◆子罕(しかん)篇は、孔子の思想をギュッと凝縮した個所でもあった
 
 6月17日(水)に片付け物をしていたら、私宛の見慣れぬ封書が出てきた。
出版社宛てで、
「〈渋沢栄一と陽明学〉著者、林田明大様」
 と記されていた。
 開封済みなのだが、全く記憶にないので、慌てて手紙を取り出した。拙著『渋沢栄一と陽明学』をご一読下さった読者・伊藤某氏からの御手紙で、400字詰め原稿用紙が2枚入っており、ほぼ1枚半が文字で埋め尽くされていた。文末には、令和元年9月1日の日付があった。
 返信を出した覚えもまるで無い。老化からくるモノ忘れのせいにしながら、急ぎ返事を書いて出させて頂くことにした。

 お手紙の冒頭はこうあった。

「渋沢栄一と論語ではなく、〈渋沢栄一と陽明学〉と並べられたことで、ただ論語を解釈された活字として読み、孔子を聖人化して形骸化した儒学ではなく、孔子の教えを胸に日々の生活の中、自己研鑽を積むのが格物、そして孔子の教えを体得するに到るのが致知・致良知、陽明学とはそういうものであるとの感を受けました。」

 どうやら自己研鑽のために儒学を学んでこられた方のようで、「格物致知」を引き合いに、陽明学は形骸化した儒学とは違い、孔子の教えを日々生活の中で自己研鑽を積み、体得するのが陽明学だ、との感想を持たれたとのことである。
 果たして、私はそう思われるようなことを書いたのだろうか。
 実は、『渋沢栄一と陽明学』で私が言わんとすることはそのお手紙には触れられておらず、後述するように、『論語』子罕篇の冒頭にある言葉が話題となってその手紙は終わっていた。

 そのことがいささか残念ではあったが、それでも、おかげで子罕篇を読み直すきっかけを頂いたことには感謝しなければならない。というのも、この子罕篇は、孔子の思想をギュッと凝縮した個所でもあったのだ。「子、四を断つ」「鄙事多能(ひじたのう)」「逝く者は斯くの如きか」など、名言が頻出するではないか。

◆「先生はめったに利益について語られなかった。もし語られたなら、運命に関連し、仁徳に関連してであった」

 さて、伊藤某氏からの御手紙に触発されて、『論語』子罕篇「子罕言利与命与仁」について改めて調べてみた。
 伊藤某氏の手紙にはこうある。( )内は筆者注。

「漠然とした利や命を仁と合はせてまれに説明したと言うのでは無く、人を教え導くことで地位や得られる利と仁を合一させ、売りたいが売れない玉が(子罕篇13に「私は玉を売ろう」とある)、教団主的地位に甘んじる命も仁と合一させて来たのだと時々おっしゃった、と言うことではないか」
 と。
 続けて、こうある。〔 〕内筆者注。
「〔孔子は〕利と与に命と与に仁を貫いて来た」
 のだ、と。
 伊藤氏は「吾道一以貫之(我が道〈みち。どう〉は一〈いつ〉を以〈も〉って之〈これ〉を貫く)」(『論語』里仁篇)を、「一=仁=知と行の合一」だと解されたのである。
 ちなみに「吾道一以貫之」は、「一以貫之」という四文字熟語でも知られており、その訳は、「私が説きかつ行う道は、常に一貫した原理がある」、あるいは「私の人生は、ある一つのこと(仁)で貫いてきた」となる。

 私なりの伊藤氏への見解を述べる前に、子罕篇冒頭の
「子罕言利与命与仁」
 について見ておきたい。
 ご専門の方は先刻ご承知だが、漢文、いわゆる中国語の場合、日本語のように「。」「、」で区切られていないので、その区切る個所がどこなのかで、意味が変わってくるのである。つまりは、往々にしてその文章が幾通りにも理解可能なため、その文章の筆者の真意があいまいになり易いし、どう理解していいのか理解に窮することもあるのだ。
 さて、
「子罕言利与命与仁」
 の何所に「、」を入れているのかに注意をしながら、いくつかの解釈を見ていきたい。
 
