放課後、私は仕方なく風早先生がいる進路指導室へ。

ガラガラ…

「失礼します…」

恐る恐る入ると、風早先生は凄く真面目な顔で資料をペラペラとめくりながら、どうやら私にも気付かず、黙々と仕事をしていた。

「あ、あのー…」

私が声をかけると、ようやく気付いたみたいで

風早先生
「あっ、来てくれたか。悪いな、黒沼。放課後残ってもらって…ってかゴメンな?」

「?何がですか?」

風早先生
「いや、その…日直ってだけでクラス委員に指名してしまって…黒沼、手挙げてなかったし、無理矢理ですまないなと思って…」

そういって、先生は頭をかきながら少し申し訳なさそうに顔をしかめた。

「…クスッ」

その姿は、まるで拗ねた仔犬のようで、私は思わず笑ってしまった。

風早先生
「え?俺、なんか変なこと言った?」

「いえ…大丈夫です!」

私は笑顔でそう言い返すと

「で、何をすれば…」

と、本題の仕事の話に戻した。


今日の仕事は資料整理。
進路指導室ということで、大量の学校案内の資料がたくさん。

「たくさん大学ってあるんですね」


風早先生
「そりゃ、たくさんあるよ。ところで黒沼は夢とか将来やりたいことはあるのか?」


「私は……」


”将来の夢”

この言葉を聞いて、私には一つの思い出がある。


「私、高校の先生になりたいんです」


風早先生
「おぉ!そうか!…でも何で、高校の先生なんだ?小学校とか中学校とかあるのに。まぁ、俺が言うのもなんだけど(笑)」



「えぇと、それは…」


私は、ある1つの思い出を先生に話した。

それは私が幼い頃。

はじめて1人でおつかいに行った帰りに傘を忘れて、立ちすくんでいた時。


『入れてあげよっか』


と、声をかけてくれた男の子がいた。

私はその男の子におんぶされて、家まで送ってもらった時に


「…その男の人が言ったんです、『夢は高校の先生だ』って」


名前も顔も覚えてない。

でも、ほんのり甘い香水のような匂いと、温かい体温だけしっかりと覚えている。


「多分その時高校生くらいの男の人だったんで、今はもう夢を叶えて先生になってるのかなって、思ったりもしてます…なんとなく、私も高校の先生になれば、その人に会えるんじゃないかって」


(…はっ!私ったら、こんな不純な理由を先生に話して…!)

私は慌てて風早先生を見ると、風早先生はどこか戸惑ったような表情をしていた。

「…すいません…なんか不純な理由で……」


風早先生
「あっ、いや、そうじゃない。そうじゃなくて…」


そう言うと、風早先生は私の目をじっと見てきた。


ドキッ…


私は、先生の黒く透き通る瞳に吸い込まれそうになった。

胸の鼓動はどんどん早くなっていった。


「先…生…どうかしました?」


先生は、はっと我に返ったようで

風早先生
「いや、何でもない!あっ、もうこんな時間!黒沼、ありがとうな!」


「いえ…では今日は失礼します」


私はそういって部屋を出た。




(さっきのドキドキは何だったんだろう…)


先生の顔が頭から離れない。


「…私、どうしちゃったんだろ」





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「…まさかなぁ」

俺は黒沼が作ってくれた資料を整理していた。

《「私、高校の先生になりたいんです」》

《「…その男の人が言ったんです、『夢は高校の先生だ』って」》

「…俺がその男だとは…言えねぇな~」


そう。

俺が高校生になったばかりの時。

たまたま買い物に出かけた先に、幼い女の子が出口で1人立ちすくんでいるのが気になり、声をかけた。

女の子に、『将来お兄ちゃんみたいな人と結婚したい!』と言われた時に、俺は『俺の夢は、父さんみたいな立派な高校の先生になりたいんだ』って、言ったんだっけ…


「…さすがに黒沼も、覚えてねぇかな」


俺が、『いつか、君が大きくなって俺の生徒になったらいいな』って。

『そしたら、君の夢を俺が叶えてあげれるのに』って。


「…夢、叶っちまったな~」

夢というより、運命と言うんだろうか。

「…黒沼、爽子……か」

俺は、自然にふっと微笑んだ。



つづく