◆糸川博士は、見事に、相対立する2つの要素を一つにすることに成功したのである。言い換えれば、中庸の精神を発揮し、実現したのである。

 これは、最近いろいろな本を読み、映画を見ている中で、最もジーンと私の胸を打った言葉である。

 
『人生で最も大切なものは、逆境と良き友である』
                            
                     日本のロケット開発の父・糸川英夫

 
2012年11月11日に、内之浦宇宙空間観測所に建てられた糸川博士の銅像の台座に刻まれた言葉である。

 小・中学校時代は、やんちゃで成績も悪かったという糸川博士、その才能は、中3の頃から猛勉強に目覚め、その才能は、大学を出て中島飛行機に入社してから開花する。小学校での算数の成績は、悪いと0点、良くて30点だった。

 大変に興味深いのは、まず最初にクリアした課題の話である。

『糸川に与えられた最初の本格的な仕事は、
「複葉の性能を持つ単葉の空力設計」
 だ。
 つまり、
〈2枚の翼の役割を1 枚でこなせるようにしろ〉
 というものだった。
 これは難しい課題だ。
 翼を減らす、という単純なことではない。
 複葉の最大のメリットは、空気を大きな面積でとらえられるので、旋回性能が良くなることにある。しかし、空気に触れる面積が大きいため、速度が出ない。
 片や単葉は全く逆に、空気をとらえる面積が小さいので速度は出るが旋回性能が悪い。戦闘機のパイロットにしてみれば、空中戦の最中は旋回性能が求められるが、離脱して逃げるときは速度が欲しい。
 また、このころまでは戦闘機同士が正面から出会って1対1の空中戦をすることが多かったが、次第に戦法が変化し、上空で待機をして敵機を見張り、発見すると降下しながら速度を付けて、背後に回りこみ撃墜する、というものに変わりつつあった。旋回性も速度も求められるようになっていたのだ。

 これを糸川はどう解決したか。
 1枚の翼に、2枚分の設計思想を使ったのだ。翼の先端部分は速度が出る設計、翼の根元の部分は旋回しやすい設計にした。翼の途中で、重要視する性能を変えるという荒技だった。
 考えつきそうで、なかなか思いつけない解法だ。』(牧野武文『ペンシルで宇宙の扉を開いた男 糸川英夫』http://www.byakuya-shobo.co.jp/hj/date/hj1011_p165-175_shusei.pdf)



 糸川博士は、見事に、相対立する2つの要素を一つにすることに成功したのである。言い換えれば、中庸の精神を発揮し、実現したのである。

 糸川博士が、逆境を、人生で最も大切なものの一つに数えたのは、陽明学を学んでいる人には、了解して頂ける話である。
 

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