皆さんこんばんは。暇はあるけどお金はない。映画だけが心の支えのいわしでございます。
一部の方には評価をいただいている映画フリークのいわしが独自の観点と鑑賞の記憶から語る映画コラムシリーズ。
第3弾となる今回はアクション作品でよく見かけるあのキャッチについて考察していきたいと思います。

さてアクション映画界には今も新たなスターたちがデビューし、出演し、作品を作っているのですが、特に目新しいアクション俳優の売り出しでこういうキャッチコピーを見ることはないでしょうか?
『次世代ヴァンダム!』
『第2のブルース・リー!』

といった言葉。

今でも格闘家出身のスターや武術家出身の俳優の作品で売り出し文句としてよく使われていますね。
このキーワードの歴史って意外と知られていないところです。

そもそもこの『第2の○○』はいつから始まったのでしょうか?

○○に起用される俳優にはまさに当代きってのスターの名前が使われますが、その始まりはまさに不世出のアクションスター

『ブルース・リー』


が最初だと思われます。

ブルース・リーはアジアだけでなくハリウッドでも伝説となった初めての格闘アクションスターですが、彼が大ブレイクを果たした1973年直後に病死してしまいます。
アジア映画における彼の損失は計り知れず、香港アクションの存亡にまで発展するような出来事でした。そのため香港を含めアジアのアクション映画界は彼に続くスターの発掘が急務の問題でした。
これにより新たにジャッキー・チェンが『酔拳』に確実にブレイクを果たすまでの役10年の間、ブルース・リーの後継という意味で早く売り出そうと数多くのアクションスターが現れては消えの連続だったようです。
この間ブルース・リイをはじめとするいわゆるブルース・リーのそっくりさん俳優の面々はもちろんのこと、ちょっとでた新人のアクション俳優の売り出し文句にまで軒並み『第2のブルース・リー』という文字が踊っていました。
以降ジャッキー・チェンが今も変わらず活躍する時代になってからもアジア系特に中国系アクションスターが対外へ売り出す文句にはかなりの確率で『第2のブルース・リー』や『次世代ブルース・リー』がつかわれていますね。

それではハリウッドではどうでしょうか?
ハリウッドにも格闘を売りにしてきたアクションスターは数多くいますが、使われている俳優はこのスターしかいません。
そのスターの名は

『ジャン・クロード・ヴァン・ダム』

です。

なぜ彼の名前なのか?ヴァン・ダム以前にも格闘アクションスターの大物ならばチャック・ノリスショー・コスギデビッド・キャラダインなどいました。
これには彼の作品群やアクション内容が大きく絡んでいると考えられます。

ヴァン・ダムのアクションの特徴といえば180度開脚の股割りやヘリコプターのような美しい回転の跳び回し蹴りですが、そんな彼の作品の中で『次世代』の冠をつけさせるきっかけともいえるヒット作が
『キックボクサー』
です。
この作品での彼の鮮やかな足技は今までのパンチ主体でキックはアクセントもしくは最後のとっておきだったアクション作品の構図を変えて、作品中により蹴り技をだせるアクションスターが注目を浴びる時代にしてしまいました。
ヴァン・ダムがブレイク後はどの格闘技ジャンルからの参戦であれ、彼と比較し、彼のアクションを基準にみられるようになります。
90年代に大量にアクション映画界に出てきたキックボクシング出身俳優陣はその売り出し文句には必ず『次世代ヴァン・ダム』の文字が踊っていましね。
その流れは今も続いていてハリウッドの新人アクションスターは一度はヴァン・ダムと比較されることはもはや既定路線化しています。

ところでブルース・リーにしろヴァン・ダムにしろ同時期には優れたアクションスターはたくさんいました。
ブルース・リーの時代にはジミー・ウォングがアジアでは影響力がありましたし、ヴァン・ダムにいたってはドルフ・ラングレンスティーブン・セガールもいました。
しかし実際には『第2のジミー・ウォング』や『次世代ドルフ・ラングレン』という名は聞きません。
そこでみたところ唯一無二のこの冠にはいくつかの条件があるようにみえます。

まず必要なのは絶対的な『カリスマ性』。これはどのアクションスターにも共通するところです。
そこにプラスして作品群に『二番煎じものがないこと』が挙げられます。
チャック・ノリスやドルフ・ラングレンはそのヒット作にシルベスター・スタローンの『ランボー』的な作品がありました。
それはオリジナルとうたってはいてもやはり唯一無二の作品とは見ない人もいるわけでよく知らない一般人には一緒にみえるわけです。
ヴァン・ダムの作品には意外に他のスターと被るアクションジャンルが少なく、双子の二役ものなどの新しいジャンルの先駆者でもあります。それにプラスしてハリウッドに渡ってきた香港系監督との実験的企画に活用されることで唯一無二の地位を築いたのもあるのかもしれません。

