「そうですね。今は何とも言えませんが、期待していましょう。新開刑事なら何とかしてくれると思います」
「それで、一つお願いがあります。これも何かの縁ですから、雪田社長さんにも、この件で調査をお願い出来ませんか。車にも詳しいし、輸出もやられているということですので、何かが見つかるかもしれません。いぇ、タダとは言いません。必要経費と、それなりの報酬は払わせて頂きます。どうか、お願い出来ませんか・・・」
と、何やら僕に調査依頼をしてきた。
僕も、小さな件では、探偵まがいのことはしている。仮に殺人事件というものであれば初めてであるが、何か大きな興味を持ってしまった。少し考えて「はい、僕で出来る範囲ですが、協力させてもらいます」と言うと。
「有難うございます。普通は警察にお任せすることが一番だと思いますが、今回は、雪田社長にもお願いします。私も、車の輸出を御手洗の手足として手伝っていました。御手洗の亡き後は、常務の私が会社をきりもりしていく予定です。専務という肩書きだけの人はいますが、国内ではなくて、フィリピンにいるのです。専務は、フィリピンのミタライコーポレーションの社長も兼務しています。ボエット・チャンと言います。彼にも、色々と聞いてみようと思っています。何か、あれば雪田社長に連絡します。宜しくお願いします」と言って、名刺を差し出した。
この後、探偵の男は帰っていき、僕と、新藤と愛人で常務の徳野との打ち合わせになった。
とにかく、死んだ御手洗社長のことは何も分かってはいない。その情報は、この徳野という女からしか得ることが出来ないのであった。
その夜は、遅くまで、話を伺った。そうすることで、次第に御手洗社長の仕事や人格が見えてきた。
表と裏があり、かなり、危ない話にも手を出していたようである。
更に、分かったことであるが、国内では、表向きは車の輸出をメインとしているようであるが、この徳野という女は、仕事の一部しか教えてもらっていないことも分かった。徳野は、御手洗の指示で動いているだけであり、全ては、御手洗が取り仕切っていたという。細かな部分は、全く知らないのであった。
他にも、社員らしき人が何人かいたようであるが、社員としてではなくて、外部請負という形を取っていたようだ。
つまり、実際のミタライの運営は、御手洗社長と徳野と、フィリピンのボエット・チャンであった。
外見は大きく見えた会社であったが、中身は、こんなものなのであった。
僕は、どこから取り掛かろうかと思案にくれてしまった。
翌朝である。
新開刑事から電話があった。
「雪ちゃん。再捜査になったぞ。課長は、無理だと言ったが、直接、署長に話を持っていったら、以外とすんなりOKだったよ。俺と、新米の女刑事の出口が担当する。しかし、殺人としてではなく、殺人事件らしいということでの捜査となった。まぁ、これだけでも進歩だけどな。車は、もう一度検証するから、しばらく保管しておいてくれ。殺人だとの確証と証拠を得ないといけない。今は、その前の段階。まぁ、そういうことだ・・・それと、スカイラインの燃料噴射装置と何かのタイマーらしきものは、明日、取り外して、本庁の鑑識に持っていく・・・」
「良かったです。殺人らしい・・・でもいいですよ。そうすると捜査本部というものはないのですよね」
「それはないな、・・・と、言うことだ・・・証拠が確定したなら、捜査本部になるだろう・・・」と電話を切った。
とにかく、愛人であった徳野へ電話して再捜査となったことを話した。
彼女は、とても喜んでいた。それと、これからの会社の運営について、僕に相談したいと言う。
彼女の味方は、国内には誰一人としていないということも聞いた。
御手洗が死んだことで、取引先や、請負業者も取引から手を引いているらしい。
御手洗のワンマン経営であったから、死によって、皆、離れていったようであった。
恐らく、彼女一人だけでは何もできないと思う。それで、僕に相談してきたのだった。
このままなら、日本の㈱ミタライは、存続できないという。
唯一、フィリピンのミタライコーポレーションの、ボエット・チャンという男が、何とかするしかないと思った。
が、しかし、彼と徳野だけでは無理だろう。
御手洗の本妻は、御手洗の死によって、少しの保険金を受け取っていた。