 まず、朱子学者・宇野哲人の訳である。(以下、敬称略)
「子罕(しまれ)に言ふ、利と命と仁と」(『論語新釈』講談社学術文庫)
 以下、通釈。
「孔子は人に教えるにあたって利(り)と命(めい)と仁(じん)とはめったに言わない。利を計(はか)れば義を害するし、命の道理は奥深く、仁の道は大きくて常人には分からないからである」

 金谷治訳注『論語』では、
「子、罕(まれ)に利を言う。命と仁と」
 と読み、訳は
「先生は利益と運命と仁とのことは殆(ほと)んど語られなかった」
 となっている。宇野哲人訳と同じである。
 しかし、『論語』の中で利と命について孔子はそれぞれ6回語ったが、仁については60回以上も語っているという。利と命と仁については、めったに語らなかったという宇野や金谷の訳はふさわしくないことになる。

 次は、木村栄一訳注『論語』からである。
「子罕(しまれ)に利と命と仁とを言ふ」
「先生は利を優先させる判断をしたり、〔安易に〕運命論で片づけたり、自分にも他人にも簡単に仁をみとめたりは決してしなかった」
 宇野、金谷の訳とは区切る個所は同じでも、現代語訳は違っている。

 そして、貝塚茂樹訳注『論語』からである。以下は、江戸中期の儒学者・荻生徂徠(おぎゅう・そらい)の読み方によったとある。
「子、罕(まれ)に利を言う。命(めい)と与(とも)にし仁(じん)と与にす」
「先生はめったに利益について語られなかった。もし語られたなら、運命に関連し、仁徳に関連してであった」
 調べてみると、武内義雄、フランス文学者・桑原武夫なども、この徂徠説を採っている。
そして私も、徂徠説を採用したい。

◆「知行を分けるな、分けて考えるな」

 ここで、話を伊藤某氏の手紙のことに戻す。
「仁という一を以って貫く」
 という理解には納得できるのだが、仁を「知と行の合一」と理解されている点には、納得できかねるのだ。
 この一文の結論めいたことを言わせて頂くなら、約30ページ弱からなる本書『渋沢栄一と陽明学』の第7章
「小事即大事、大事即小事」
 に、渋沢栄一に仮託して私が一番言いたかったことを吐露させて頂いたのだが、P208の小見出し
「知行を分けるな、分けて考えるな」
 に象徴的と言って良い。
 いみじくも伊藤氏が、
「知と行の合一」
 と記されている点がそもそも問題なのである。
「知行合一」
 とは、それぞれ個別に存在する知と行を一つに合わせることを意味しているのではないのだ。そのことを、P210の冒頭に
「知行は言葉の上では区別できても、本来一体のものだから、知行を分けるな、分けて考えるな、と説いてるのだ。」
 と、記させて頂いたのだ。
 続けて、私はこう書いている。
「こうした〈分けるな〉という物の見方・考え方は、陽明の場合終始一貫していて、晩年の〈万物一体〉説へとつながっていく。」
 その後の小見出しは、
「知は行の始(もと)、行は知の成(じつげん)」
 となっている。
 王陽明は、知行は一体であって分けられない、と説いているのである。
「知行合一」とは、言い換えれば「小事大事合一」のことであり、禅的表現を借りれば「小事即大事、大事即小事」なのである。

 自然科学を生み出した二元論や唯物論が間違いだというわけではないが、二元論や唯物論しかないと思い込んでいるが故に、「知行合一」に代表される陽明学の一元論(『易経』に代表される東洋思想の神髄。ルドルフ・シュタイナー思想も一元論)の教えがなかなか理解されてこなかったのは、残念としか言いようがない。
 それでも、このまま二元論や唯物論に洗脳されて生きてしまうことが如何に危険極まることなのかを、孔子や孟子、王陽明の精神を受け継いで、実践体得に努めて、日本の天台宗の開祖・最澄の言葉ではないが、一隅を照らしつつ、警鐘を鳴らし続けるしかないようだ。