第2に『ダークなイメージがないこと』でしょう。
当時ブルース。リーと覇を競ったジミー・ウォングは黒社会との関係があり、陽性のリーのイメージと反対のダーティーなイメージがつけられてしまいました。
セガールはデビュー時までの経緯が全く謎に包まれていて、「彼はCIA出身」とか「特殊部隊出身で人を殺したことがある」などのあらぬ噂が飛び交い、強烈な個性と引き換えに危ないイメージも刷り込まれたのでした。

第3に『格闘家として超一流である』ことです。
格闘系のアクションスターはみなそれぞれに華々しい戦績の持ち主が多いですが、ブルース・リーは言わずと知れた『ジークンドー』の創始者であり、ヴァン・ダムは実は欧州の空手界では無敵のチャンピオンだった経歴の持ち主。
宇宙最強と揶揄されるチャック・ノリスも選手時代には敗北経験があるので、それを見るとこの二人の功績は『次世代』や『第2の』冠をつけるにふさわしいのではないでしょうか?

最近ではこのブルース・リー、ヴァン・ダムに続いて数こそ少ないもののアジア限定ですが『第2のジェット・リー』という看板も出始めた模様です。
ジェット・リーも中国武術界ではレジェンドで大会5連覇の偉業を幼いころに果たすなど二人に並ぶ堂々たる経歴でありその冠に相応しいスターであると思います。

同じレジェンドのアクションスターでもジャッキー・チェンに『第2の』がつかないのはそういったとこもあるのでしょうね。彼はもともとスタントマンで武術家ではなく、自身も『カンフーを演じている』と述べていたこともありましたので。
そんな彼の場合は『第2の』や『次世代の』という文句でなく『~の後継者』という文言がよく使われています。

それでは最後にこの三人の『次世代○○』に私いわしが最も近いと思うスターを紹介して締めたいと思います。

もっとも歴史的に新しい『第2のジェット・リー』ですが、これには彼の弟弟子にもあたる
『ウー・ジン』


が相応しいでしょう。
ウー・ジン自体の主演作品が結構ジェット・リーと似通っているとこもあります。TVシリーズで『少林寺』に主演した彼の役どころは映画でジェット・リーが演じた主人公の役でもあることから最初からその路線で目指していた節もあるようです。
彼のアクションも流麗で美しく、『戦狼』でブレイク後の彼がどこまでジェット・リーの活躍に近づけるかが楽しみですね。

そして次世代候補でならば最大数であろう『次世代ヴァン・ダム』問題ですが、長年の隆盛のなかでようやく彼のスタイルを継承しつつ超えそうな逸材として挙げられるのが
『スコット・アドキンス』


です。
彼はもともとヴァン・ダムにあこがれてこの世界を目指し格闘技を習得してきた猛者で、彼の念願かなって憧れのヴァン・ダムとの共演作はなんと5本にものぼります。
ヴァン・ダムのもつ華麗な足技以上に華麗でかつハイスピードなアクションをこなし、ポテンシャルは全盛期のヴァン・ダム以上といっても過言ではありません。

最後に絶対的な存在力をしめす『第2のブルース・リー』ですが、答えからすればブルース・リーを超える存在は未だにというかこれ以降も現れることはないでしょう。
ただ彼に近づける存在としてあげるならば
『ドニー・イェン』


を挙げたいと思います。
第2のブルース・リーという文言はかつてジャッキー・チェンにも若かりし頃につけられていましたがそれが足かせとなってブレイクできないでいました。あのジャッキーでさえ霞むのですからいかにブルース・リーは規格外の存在感だったかわかります。
ドニー・イェンは幼いころから熱心なブルース・リー信奉者として知られていて、彼の作品の中にはブルース・リーをオマージュした内容の作品が数多くあります。単なる模倣者が多い中で幅広い格闘技に精通し、対応できる点では総合格闘技の源流を作ったリーのスタイルに一番近いのかもしれません。
彼もハリウッドに進出し活躍の場を広げていますのでどこまで成長していくのか楽しみではありますね。

さて第3回いかがだったでしょうか?
気にも留めてなかった『次世代○○』問題、少しでもなるほどと思えたら幸いです。
これから出てくるアクションスターたちのキャッチに注目してみるとまた違う作品の楽しみ方増えるかもしれませんよ。
それでは次回また違ったお題でお会いしましょう。


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