「日本陽明学」では、王陽明の一の高弟の王龍渓(おう・りゅうけい)の教えを重視してきた

 陽明学に興味がおありの方であれば、陽明学が中国では明王朝の滅亡と共に無くなり、江戸初期から日本で発展し、今日にまで至っていることは先刻ご存じのことでしょう。
 日本陽明学の祖・中江藤樹のおかげで、その後神道に接ぎ木されて「日本陽明学」として独自の発展を遂げてきたわけですが、「日本陽明学」では、王陽明の一の高弟の王龍渓(おう・りゅうけい。「溪」も可)の教えを重視してきました。
 王陽明亡き後の一大陽明学ブームは、何と言っても王龍渓の働きによるところが大きいのです。
 我が国江戸時代の喜多方を中心にした「会津藤樹学」の場合も、王龍渓の教えが重視されました。

 以下、王龍渓の言葉をいくつか披露します。分かり易くするべく、ルビや語意などを補足しました。

「人の心に自ずから天則(良知)がある。学を知る者は、まさにこれを自得する(自分自身でつかみ取る)べきだ」(小路口聡『王畿「蓬莱會籍申約」訳中、陽明門下の講会活動記録を読む①』)

「傲慢さは凶徳である」(同上)

「〈謙〉は徳の原動力である」(同上)

「王陽明先師は、良知の2字を選び出したが、〔それは他でもない〕生機(天地造化のからくり)の中から、人々にその霊竅(れいきょう。霊妙なるはたらき」)を指し示して与え、〔人が〕力を用いるべきポイントを知らせたのである。
 今、不孝不弟(親不孝で年長者を敬わない)の人がいたとして、不孝不弟だと指摘すれば、怫然(ムッ)として怒るだろう。ここから不孝不弟の人も、良知を失っていない事が分かる。
 悪事を働く最低の人間でも、その人を指して悪党だと指摘したならば、忿然(ふんぜん。プンプン)と怒って抗議するであろう。悪党でも、孝子(こうし。親孝行な子供)を見れば、やはり肅然(しゅくぜん。キリッ)として尊敬の気持ちを起こす。極悪人でも、良知を失っていないことが分かる。
 (中略)われわれが、もし本当に一念発起(いちねんほっき)して、性命(せいめい。人間存在の意味)を実現することを目指し、この事実〔良知の固有性〕をとことん信じ、ひたすら目前の事態に即して、この良知を発揮するならば、それがそのまま、〔孟子の所謂(いわゆる)〕『尽性(じんせい。本性を発揮する)』であり、そのまま生涯にわたって天命を守るという誓いのしるしであり、一時(いっとき)も〔人の生の営みを〕離れることはできない」(同上)

「精神(きりょく)を集中し、ほかでもない力を省(はぶ)けるところ〔「性命」、すなわち本性の自然〕に従って行動せよ。ひたすら求めさえすれば、〔欲望は〕日に日に減っていくが、求めなかったならば日に日に増えてくる」(同上)


 繰り返しになりますが、中江藤樹を先駆とする「日本陽明学」を理解するうえで、決して外すことのできないのが王龍渓の思想です。中江藤樹の一派では、王陽明の思想以上に、一の高弟の王龍渓の思想が重要視されたと言っても過言ではありません。陽明学の実践体得を目指される方には、王龍渓の教えはとても参考になります。
 この度の一般向けの王龍渓についての講演会は、実に画期的なことで、戦前のことは分かりませんが、少なくとも戦後初と断言していいでしょう。

◆講演会開催概要

・2019年12月14日土曜日 13:00~15:10
(講演90分、質疑応答30分)
・会場:佃区民館6号室(東京都中央区佃二丁目17-8)
電話:03-3533-6951
※会場は、畳敷きの和室です。
最寄り駅・東京メトロ有楽町線または都営地下鉄大江戸線
「月島駅」下車4番出口 徒歩1分
・主催:王龍溪の良知心学と講学活動事務局
・参加費:3,000円/人
※当日、会場で現金にてお支払いください。
・お申込フォーム:https://forms.gle/AGN5R7c6C2bfXDE46

【小路口聡先生のコメントとプロフィール】
「一般の人にどんな事を話したのか」「現代生活の中で実践できること」というご依頼ですので、「改過」ということを中心に、お話ししようと思います。王龍溪の「一念自反」の工夫、「良知現成」の人間観は、とことんつきつめていけば「改過」に集約できます。庶民を対象にした講会の場において、王龍溪は、この「改過」の二字を繰り返し説いています。この二文字を通して、王龍溪の良知心学の本質に迫ってみたいと思います。

・東洋大学大学院文学研究科中国哲学専攻 教授
・王龍渓を専門とする数少ない研究者で、講演や著書では平易な言葉で説明するため、一般の人からも「分かりやすい!」と大好評。
・著書:
『語り合う<良知>たち―王龍溪の良知心学と講学活動―』(2018年)
『「即今自立」の哲学 ―陸九淵哲学再考― 』(2006年) 他

王龍渓 こくちーずプロ












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