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幼くして両手両足を失い重度の障碍者となった中村久子(1897~1968)さんの生涯を描いた動画だ。彼女のことは、知る人ぞ知るかと思うが、拙著『新装版・真説「陽明学」入門』でも触れさせて頂いたことがある。
 両手足のない体で、裁縫や編み物もできたし、口にペンや筆を加えて字を書き、達筆ぶりで人々を驚かせた。仕事をし、結婚をし、子育てをし、女性として母として見事に生き抜き、他の障害者を励まし続けてその72年の生涯を終えた。
「恩恵にすがって生きれば甘えから抜け出せない」
 と、生涯を通じて国から傷害者に与えられる保障を受けることが無かったという。
 中村久子は、こう語った。
「私を救ったものは手足のない私の身体、この逆境こそ感謝すべき私の師でありました」
 壮絶な人生に裏打ちされた、なんとも迫力ある、鬼気迫る言葉ではないか。
 久子は、42歳頃から仏教書『歎異抄(たんにしょう)』を愛読した事でも知られている。

 私同様、左巻きの関口宏氏の顔は見たくない、と思う人もいるでしょうが😊、そこは我慢してこの動画を是非見て頂きたい。





 以下は、上記の演説内容をより分かり易くするための「注」として、2016年7月23日の「トランプ氏受諾演説」から引用させて頂いた。一読の価値ありである。

「何十年もかけて犯罪を減らしてきましたが、現政権が警察を減らしたため、状況が逆戻りしています。アメリカの50の大都市における去年の殺人件数は17%増加しました。この25年で最大の増加です。わが国の首都では殺人が50%増加しています。首都近郊のボルチモアでは60%近くも増えています。大統領の出身地であるシカゴでは、ことしだけでも2000人以上が銃の発砲によって犠牲になっています。そして、シカゴ地区では、オバマ大統領が就任して以来、およそ4000人以上が殺害されています。職務中に殺害された警察官の数は、去年の同じ時期に比べておよそ50%も増加しています。犯罪歴があり、わが国から追放を命じられた18万人近くの不法移民が、今夜も自由にうろついて、平和な市民たちを脅かしています。」

「ことしに入ってこれまでに国境を越えた新たな不法移民の数は、すでに2015年の年間の人数を超えています。公共の安全や資源に与える影響などお構いなしに、何万人もの不法移民が私たちの地域社会に放たれているのです。このようにして国境を越えて入ってきた1人の男が自由の身となって、ネブラスカに行きました。そこで、彼は、サラ・ルートさんという名前の無実の若い女性の命を奪ったのです。彼女は21歳で、優秀な成績で大学を卒業した翌日に殺害されました。クラスでいちばんの成績をおさめていたのです。彼女を殺害した男は、当時、2度も釈放されており、現在は法の網の目をくぐり抜けて逃亡者になっています。私は、サラさんの美しい家族にお会いしました。しかし、今の政権にとっては、彼らの美しい娘は、保護する価値のない、1人のアメリカ人の命に過ぎませんでした。これ以上、子どもが、開かれた国境の犠牲になるようなことがあってはなりません。」



②「私たちの経済はどうでしょうか?皆さんが目にする夜のニュースや朝刊に載っている明白な事実をお伝えしましょう。アフリカ系アメリカ人の子どもたちの10人に4人近くが貧困生活を送っており、アフリカ系アメリカ人の若者の58%が雇用されていません。オバマ大統領が8年前に大統領に就任したときに比べて、現在、ヒスパニック系アメリカ人で貧困に苦しんでいる人たちは200万人も増えています。更に1400万人が労働人口から完全に外れています。世帯収入は、16年前の2000年以降、4000ドル以上も下がっています。私たちのモノの貿易赤字は去年だけでおよそ8000億円に達しました。私たちは、それを直します。予算もよくありません。オバマ大統領は、国家の債務をおよそ19兆ドル以上に倍増させ、今も増え続けています。しかし、それにもかかわらず、私たちの道路や橋はばらばらに壊れ、空港は第三世界の様相を呈し、4300万人のアメリカ人が食糧切符で暮らしています。

