エリザベス ムーン, Elizabeth Moon, 小尾 芙佐
くらやみの速さはどれくらい

自閉症の青年ルウは健常者よりもパターン解析能力に優れ、とある企業のセクションAという部署でパターン解析の仕事をしている。セクションAにはルウ以外にも同様の自閉症者が何人か勤務して厚遇を受けている。大きな不満も無く、好意を持つ女性もいて、一見すると幸せそうな生活を送っていたルウだったが、ある日“自閉症に効果がある”とされる画期的治療法の実験台になれと言われる。


普段はマンガ本くらいしか読まないのに、これは珍しく2004年の発売当時に購入していたものです。買っても結局読んでなかったけれど。この連休で一気に読み終えました。(と書くほどの長編ではない…)

2004年のネビュラ賞受賞作。21世紀版の「アルジャーノンに花束を」と評されている作品です。著者はエリザベス・ムーン。

大半がルウの視点で書かれ、ナレーション的な文章は少ないです。韓国映画の「マラソン」くらいでしか自閉症についての知識が無かったので、自閉症の人がこの作品で書かれているように物事を考えるのかは正直なところ判りません。ただ、著者の子も自閉症とのことで、さらに取材も時間をかけてきちんとやったようなので、大幅に間違ってはいないのかも知れません。

光が到達する前に暗闇がそこに存在するのだから、暗闇は光よりも速いんじゃないかっていう考えも面白いけれど、それ以外にもそれを比喩した表現が散りばめられています。健常者と視点こそ違うけれど、自閉症だからこそ見えているものもあって、治療をすることでその自分を失ってしまうかも知れない、自分が自分じゃなくなるかも知れない、そんな葛藤、時間を追った微妙な心境の変化が、人によってはやりすぎと思えるほど繊細に書かれています。その変化を読んでいるだけでも面白いけれど、健常者が忘れている大切なことをルウは当たり前のように持っていて、すごく考えさせられる部分もあります。

ラストは、ちょっと衝撃的かも知れません。複雑な気持ちになりました。まあでも、どの選択が正しいってことも無いんだろうな。

普段、本を読まないだけに他との比較は出来ないけれど、たぶん良い本なんじゃないかと思います。