「そうですか、ではお薦めのカクテルをお願いします。おまえもそれでいい」と女に聞いています。
「はい いいですよ。あまり強くないのがいいです、それとジンベースで」と女のほうは慣れている感じです。
男は僕も同じものをと言いました。どうやら女のほうが主導権を持っているような感じです。
私はショートカクテルを作り差出しました。そこで真紀さんと大場さんのお帰りです。どうやらタクシーを呼
んだので大場さんが真紀さんを送っていくことになったようです。店を出ていく後姿はカップルそのものです。
とてもいい感じに見えました。二人が帰られると同時に仁さんの彼女の由美さんが入ってきました。
「マスター 久しぶりね」と由美さん。「久しぶり 元気 今日はどこに行ったの」と由美さんに聞いたら、
どうやら近くのデパートで買い物をしていたようです。「マスター 今日は車だから帰りに代行ね、それと私はいつものロングカクテル」の注文です。由美さんはいつもロングカクテルなのです。
仁さんとべったりくっついて話しています。とても微笑ましい雰囲気で昨日の喧嘩は嘘のようでした。
「すいません ウイスキーもらえますか」と真ん中の男が2杯目の注文です。この二人は話すというよりも何か静かに飲んでいるという方です。「何か銘柄でお好きなものはありますか」と私が聞いたら特に何もないとのことでしたのでサントリー山崎を出しました。なにやら意味ありげなカップルです。
仁さんと由美さんは、いつもと変わりなく話しています。「仁さん 明日 仕事はないの」と私が聞いたら
明日は遅番なので夕方からの出勤ということでした。由美さんも明日は休みというので飲みにきたということです。「マスター 女帝と大場さんは知り合いだったの」と仁さんです。何か気になっていたようですね。
「今日知り合ったんだよ」と言うと、「そうなんだ 女帝が女帝に見えないよね」と不思議そうに聞いてきたのです。「女帝も女だからね」と私が答えると「だね」と仁さん。それはそうと仁さんと由美さんは結婚するって噂を聞いたけどそうなの?と聞いたのです。「来年の予定です」と由美さんが答えました。
「そうなんですよ これで終わりです」と笑いながら仁さんが答えると、すかさず由美さんが、「何が終わりなのよ 始まりでしょ 私は終わりだけど何人の男が泣くと思うのよ」と仁さんの頭を叩いています。
さすが、由美さんの爆裂トークです。その会話を聞いていた不倫かもしれないカップルが笑い始めたのです。
「おめでとうございます」と女のほうが由美さんに会釈しています。「ありがとう 男は終わりっていうけど 本当は女が終わりで 男は始まってもらわないといけないのよねぇ」と由美さんが女のほうに向いて話し始めたのです。ここからが今夜のメイントークとなっていくのです。
二組のカップルの爆裂トークの始まり始まりです。結局朝5時までの営業になったのです。
どうやら由美さんとこの女は相性がいいようである。
「そうですよね 私たちも付合って4年になるけど長い春に終止符したいわ」と彼女が男のほうを覗き込むように目で訴えている。彼女は貴子といい、男は永井さんということがわかりました。
やはり何か意味深な関係のようです。二人の年齢ははっきりしませんが私の感は当たっていると思いますね。
お酒が進むにつれて会話もはずんできました「貴子さんと永井さんは4年というけど同じ会社なの」と由美さん。「違うの 彼とは前の会社で上司だったの」と貴子さんが彼に同意をもとめるように覗き込む。貴子さんは話すたびに彼を覗き込む仕草が癖のようである。
「そうなんだ じゃ お互いに早く結婚しないの」と核心に触れるような質問である。私は二人の話を黙って聞いていることしかできない。何か話しに入れない雰囲気なのである。
また、貴子さんが永井さんを覗き込むように「私は早くしたいのよ、でも彼が」と言って黙ってしまった。
やはり何かある。「ええ 僕のほうに色々と問題があって無理そうなのです」永井さんはタバコに火をつけるとため息をついた。「そうなの 私たちも色々と問題はあったけど今は何もなくなったよ」と由美さん。
「いいよね 彼には奥さんがいるから」と貴子さんがはっきりとカミングアウトしたのです。
「そうなの でも時間が何とかするんじゃないの。私も仁が結婚する気がなかったのに何とかなりそうだし」と由美さんがまくしたてています。仁さんは照れくさそうにうんうんとうなづいていました。仁さんは前にも書いたように結婚の意志はなかったのですが由美さんとであってからは変わったということでした。人は出会いによって信念が変わっていくということでしょうか。私は1度離婚経験があるので言えたぎりではないのですが、最初の女性とはとにかく結婚したいと思う願望が強かったのを記憶しています。今の妻はなりゆきです。
「奥さんはどうしているの」と由美さんが聞いてきました。「今は別居しているけど離婚に応じてくれないのよねぇ。子供もいないし何にも障害はないけど意地だけなのよ。彼も慰謝料払うっていってるのだけど駄目なの、どうしょうもないのよ」
と貴子さん。「離婚の調停なんかしたの」と何やら法律的な話になってきました。
「提案したけど相手が応じないのです」と永井さん。「そうなんだ でも二人の関係は知られているの」と由美さんが本調子になってきました。「3年前から知られているし、それが原因で別居したから」と貴子さん。
「難しいね それならなかなか進まないかもね。でもどうするの」と由美さんが興味本位で質問です。
「今は半分諦めているのよ。 どうしようもないし。説得できないし」と悲しそうな貴子さんです。
「諦めないでよ。そんなことならずるずるといっちゃうよ。困るのは貴子さんなのよ。永井さんはどうするの」
由美さんの爆裂トークが始まってしまました。これからは由美さん中心にお届けします。私と仁さんは聞いているだけなのですから。仁さんもやれやれという顔です。由美さんの本性がでましたね。
「僕も何とかしたいけど妻に話そうとしても電話は切られるし手紙は受け取り拒否されるし、どうしようもないですよ」と永井さんが諦め顔になっています。
「永井さんは男でしょ。何とかしないと貴子さんがかわいそうじゃない。待たされるのは貴子さんだからね。」
と永井さんにきつい一発。永井さんは聞いているだけです。
「電話も駄目というけど、このままなら貴子さんは一生日陰の女ということになるのよ」
「永井さんがしっかりしないと駄目でしょう」初めて会った人にここまで言うかという強い口調です。