ジャーナリストのベロニカはバードック社のパーティーでセス・ブランドル博士と出会う。
パーティーにきている科学者たちの取材を名目としてきていた彼女は最初は熱心に話しかけてくる彼を胡散臭く扱っていたのだが、彼は自身の研究は人類が今だかつて見たことがないものだと熱弁をふるい、その熱に根負けする形でベロニカは彼の研究所へ同行する。

そこには卵形の巨大なポッドが2対、そして奥に同じようなものが置かれており、それらは巨大なケーブルを通じて繋がっている状態であった。
セスはこれこそが世紀の発明だと熱弁する。

セスのいうこの機械は『テレポッド』と呼ばれる装置の片方にものをいれ、それを一瞬にして原子レベルで解体、再構築し、もうひとつ先のポッド内に転送させるという物質転送機であった。
自分のストッキングを転送させたセスにベロニカは驚きを隠せず、これを記事にしようとするのだが、実験段階のこの状態での発表は止めてほしいとセスに固く約束をさせられる。

翌日。ベロニカは元恋人で編集長のステイシスにこの事を記事にしようと話すが『手品だ』と一笑に臥される。なおかつ関係を再燃させようとせまるステイシスに嫌悪感を露にするベロニカ。そこにセスが彼女を訪ねて会社へとやって来る。

セスは彼女に実験の成功のために協力してほしいともちかける。
セスが帰り、戻ってきたステイシスは彼が若くしてノーベル賞候補にまでなった天才科学者であることを再確認にし、ベロニカに気があることを知った上で再度口説こうとするのだが、その下劣で失礼な態度に腹を立てたベロニカは、セスに24時間密着取材をすることを告げる。

こうして始まったセスとの実験のための密着取材生活。セスは物質転送の実験を繰り返すもまだ有機物による転送実験は成功できずにいた。
情報量が多いために有機物特有の特性をコンピューターが理解できないまま実験の失敗が続くなかで、いつしかセスとベロニカは恋人関係に発展していく。

そして何気ないベロニカとの会話からヒントを見つけたセスは遂にヒヒを使った動物実験に成功する。
偉大な成功への第一歩に祝杯をあげる二人。
しかしベロニカは気がかりなことがあった。

セス宛に送られてきた郵便物のなかにかつてベロニカがステイシスに話した実験の内容記事が入っていたのである。
ステイシスの嫉妬が生んだ報復ともとれるやり方に怒りを募らせたベロニカはセスとの一夜のあとに会社にいるステイシスのもとを訪ね激しく抗議する。

ベロニカがステイシスのもとに行ったことを知ったセスは彼女は遊びだったのではと疑心暗鬼になり、ステイシスへの嫉妬心から勢いで自らを使って物質転送の実験を始めてしまう。
セスはテレポッドのなかに入り、遠隔で操作して転送の準備に入る。そのなかに一匹のハエが紛れ込んでいることも知らず…

かくして実験は成功し、セスは完全な姿でテレポッドに転送される。
夜明け近く戻ってきたベロニカに苛立ちながらも人体実験を行い成功したことを話すセス。
動画におさめられた世紀の実験の成功に二人は喜ぶのだが、その実験から数時間するとセスは漲るような体力と力、そして並外れた身体能力を発揮し始める。

転送による肉体の超人化だと力強く高揚ぎみに語るセスであったが、異常なまでに甘さに鈍感となり、背中に負った切り傷からは固いトゲのようなものが生え始めていた。
さらに異常なまでの性欲と体力を持ち始め、顔には水疱のようなできものが現れ、異臭を漂わせ始める。

不穏に思ったベロニカは背中から生えたトゲを採取し科学研究所へと送る。

一方、実験に対して否定的なベロニカに対してセスは衝動的な怒りをみせ、彼女を追い出してしまう。更なる転送実験のためにセスは街へと繰り出し、バーでたむろしていた男を腕相撲で腕をへし折ると男の彼女を強奪して自分の家へと連れ込む。
しかし転送実験には強烈に拒否反応をみせ、セスは強引に実験しようとした時、ベロニカが現れ未遂に終わってしまう。

ベロニカは先日採取したトゲの結果を持ってきていた。
そこには『人間のものではない成分』という内容がしるされていた。
混乱するセスはベロニカを追い出すのだが、その鏡に映った自分の顔は水疱だらけの汚い感じになっていた。そして浮腫み異臭を出す指先を搾ると白い液体が飛び出してくる。
自分の中にある変化に不安を抱いたセスは当時の実験データにアクセスし、原因を探る。
そしてコンピューターが導きだした答えは、転送最中に異物が混入していたということであった。

