◆「我々の前に立つ巨大な危機問題は環境危機ではありません、政治的な危機問題なのです」
 

 次に紹介させて頂くのが、リオ会議でのスピーチである。冒頭にあるのは、日本語訳を手掛けられた打村明氏のコメント。この場を借りて、打村氏に感謝申し上げる。
 
 その下にあるのは、参考までに、ホセ・ムヒカ氏のプロフィールである。ウィキペディアからである。

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 なんということでしょう。リオ会議(Rio+20)は環境の未来を全世界で決めて行く会議で、日本メディアも新聞やテレビで大きく取り上げてきたのに、もっとも衝撃的で環境危機の本当の問題を唯一示し、考えさせられるウルグアイ大統領の本音スピーチを誰も日本語に訳していません!
 こんな大事なスピーチですので、日本の皆様にも紹介したく未熟ながら翻訳しました。訂正点や思ったことがありましたらコメント欄にお書きください。

 
 もう一つガッカリしたことがあります。

 
 リオ会議に期待を寄せ、Youtubeで各首脳のスピーチや、かの有名な伝説のスピーチをしたサヴァン・スズキさんの映像も見ていました。リオ会議では各国首脳が集まり、地球の未来を議論し合う場なのに、各国首脳は自分のスピーチを終わらせたら、一人一人と消えて行ってしまいました。世界中から何時間もかけてこの場に来ているのに、みな人の話は聞かず自分のスピーチで済ませている代表者が多いリオ会議だったと思います。
 
 ウルグアイのような小国の大統領は最後の演説者でした。彼のスピーチの時にはホールにはほとんど誰もいません。そんな中、カメラの前で残したスピーチは、その前まで無難な意見ばかりをかわし合う他の大統領とは打って変わって、赤裸々に思っていることを口にしています。
 世界で最も「貧乏」な大統領と言われているエル・ペペ(愛称)が世界に対してどんなメッセージを残したのでしょうか。私にとってはいつも考えなければならない重要なスピーチにもなりました。



【ムヒカ大統領のリオ会議スピーチ: (訳:打村明)】


 会場にお越しの政府や代表のみなさま、ありがとうございます。
 ここに招待いただいたブラジルとディルマ・ルセフ大統領に感謝いたします。私の前に、ここに立って演説した快きプレゼンテーターのみなさまにも感謝いたします。国を代表する者同士、人類が必要であろう国同士の決議を議決しなければならない素直な志をここで表現しているのだと思います。

 しかし、頭の中にある厳しい疑問を声に出させてください。午後からずっと話されていたことは持続可能な発展と世界の貧困をなくすことでした。私たちの本音は何なのでしょうか?現在の裕福な国々の発展と消費モデルを真似することでしょうか?
 質問をさせてください:ドイツ人が一世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てばこの惑星はどうなるのでしょうか。
 息するための酸素がどれくらい残るのでしょうか。
 同じ質問を別の言い方ですると、西洋の富裕社会が持つ同じ傲慢な消費を世界の70億~80億人の人ができるほどの原料がこの地球にあるのでしょうか?可能ですか?それとも別の議論をしなければならないのでしょうか?
 なぜ私たちはこのような社会を作ってしまったのですか?
 マーケットエコノミーの子供、資本主義の子供たち、即ち私たちが間違いなくこの無限の消費と発展を求める社会を作って来たのです。マーケット経済がマーケット社会を造り、このグローバリゼーションが世界のあちこちまで原料を探し求める社会にしたのではないでしょうか。
私たちがグローバリゼーションをコントロールしていますか?あるいはグローバリゼーションが私たちをコントロールしているのではないでしょうか?
 このような残酷な競争で成り立つ消費主義社会で
「みんなの世界を良くしていこう」
 というような共存共栄な議論はできるのでしょうか?
 どこまでが仲間でどこからがライバルなのですか?
 このようなことを言うのはこのイベントの重要性を批判するためのものではありません。その逆です。我々の前に立つ巨大な危機問題は環境危機ではありません、政治的な危機問題なのです。
 現代に至っては、人類が作ったこの大きな勢力をコントロールしきれていません。逆に、人類がこの消費社会にコントロールされているのです。私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません。
 ハイパー消費が世界を壊しているのにも関わらず、高価な商品やライフスタイルのために人生を放り出しているのです。消費が社会のモーターの世界では私たちは消費をひたすら早く多くしなくてはなりません。消費が止まれば経済が麻痺し、経済が麻痺すれば不況のお化けがみんなの前に現れるのです。
 このハイパー消費を続けるためには商品の寿命を縮め、できるだけ多く売らなければなりません。ということは、10万時間持つ電球を作れるのに、1000時間しか持たない電球しか売ってはいけない社会にいるのです!そんな長く持つ電球はマーケットに良くないので作ってはいけないのです。人がもっと働くため、もっと売るために 
「使い捨ての社会」
 を続けなければならないのです。
 悪循環の中にいるのにお気づきでしょうか。これはまぎれも無く政治問題ですし、この問題を別の解決の道に私たち首脳は世界を導かなければなりません。
 石器時代に戻れとは言っていません。マーケットをまたコントロールしなければならないと言っているのです。私の謙虚な考え方では、これは政治問題です。
 昔の賢明な方々、エピクロス、セネカやアイマラ民族までこんなことを言っています。

「貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」

 これはこの議論にとって文化的なキーポイントだと思います。
 国の代表者としてリオ会議の決議や会合にそういう気持ちで参加しています。私のスピーチの中には耳が痛くなるような言葉がけっこうあると思いますが、みなさんには水源危機と環境危機が問題源でないことを分かってほしいのです。
 根本的な問題は私たちが実行した社会モデルなのです。そして、改めて見直さなければならないのは私たちの生活スタイルだということ。
 私は環境資源に恵まれている小さな国の代表です。私の国には300万人ほどの国民しかいません。でも、世界でもっとも美味しい1300万頭の牛が私の国にはあります。ヤギも800万から1000万頭ほどいます。私の国は食べ物の輸出国です。こんな小さい国なのに領土の90%が資源豊富なのです。
 私の同志である労働者たちは、8時間労働を成立させるために戦いました。そして今では、6時間労働を獲得した人もいます。しかしながら、6時間労働になった人たちは別の仕事もしており、結局は以前よりも長時間働いています。
 なぜか?バイク、車、などのリポ払いやローンを支払わないといけないのです。毎月2倍働き、ローンを払って行ったら、いつの間にか私のような老人になっているのです。私と同じく、幸福な人生が目の前を一瞬で過ぎてしまいます。
 そして自分にこんな質問を投げかけます:これが人類の運命なのか?
 私の言っていることはとてもシンプルなものですよ:発展は幸福を阻害するものであってはいけないのです。発展は人類に幸福をもたらすものでなくてはなりません。愛情や人間関係、子どもを育てること、友達を持つこと、そして必要最低限のものを持つこと。これらをもたらすべきなのです。
 幸福が私たちのもっとも大切なものだからです。環境のために戦うのであれば、人類の幸福こそが環境の一番大切な要素であるということを覚えておかなくてはなりません。
 ありがとうございました。

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【ホセ・ムヒカ】
 ホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダノ(西: José Alberto Mujica Cordano, 1935年5月20日 - )はウルグアイの政治家。社会主義思想の持ち主。2009年11月ウルグアイ大統領選挙に当選し、2010年3月1日より同国大統領。第40代大統領。
 首都モンテビデオの貧困家庭に生まれる。家畜の世話や花売りなどで家計を助けながらも、1960年代に入って左翼ゲリラ組織ツパマロスに加入、ゲリラ活動に従事する。ツパマロスと治安組織の抗争の激化、労働組合や職人組合の政治経済への反発といった時代のもと数々の襲撃、誘拐にたずさわる中で、ムヒカは6発の銃弾を受け、4度の逮捕(そのうち2回は脱獄)を経験する。 1972年に逮捕された際には、軍事政権が終わるまで13年近く収監されており、軍事政権側の人質として扱われていた。他の「人質」としては、のちに上院議員となるエレウテリオ・フェルナンデス・ウイドブロや、ツパマロスの創設者ラウル・センディックなどがいる。
 出所後ゲリラ仲間と左派政治団体を結成する。1995年の下院議員選挙で初当選を果たす。2005年に初の左派政権となるタバレ・バスケス大統領のもとで農牧水産相として初入閣。そして2009年度の大統領選挙戦で、元大統領である国民党公認候補ルイス・アルベルト・ラカジェを決選投票で破り見事勝利した。


【政策】
 ベネズエラのウゴ・チャベス大統領のような反米左派になるのではと懸念があるが、大統領選挙戦ではブラジルのルラ前大統領のような中道左派路線を強調している。

【人物 】
 愛称はエル・ペペ。妻は元ツパマロスのルシア・トポランスキー上院議員。愛読書は『ドン・キホーテ』。趣味は花の栽培。彼の個人資産は、ワーゲンのみで、大統領公邸には住まずに、首都郊外の質素な住居に暮している。また、給与の大部分を財団に寄付し、月1000ドル強で生活しており、
「世界で最も貧しい大統領」
 として知られている。
 リオ会議(Rio+20)では、経済の拡大を目指すことの問題点を明確に演説した。
 2013年4月4日、クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネルに「片方の目が見えない男より、あのばあさんの方がひどい」「ばあさんは頑固だ」と発言。


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●隣国大統領を「ばあさん」 ウルグアイ大統領、火消しに躍起
「MSN産経ニュース」2013.4.6 10:08

 
 南米ウルグアイのムヒカ大統領(77)が4日の記者会見でマイクのスイッチが入っていることに気付かず、隣国アルゼンチンのフェルナンデス大統領(60)を
「ばあさん」
 と呼ぶ侮辱発言。
 アルゼンチン政府は5日までに抗議の声明を発表、ムヒカ氏は火消しに追われている。
 ムヒカ氏は記者会見場で、隣の政府高官に小さな声で
「片方の目が見えない男より、あのばあさんの方がひどい」
「ばあさんは頑固だ」
 と発言。
 フェルナンデス氏の夫で2010年に病死したキルチネル前大統領は斜視だったことで知られている。
 地元メディアがウェブサイトで音声付きで報じ、アルゼンチンのティメルマン外相は
「極めて不快な言葉で受け入れ難い」
 とする声明を発表した。
 ムヒカ氏は率直な発言で知られ、人気が高いが、口が過ぎた形。苦しい釈明を続けている。(共同)

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