そして、自動的に死別となったのであった。徳野が望んでいた離婚が、このような形で成就したのであった。徳野が言うには、本妻と連絡が取れないらしい。
例の探偵が調べたところによると、本妻は、何でも生まれ故郷の東北の小さな町に引っ越したらしい。
徳野は、週末に、僕の店に相談に来るという。
御手洗の死によって、借金も全て無くなったということも話してくれた。
徳野も、何らかの仕事をしていかないと生活が出来ない。それもあってか、僕と輸出に関しての企業提携をしたいのかもしれないと思った。
それは、僕にとって利益があるのであれば、特に大きな問題はないし提携なら歓迎したい。
輸出においては、知り合いの会社にお任せしているが、それ以外でも輸出ルートがあってもいいと思った。
条件によっては、提携したほうが更に大きな利益になる。
徳野は、土曜日の夜に店にやってきた。先日の格好とは全く違っていて、化粧もほとんどしていない。
それでも、整った顔立ちであるから、普通にいる同年代よりも綺麗であった。
「お忙しいところ、無理を言ってすみません。少し、お時間を頂きます・・・」と、軽く挨拶をした。
「いえ、店の中でいいですか・・・もうすぐ閉店ですから・・・少し待っていて下さい。それとも、どこかの喫茶店でもいいですよ・・・」と、言うと「そうですね、喫茶店でもいいですね・・・」と答えた。
僕は、店を閉めて、新藤とともに近くの喫茶店に入った。
「あのぅ、その後、警察からは何か連絡はありませんか・・・」と聞いてきた。
「今のところは・・・何もないですね。その後、新開刑事とは会っていませんが、何かあったなら連絡が必ずあります。僕たちは、僕たちなりに調査してみようと新藤と話していますが・・・」と、新藤を見た。
「はい、来週から時間を作って動いてみたいと思っています。社長も、今週は忙しくて思うように動けませんでしたから・・・それと、僕は、その細工した部品のメーカーを調べています。全ての部品は分かりませんが、一部は、製造メーカーを特定できました。しかし、そこから、何が見えるかというと何とも・・・」新藤が話した。
「有難う御座います。私は、何も出来ません。ただ、御手洗の行動についてお話するだけですから・・」
「徳野さん、それで、僕に相談というのは何ですか・・・」と、短刀直入に聞いた。
「はい、㈱ミタライは、閉鎖する予定ですが、新たに、会社を作ろうと思っています。今まで、御手洗が作ってきたルートを無くしてしまうのは、もったいないと思いますし、私も生活していかないといけません。フィリピンのボエットとも相談してのですが、小さくても続けていこうということになりました。ミタライという名前は使いませんが、何とかしたいと思います。それで、雪田社長のお力をお借りしたいと思っております。何とかお力をお貸ししていただけませんか・・・」と言う。やはり、僕の想像していた通りのことであった。
「輸出に関して・・・」と聞くと「はい、私は、車についての詳細な知識はありません。輸出の手続きについての税関への申請をしていました。仕入れや、販売は、全て御手洗が行っていました。どちらかというと事務手続きは何でも分かります。通関士の国家資格も持っております。しかし、車の知識がないのです。そこで、雪田社長に、仕入れをお願いしたいと思っております。御手洗の仕入れた車や部品の販路は、フィリピンやマレーシアが中心です。東南アジアは全域と思ってもらってもいいと思います。フィリピンのケソン市にメインオフィスがあります。
販路は、ボエット・チャンが確保してくれていますから、何の問題もないと思います。国内においての仕入れが一番の問題なのですが・・・」僕の考えていた通りの話なので、少し可笑しくなってしまった。
「というと、僕が国内で仕入れたモノを徳野さんに渡して、それをコンテナに入れて輸出するということでいいですか。それなら、今もやっていることと同じですから、何の支障もないですね。どちらかというと、僕としても販路が増えますから、有難いと思います。ただ、仕入れにおいては、事前に資金が必要になりますが、その資金は用意することが出来ますか・・・」