さらに進めると混入したものは一匹のハエであったことをセスは確認する。
セスと融合されたハエは遺伝子レベルで融合し、セスの肉体を変化させていく。

一週間後。一本の電話がベロニカのもとに届く。それはセスからのものであった。
しきりに反省し弱々しい彼を心配したは彼女はセスの家へと向かう。
そこで見たものは指がとけてつながり、怪物化が進んだセスの姿であった。
歯は溶け始め、全身が水ぶくれのように紫色に変色した彼はベロニカに人間でもないハエでもない新生物『ブランドルフライ』の記録を後の世のために撮ってほしいと自虐的に彼女に頼む。

その一部始終の記録をみたステイシスは絶句し、ベロニカは泣き崩れていた。

さらにベロニカはセスとの子どもを身籠っていることが判明。
サナギを産む悪夢にうなされるベロニカは変わりゆくセスの様子に悩んだ末に彼に身籠ったことを告白し、堕胎することを決める。
ステイシスに付き添われ病院へと駆け込んだ彼女はその手術の準備に備えるのだが、そこにセスが現れベロニカを強奪して逃亡する。

セスは子どもを産んでほしいとベロニカに願うも彼女は堕胎する意思を曲げない。
そんな中セスは肉体だけでなく考えもハエのように残忍になっていくと告白し、恐るべき考えにたどり着く。

一方、ベロニカを拐われたステイシスはセスの研究所に銃をもって侵入するが、潜んでいたセスに襲われ、強力な胃液によって手と片足を溶かされてしまう。痛みで気絶するステイシスに止めを指そうとする彼を制すベロニカ。
するとセスはベロニカを連れ出し、彼女をテレポッドのなかに入れようとする。
彼女は抵抗するが、その拍子に彼の顎が崩れ落ちてしまう。それをきっかけとして何とか人間の形を保っていた肉体が崩れ始め、中から完全体となったブランドルフライが遂に姿を表す。

肉片を引きずり落としながらテレポッドへと向かうブランドルフライ。彼の狙いは怪物化した自分をベロニカとその子どもで混ぜ合わさることでより人間らしく変身しようと考えていたのだった。
転送へのカウントダウンが進む中、果たして迎える結末は…

SFホラーの巨匠、デビッド・クローネンバーグが古典ホラーのリメイクに挑んだ作品。

前述した通り、本作は元々は1958年に公開された『ハエ男の恐怖』が原作である。
こちらでも頭と片腕がハエというビジュアル的な衝撃が強かったが、根本的な物語としては同じであり、これを現代の社会に置き換えてリメイクしたのが本作である。

回想録的な展開の原作とは違い、本作はVFXの発展を大いに活かした徐々に変身していく『ブランドルフライ』の様子が最大の見所である。
水疱状の発疹ができ始める所から、徐々にそして確実に肉体が崩れ、グロテスクに変貌していく姿は目を被う惨状であり、クライマックスに登場するブランドルフライの完全体のビジュアルは原作以上にグロい仕上がりでトラウマ必至。

この辺りのホラー作品群の中では残酷描写としては少なめではあるがひとつひとつにインパクトの強いものが多く、実験の失敗で皮膚がめくれあがり血だらけの肉片と化すヒヒや強力な酸性の胃液で恋敵の肉体を溶かしていくシーンなどなかなかに食欲減退に繋がりそうなものばかり(笑)

しかし厳しめの残酷描写があるなかでも本作は異形のラブストーリーとして評価が高い。
それは全編を通じてヒロインの愛するがゆえの葛藤が描かれているからであり、欲のままに行動するセスやステイシスと比べてその姿勢が貫かれているため、怪物と化してしまった主人公の哀しさが垣間見得る最期のシーンが際立ってくる。

ここに単なるモンスターホラーではない思慮深さと重さが感じられる。

そして作品の重厚さを際立たせているのが主人公のジェフ・ゴールドブラムの存在感。
本作の登場人物は決して多くなく、主要人物の三人が繰り広げる三角関係の恋愛ホラーともいえる。
そんな中で野心的でありながら子供っぽくそして肉体的に強靭さを表すシーンもある人物としてこれほど的確な俳優はいないだろう。

今では大作パニック作品の主役級の常連にまで成り上がったが、このまだ若手の頃であろう時代でのインパクトの強さはこの作品を脳裏に焼き付かせることに大きく役立たせている。
グロテスクな描写にばかり注目が集まりがちであるが、クローネンバーグの巧みな演出によって稀有なドラマ性の高いホラーとなったことも評価したい名作である。

残酷度…★★★★

評価…★★★★
(出演陣の演技力の高さが単なるグロホラーから恋愛ホラーの名作にまで登り詰めましたね)