◆『流水はつねに生きて、たまり水は間もなく死ぬ。柱には虫が入り、鋤(すき。シャベルのような農具)の柄(え)には虫が入らない』

謹(つつし)みて新年を賀(が)し奉(たてまつ)る。
昨年は 何かと忝(かたじけな)く御座候(ござそうろう)。
又 本年も格別なる御交誼(ごこうぎ)の程(ほど) 宜(よろ)しく願上候(ねがいあげそうろう)。


 江戸時代は、上記のような言葉遣いで年賀状を書いていたようである。ただし、相手が上司や同僚や目下の違いによって、その敬語の使い方が違ってくる。
 早いもので、もう1月4日(土)である。
「最近は、あまりブログを書いてませんね」
 と、越川康夫さんに言われて、ちょっとハッとさせられたのだが、今のところ、フェイスブックで間に合っているので、ついブログのほうがおろそかになってしまっているのである。フェイスブックでは、いろいろな反応を頂けるのだが、それに比べたらブログにはリアクションが少なすぎる(苦笑)。
 誰かに話しかけても、無反応であれば、自然にアクションを起こさなくなるのも道理であろう。
 2日(木)の午後3時頃、妻や子供たちと一緒に越川禮子先生宅に年始の挨拶にお邪魔させて頂いた。
 広島にお住いのご長男の越川康夫さんご夫妻が、お節料理を作って待っていてくださったのである。

 話は変わる。
 今月18日を第1回とする品川での全3回の連続講演へ向けて、昨年末来、陽明学者・熊澤蕃山の著作『集義和書』を読み続けているのだが、中でもいつしか以下の一節が頭の隅に鎮座してしまい、離れることがない(*^-^*)。
 拙いながら、以下は、その一節を私なりに現代語訳(それも少々俗っぽく)させて頂いたものである。一部、分かり易く加筆修正させて頂いた。

「俗に、
『貧は世界の福の神』
と言いますが、一体どういう事でしょうか?」
「世の中の人が全員金持ちになったら、この世は終わりとなってしまうことでしょう。というのも、貧賤だからこそ、人々は五穀(米・麦などの五種の主要な穀物)やいろいろな野菜を作り、衣服を機(はた)で織り、材木や薪(たきぎ)を切り、塩田で海水から塩を作り、海で魚をとり、商人は、いろいろな物を売買するのです。
 6月の炎暑をものともせず、あるいは旧暦12月の雪や霜を踏んで塩や薪や野菜などを売り歩くことは、金持ちになってもやるのでしょうか。
 農・工・商も貧しさから起こって世の中が成り立っているのです。
 それも、農・工・商に限ったことではありません。
 武士といえども、貧しさを常のこととして学問やいろいろな芸事に励み、才徳を我がものとすることができているのです。生まれつき栄えて羽振りの良い人というのは、多くの場合、何の才能も徳もなく、国の役にはたちにくいものです。
 ただ、士・農・工・商だけではなく、国や天下の大臣、国や郡の主であっても、祭祀(さいし)、喪葬(そうそう)、軍備、賓客(ひんきゃく)、冠婚の礼に必要なものを準備し、国の水害や旱魃(かんばつ)の害のための蓄(たくわ)えをなし、主君に仕える役柄や務めがあるので、お金が充分に足りるということはあり得ません」(「巻三 書簡之三」)


 正直、「貧」を実感しているだけに、その意味を
「う~ん」
と納得させられたのである。
 上記の箇所は、かつて本書を一読したときには気になっていなかったようで、その証拠には、アンダーラインも引いていなかった。
 やはり、年齢とともに本の読み方が変わってきたという事なのであろう。
 このすぐ後に、次のような言葉が続く。

「身に病がなく、家に災いがない、達者で暇がないのは、清福ではないか。・・・(中略)・・・『流水はつねに生きて、たまり水は間もなく死ぬ。柱には虫が入り、鋤(すき。シャベルのような農具)の柄(え)には虫が入らない』・・・(中略)・・・人は動く物である。上は天子より下は士民に至るまで、無逸(むいつ。安逸〈あんいつ〉を貪〈むさぼ〉らないこと)を務めとするのが人の道である」(同上)


 事実、熊沢蕃山は、極貧の中、中江藤樹に師事し、学問に励んだのだった。熊澤蕃山を苦学へと駆り立てたのは、「貧」であったといっても過言ではないのである。そして、この私も然りである。
熊澤蕃山のモットーの一つが
「貧は士の常」
 であった。

 最後に、余話を一つ。
 蕃山は、「貧は士の常」という覚悟のもとに清貧を貫いて生きていたので、その死後には遺産というべきものはまるでなかった。そのために、遺族の中には、路頭に迷うものがあった。
 門人たちの中には、
「これではいけない」
 と困窮している遺族の救済にあたるものが出てきた。
 中でも中院(なかのいん)家一族は積極的に力を尽くした。
 その中心人物こそが、『源氏物語』の共同研究者の中院通茂(みちしげ)であった。
 そうさせたのは、蕃山の人徳であった。

※中院通茂(なかのいん・みちしげ):江戸時代前期から中期の公卿。歌人としても名高い。蕃山門下の四天王の一人。



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