「大丈夫だと思います。御手洗の仕入れ資金の一部は、私が裏で管理していましたので、5000万円はあります。当面、それだけあれば問題ないと思いますが・・・足りないでしょうか・・・」
「十分だと思います。利益が出て資金が回り始めるまでが問題なのですが、それだけあれば、受注内容にもよりますが、半年はいけると思いますよ。40フィートコンテナ1台で、1000万円と計算しても、とりあえず、5台はいけますね。資金回収が早くなれば、何とかなると思います。支払いの早い、バイヤーだといいのですが・・・」
「よかったですわ。これで何にとかなると思います。早速、支払いの早いバイヤーを探すようにボエットに話してみます。それよりも、注文の内容ですよね。無理な注文なら、何にもなりませんから・・・」と、少し笑った。
徳野茂美の笑った顔を見たのは初めてであった。その笑顔は、何かふっ切れたようでもあった。
「それでは、業務提携ということですね。僕としても、精一杯協力させてもらいますよ。それと、仲間の輸出業者にも聞いてみます。できるだけ、早く輸出しないと資金も底をついてしまいますからね。一緒に頑張りましょう」
と言うと、また、笑顔で頷いた。僕たちの話を聞いていた新藤が口を開いた。
「社長、面白くなりましたね。僕のルートでも探してみます。何か新しいビジネスが始まる時は、ワクワクするものですよね。徳野さん、一緒に頑張っていきましょう。それと、事件の件も並行して調査していきましょう・・・」
新藤も乗り気であった。その後、3人での飲み会となった。
徳野という女は、誰が見たとしても色気のある女である。愛人という立場であったからこそ、そのような色気が漂っているのかもしれない。酒の席で、何げに聞いてみた。
「失礼だけど、徳野さんは、30才半ばですか。僕は、45才になりますが・・」
「まぁ、社長もお上手ですわ。そんなに若くはないですよ。社長と同じ年ですわ。御手洗と知り合ったのは、23才でした。だから、30才半ばなんてあり得ませんよ。でも、嬉しい・・・」と、酒の酔いで赤くなった頬で僕を見た。
「信じられませんね。どう見ても30才の半ばしか見えない・・・なぁ、新藤・・・」と新藤に言うと。
「嘘でしょ。僕の母と5才しか変わらない。若いですよ。僕が、もう少し年なら、絶対に惚れていますよ。年下は嫌いですか・・・徳野さんより、8才年下ですが・・・」
「新藤さんも、面白い方ですわ。年下とか、年上とか関係ないですわ。私は、新藤さんはタイプですよ・・・」
「社長聞きましたか、こんな僕でも、何とかなりますかね。いゃー、今夜の酒は美味しい・・・」
「新藤、何を言っているんだよ。まだ、何も始まってはいないし、これからが大切なんだ。そんなことで喜んでいてどうする。徳野さん、すいませんね。こいつは、酒が入ると調子に乗ってしまうから・・・」
「とんでもないですわ。久しぶりに楽しいお酒です。いつまでも、御手洗の影を引きずっていても仕方ないですから。これからは、私一人で行きていくしかないのです。お力をお願いします・・・」と言って、僕と新藤の手を握った。その手は温かく、女の柔らかさがあった。独身の身としては、何か興奮したのを覚えている。
同じ年ということもあって、色々な話が合う。これで、気持は通じたと思った。
深夜12時になろうとしていた時に、携帯が鳴った。新開刑事からであった。
「なんだ、飲み屋にでもいるのか・・・騒がしいな・・・ちょっと例の件で不思議なことが分かった・・・」
「何ですか・・・新しい何かが・・・」
「いや、似たような事故が、2件あって、同じような時期に高速であったんだよ。車両火災として調べたら、東名高速と関越高速で起こっている。群馬県警と静岡県警の管轄だ。例の事故の数日後なんだ。何かひっかからないか。それと、運転していた奴は、一人は、死亡、もう一人の関越での事故の奴は、重傷で入院している・・・」
「それと、何か関係があるのですか。ただの、事故じゃないの・・・」と聞くと。
「何の関係もないかもしれん。しかし、目撃者の話だと、例の事故とそっくりなんだ。確かに、車両火災は、毎日のように起こっているが、この場合は、日にちが近い。それと、もう一つは、2件の事故の車は、スカイラインGTRなんだ。そんなにスカイラインGTRの車両火災が続くか・・・おかしくないか・・・」