は、ダバオのレストランを同時に経営していましたから、ダバオに戻るかもしれないと言っていたのを覚えています。日本に戻っていたとは知りませんでした・・・私は、日本に戻ってから、結婚したのですが、10年前に妻に先立たれてしまい。子供もいるのですが、家には寄り付きません。今は、一人で細々と小さな貿易会社を経営しています・・・何だか身の上話になってしまった・・そんな私が、何故、殺されなくてはいけないのでしょう?・・・」

倉重は、何とも不可解だという顔をした。

僕は、更なる疑問を倉重に聞いた。

「会社を閉鎖した時には、何か大きな問題を抱えていませんでしたか・・・例えば、借金とか・・・」

「いえ、負債を背負う前に閉鎖したので・・・それはありません。間違いないことです」

「そうですか。それで、そのスカイラインの仕入れを依頼したバイヤーというのは、どこの誰ですか・・・」

「はい、私の知り合いの社長からの紹介で、支店は、フィリピンのケソン市にあり、日本本社は、港区三田にあります。社長は、アンジェラス・ポンセカというフィリピン人です。一度しか会ったことはありませんが、金の支払いは、とてもよくて、ちゃんとした会社です。このスカイラインの前にも、いすゞの2トンのトラックを何台か仕入れて、輸出しています。社名は、ジョジズカンパニーと言います。それが何か・・・」

「そうですか、それと倉重さんの知り合いの社長という人は、誰ですか・・・」

「埼玉の熊谷で、バイクの輸出をしている、マレーシア人の、ウイーという社長です。彼とは、10年以上の付き合いになります。そんなことが何か関係しているのですか・・・」倉重は、最初とうって変わって静かに答えていた。

続けて僕は聞いた。

「事故の時に、ブレーキが、きかなかったと言っていましたね。車が燃える前ですか、それとも燃えてからですか」

「いや、気が動転していたから、はっきりとは覚えていないが、燃える時だったと思う。ボンネットの中から、爆発音がして、ブレーキを踏んだけど、全くスポンジのように軽くなっていた。まるで、ブレーキオイルが抜けてしまったような感じがした・・・」

「そうですか、倉重さんも、車については、素人ではないですから、ブレーキのことは分かりますよね。でも、何故か変ですね。ブレーキホースに引火してからなら理解できますが、燃える時と同時だというのは、何とも解せない。もし、ブレーキホースが最初に燃えたとしても、そんなに早く、きかなくなることはない。一瞬にブレーキの何かが作動しなくなったということだと思います。例えば、ブレーキのマスターバック、つまり、エンジンの吸気負圧を利用して、ブレーキペダルの踏力を倍増する装置であるから、そこにも何らかの細工があったのかもしれませんが・・・」

新開刑事が口を開いた。「二重に何かを細工したということか、御手洗の場合は、どうだったんだ・・・」

「御手洗の場合も調べていますが、マスターバックには細工はありませんでした。新藤が調べているから間違いはないと思います。何で、倉重さんの場合は、そこまでしたのかということが分かりませんが・・・」

「その点も調べる必要があるな・・・」と、新開刑事が言う。

「ちょっと気になったものですから・・・新開さん、僕のほうはもういいですが・・」

「そうか、倉重さん、長々と邪魔したな。また、聞くこともある。とにかく、今は、怪我を早く治すことに専念したらいい。それと、まだ、殺人事件だと断定した訳ではないが、身の回りには気をつけるほうがいい。何かあったなら、前橋南署に相談しなさい。また、来る・・・」

