■私は、英語版には目を通してはいないので断定できかねるのだが、どうやら映画化を前提として書いたようで、それゆえの脚色があるようなのだ

 19日(土)である。
 夕方から、隣駅「南古谷」の映画館で
『太平洋の奇跡、フォックスと呼ばれた男』(2時間8分)
 を見た。
 嫌がる妻と(苦笑)、子供たちとの親子4人での映画鑑賞である。
 今回は、私の半強制である。
 といっても、我が家での映画鑑賞は、あくまでも子供たちの養育目的なのだ。映画は、親子のコミュニケーション・ツールと言ってもいいだろう。
 見終わったら、親子で必ず感想を述べあって、見終わりっぱなしにはしない。子供たちからの質問も受けるし、分かっていなさそうな点は、私が補足説明をしてあげるのだ。

 パンフレットによれば、原作は、ドン・ジョーンズ
『タッポーチョ「敵ながら天晴」大場隊の勇戦512日』(祥伝社)
 とDon Jones
『OBA,THE LAST SAMURAI』
 の二著作なのである。
 余談だが、英語版のタイトルには、
「ラスト・サムライ」
と記されているが、トム・クルーズ、渡辺謙共演の映画『ラスト・サムライ』(2003年)のタイトルは、このドン・ジョーンズの英語版から採られたとのことである。

 話を戻して、2冊の原作の件、ちょっと説明を要する。
 『タッポーチョ「敵ながら天晴」大場隊の勇戦512日』(祥伝社)は、現在文庫化されて、
『タッポーチョ、太平洋の奇跡』(祥伝社) 
 となって入手が可能だが、こちらの日本語版のほうが、先に出来て、英語版のDon Jones『OBA,THE LAST SAMURAI』のほうが後にできたのである。
 で、日本語版の方は、当時存命中だった大場大尉こと大場栄との共同執筆といっても過言ではない内容となっている。
 大場栄は、脚色したり、フィクションをまじえることを嫌い、あくまでも事実に忠実に書くことにこだわった、その結果こそが、日本語版なのである。つまり、日本語版には大場栄の最終チェックが入っているのだ。
 英語版はと言うと、ドン・ジョーンズは、大場栄のチェックを受けないまま、新たに英語版を執筆して刊行したのである。それでも、日本語版を英訳したのだからいいだろうと思いたいところだが、ドン・ジョーンズは、実は、映画化を切望していたのである。
 私は、英語版には目を通してはいないので断定できかねるのだが、どうやら映画化を前提として書いたようで、それゆえの脚色があるようなのだ。
 だから、原作が英語版と日本語版になっているということのようである。

■注目は、音楽を加古隆が担当していること

 
以下、一通り、作品解説を済ませて頂く。
 日本側の監督は『学校の怪談』シリーズ、『必死剣鳥刺し』の平山秀幸
 アメリカサイドからは、『ブラック・レイン』『ラスト・アクション・ヒーロー』『トランスフォーマー』など、数々のハリウッド映画に携わり、小日向文世・主演の『サイドウェイズ』(2009年)で監督を務めたチェリン・グラック、日本生まれのアメリカ人なので、日本語も上手とのこと。

 脚本は、西岡琢也Gregory Marquette・Cellin Gluck

 キャストは、主演が、大場栄役の竹野内豊(たけのうち・ゆたか)、ルイス大尉役のショーン・マクゴーウァン(Sean McGowan)、ヤクザの堀内今朝松・一等兵役の唐沢寿明、民間人の青野千恵子役の井上真央、木谷敏男曹長役の山田孝之、民間人の奥野晴子役の中嶋朋子、ウェッシンガー大佐役のトリート・ウィリアムズ(Treat Williams)、ポラード大佐役のダニエル・ボールドウィン(Daniel Baldwin)らである。
 ショーン・マクゴーウァンは、人気海外ドラマ『24』の他、『BONES』『ER』などにも出演している。
 ダニエル・ボールドウィンは、『レッド・オクトーバーを追え!』『パール・ハーバー』等で知られるアレック・ボールドウィンの弟。
 トリート・ウィリアムズは、かつては『鷲は舞いおりた』、最近では『デンジャラス・ビューティー2』等に出演している。
 注目は、音楽を加古隆が担当していること。

■主演の竹野内豊も言いたくても言えなかったであろう、映画『太平洋の奇跡』と原作のここが違う!