「アメリカは1997年以降、ビル・クリントンとヒラリー・クリントンが支持した破壊的な貿易協定の執行に伴って、3分の1近い製造業の雇用を失ってきました。思い出してください。NAFTAに署名したのはビル・クリントンです。あれはわが国、あるいは率直に言ってあらゆる国がこれまでに締結した最も悪しき経済協定の1つです。」「私の対立候補は、わが国の中産階級を破壊してきたほぼすべての通商協定を支持してきました。彼女はNAFTAを支持し、中国のWTO=世界貿易機関への加入―、 これも彼女の夫が引き起こした大間違い、大惨事の1つですが―、これを支持しました。彼女は雇用を失わせる韓国との通商協定を支持しました。彼女が支持したTPP=環太平洋パートナーシップ協定は、わが国の製造業を破壊するだけでなく、アメリカを外国政府の決定に従わせるものです。」

③「クリントン氏がアメリカ外交の責任者に就任する前の2009年、過激派組織IS=イスラミック・ステートは地図にさえ載っていませんでした。リビアは安定していました。エジプトは平和でした。イラクでは暴力が大幅に減っていました。イランは制裁で窒息させられていました。シリアはなんとか統制が取れていました。ヒラリー・クリントン時代から4年後、私たちには何があるのでしょうか?ISは地域全体、そして、全世界へと拡散しています。リビアは破壊され、アメリカ大使とその職員は、野蛮な殺人者の手によって助けもないまま死亡しました。エジプトは過激なムスリム同胞団に引き渡され、軍による権力の掌握を余儀なくさせています。イラクは混乱の中にあります。イランは核兵器開発の途上にあります。シリアは内戦に巻き込まれ、難民危機が西側諸国を脅かしています。中東での15年間の戦争で何兆ドルもの資金が投じられ、何千という命が失われたあと、状況はかつてないほど悪化しています。これは、ヒラリー・クリントン氏が残した遺産です。死、破壊、テロリズム、そして弱さです。」

「イスラム過激派が損害や破壊を生じさせえることは何度となく実証されています。世界貿易センターで、サンバーナーディーノの職場のパーティーで、ボストンマラソンで、テネシー州チャタヌーガの軍の新兵募集所で、その他、多くの場所で。ほんの数週間前にも、フロリダ州オーランドで49人のすばらしいアメリカ人がイスラム主義のテロリストにより無残にも殺害されました。このとき、テロリストの標的になったのはLGBTQ(性的マイノリティー)のコミュニティーでした。」


私の対立候補は、シリア人(の受け入れ)をなんと550%増やそうと呼びかけています。考えてみてください。信じられませんが、実際に起きていることです。オバマ大統領の指揮のもとですでに行われている既存の大量移民流入に加えて、シリアからの難民を550%も増やそうとしているのです。これらの難民がどういう人で、どこの出身かを知るための審査方法がないにもかかわらず、彼女はこれを提案しているのです。私は、アメリカの価値観を支持し、アメリカ国民を愛する人にしかこの国に入ってほしくありません。

前国務長官が、私用サーバーにメールを違法に蓄積し、当局に犯罪を見抜かれないように33000件のメールを削除して、わが国を危険にさらし、あれこれウソを並べ立てても責任をとらない。私は、こうした腐敗がわが国でかつてないレベルにまで進んでいることを知っています。FBI長官は、前国務長官の機密の取り扱いについて、“極度に不注意”で“怠慢”だったと述べていますが、彼女が実際にしたことに比べ、これらのことばが軽いことも私には分かっています。彼らは、酷い犯罪に対して裁きが下されることから彼女を救うことが常なのです。」


 何故だか、動画をアップできない。💦以下映像だけである、悪しからず。

トランプが当選して良かった理由が分かる動画

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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