倉重は、僕たちに、ベッドの上から「何かあったら、相談します・・・」と、言った。

何だか、色々と見えてきたものがあった。御手洗と倉重、浅田は、過去に会社を経営していた。

そして、何かの理由で閉鎖した。それから、20年以上が経過していた。

20年後の、今年になって、3人が何らかの理由で殺されることになったのではないか。

それにしても、スカイラインGTRの仕入れを依頼した、ジョジズカンパニーを調べる必要があると思う。

「新開さん、何だか分からないことだらけですね。糸は繋がったとは思いますが、動機が全く分かりません。新開さんは、どう思いますか・・・」

「そうだな。何とも・・・これは複雑な事件に発展するかもしれないな。3人を殺して、誰が得をするのかも分からない。誰か、得をする人物がいたなら、簡単なのだがな。今のところ、倉重も、浅田も独身であり、身内で得をしたりする人もいない。一応、各所轄には、保険金についての照合はしたが、特に不審なことは何もない。誰が得をしたのか・・・それとも、得をするということではなくて、他の何かが・・・」

「分かりませんね。明日、静岡の清水北警察署に行ってみようと思っています。浅田の件で何か分かるかもしれません。それと、御手洗は、東京。倉重は、埼玉。浅田は、静岡ですよね。本当に20年間連絡を取っていなかったのでしょうか。僕は、疑問に思っています。フィリピンで、一緒に会社をやっていて、日本に戻ったからといって20年間何もないというのは信じられないのです。何かが隠されていると思うのが筋ではないかと・・・」

「その点は、同感だな。何かあると思って捜査したほうがいい・・・出口、お前は明日、六本木の何とかいう貿易会社を調べてくれ。分かったな・・・」と、出口刑事に指示した。

「はい、六本木ですよね。社名もちゃんとメモしています。昔は、よく行ったから庭のようなものです。こんな私でも、色々な男に声をかけられたのです・・・懐かしい・・・」と少しにやけた。

出口刑事は、30才ぐらいだと思う。スーツ姿だから何とも思っていなかったが、化粧して髪を下ろすと、何だか、アイドルの某有名歌手に似ていると思う。眼鏡をしているので何とも言えないが・・・可愛いことは確かだ。

「出口さん、過去に、そんなに男遊びをしていたのですか・・・」と、冗談めいて僕が聞くと。

「冗談ですよ・・・警察官が、そんなことをする訳がないじゃないですか・・・何度か、買い物に行っただけです。そんな女に見えますか・・・雪田社長・・・」と、変に真面目に聞いてきた。

「そうでしょう。出口さんは、そんな遊び人の女には見えませんよ。どちらかと言うと、堅物の公務員という雰囲気がピッタリですよ。信じていないから安心して下さい・・・」と、更に冗談ぽく言うと。

「それも、何だか複雑よね。女としての色気も何もないということですか・・・アーア、私ってそう見られるのよね。いつも、そうなの・・・」と、何だか沈み込んでしまった。

「出口、そう気を落とすな。お前にも、いずれ、お前がいいという男が現れる。人間は辛抱だ。お前には良いところはイッパイある。諦めずに生きていけ・・・」と、新開刑事が、励ましたが、励ましになっていない。

僕たちは、皆大笑いした。

その日は、夕方に店に戻った。徳野は、フィリピンのボエットと、今後のことがあるので、自宅に戻って電話で打ち合わせをするという。

新開刑事たちも、多摩西部署に戻った。新開刑事と僕は、明日、清水北警察署に行くことになった。

「新藤君、お疲れさん。今日は、どうだった・・・」と、留守番していた新藤に聞いた。

「社長、お疲れさまです。フェアレディZ1台売れました。それと、岩崎弁護士が来られましたよ・・・」

「岩崎・・・何か用事でもあったのかな・・・」

「はい、何でも、例の車の事故の件で、面白い話があるとか言っていましたが・・・それと、何か新しい収穫がありましたか・・・」

「岩崎も好きだよなぁ。何かあったのかもしれないな。後で聞いてみるよ。それと、面白いことが分かったよ。御手洗と、今度の事故にあった奴とは、昔、フィリピンで一緒に会社を経営していたんだ。やはり、何かあるぞ」

「何だか、面白くなってきましたね。それで、EGIについては、科捜研で何か分かったのですか・・・」

「いや、まだ、時間がかかるということだ。それと、明日、静岡に行く。新藤には、悪いが。明日も、一人で頼むな。夕方までには戻れると思う・・・」そして、岩崎弁護士に電話した。