 それと、正直に言うと、原作、もちろん日本語版、とストーリーが一致しない点が、見終わった後、私は少々不満が残った。
 これが、英語版からの部分なのだろう。

 もっとも違うのは、民間人女性で看護婦役の青野(井上真央)が、兵たちと、収容所に薬品を盗みに行く所である。
 映画では、ヤクザで一等兵の堀内(唐沢寿明)とその仲間たちに頼んで、収容所へ出かけて、そこで騒動が持ち上がり、青野は銃で撃たれて傷を負うも生還、だが同行した堀内らは戦死を遂げるということになっている。
 これが原作だと、青野と一緒に行ったのは、木谷曹長(山田孝之)他数名で、青野は、収容所で、米兵を目の当たりにして、米兵に両親や兄弟を殺されていたので、米兵憎しの念が抑えきれずに、とうとう発砲してしまい、結果、銃撃戦となり、撃たれてしまうのだ。
 それを見ていた木谷は、青野に秘かな恋心を抱いていたこともあり、単身引き返し、青野と共に撃たれて亡くなるのである。この辺りの事は、原作の「24、病院襲撃」に詳しい。
 というわけで、映画では、木谷曹長は、大場大尉らが米軍に投降することに反対し、一人ジャングルの中へ消えていくことになっている。

 では、堀内とその仲間たちは、原作では、何処でどうなるのかというと、アメリカ兵に野営地を見つけられて、崖山へ移動するのだが、この時に、アメリカ兵の追撃を受け、そこへ助けに来たのが普段別行動をしていた堀内らであった。
 結果、堀内らは、米軍と銃激戦となり、壮絶な戦死を遂げるのである。その戦いぶりや死に方は、是非、原作本の「23 崖山への移動」を読んで頂きたい。
 堀内の最後は、映画より、ずっと華々しく、壮絶な最期である。

 また、野営地は、映画では、米兵の巡察隊に見つかることになっているが、原作では、米軍に投降した民間人の誰かが、
「裏切ってか、だまされてかわからないが、野営地の位置をアメリカ軍に正確に教えてしまっていたのだ」(「23 崖山への移動」p338)。

 細かい点では、原作との違いがまだまだあるのだが、上記は、特に気になって仕方がなかった点である。
 つまり、映画上映にあたり、
「1994年、玉砕の島サイパン―。これは、歴史に埋もれた真実の物語である。」 
 とキャッチ・コピーを書く以上、原作に忠実に描いて欲しかったというのが、私の映画を見て思った感想である。
 故・大場大尉も、きっと映画を見られたら、私と同じ感想を述べられるに違いない。

■パンフレットに、「歩兵の本領」の歌詞を掲載して欲しかった
 
 でも、主演の竹野内豊の演技は、とても良かった
 寡黙で、精悍で、誠実で・・・、とてもいい味が出ていた。
 竹野内豊の演技を是非見に行って欲しい。

 また、ラスト・シーンで、タッポーチョ山を下山する時、日の丸を掲げ、前回(2月19日)紹介させて頂いた軍歌
「歩兵の本領」
 を唄って行進していくあたりは、涙なしには見れない

 劇的で、やらせに見えるかもしれないが、これは、やらせではなく原作通りである。

 ただ、と、ここでもケチをつけたくなったことがある(笑)。
 600円で買った(笑)パンフレットに(資料として欲しかったので入手。写真もたっぷり、活字もたっぷりである)、当然、「歩兵の本領」の歌詞が掲載されていると思っていたのだが、なんとやはり劇中歌の一つの
「椰子の実」
 の歌詞が掲載されていたのは、残念。
 「椰子の実」の歌詞くらい、かつて数え切れないほど唄ったこともあるし、知ってるよ、と言いたい(苦笑)。
 最後にもう一つ、堀内役は、唐沢寿明が熱演してくれて、これはこれでよかったが、私としては、欲を言わせて頂くと、やくざ役でもあるし、北野武に演じて欲しかった。
 次回は、今回の映画に関しての子供たちの感想を紹介させて頂く予定。


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