【質問】今年5月に息子を交通事故で亡くしました。
 相手側との交渉を弁護士に依頼しようと思うのですが、同県内の弁護士に依頼すると弁護士同士にてナアナアに進められると聞いたので、他府県の弁護士に依頼しようかと考えていますが、他府県の弁護士に依頼することで不都合な事がありますか?良い弁護士と見極める判断をどの様にすれば良いでしょうか?
【回答】
 医者がどの医者がいいか、あまり言わないでしょうが。私(=故 松本誠弁護士、以下同じ。)にも降りかかる問題ですが、独断と偏見で言いましょう。気を悪くする弁護士もたくさんいるでしょうが。ずばり。
(1)良い弁護士かどうかは事件によってもキャリアによってもちがいます。
 交通死亡事故事件をしたことがない弁護士は断りましょう。(弁護士にも不得意分野はあります。まして?)。
(2)死亡事故の現場に一度も行ったことがない弁護士は結構多いですが、これは絶対に断ったほうがいい、後で後悔することとなります。
(3)交通事件専門としている損害保険会社(以下「損保」と言います。車の持ち主が加入している自動車保険会社を指します。)の代理人弁護士にも要注意です。普段の仕事は交渉を被害者としており、被害者をいじめることを当然の業務としています。さらに仕事は交渉による損害回復と思ってます。事実がなにかにつき、関心のある弁護士はほとんどいません。遺族の感情を逆なでする行為の連続は損保代理人が多いです。
 事故の真実がどうだったかについて、加害者側でも加害者とも話しをしたりしません。被害者側ではなおさらです。事実確認の検証作業など時間の無駄と思ってます。通常の損保事件は加害者側の代理人をしていて、委任状は加害者から貰いながらも、費用は損保会社より受領しているために(本当の依頼者は損保会社)加害者にはほとんど会わないのです。そして被害者からの攻めに対して、損保側の防波堤となる仕事をしているのです。前に弁護士がいて、私が受ける事件は遺族が損保の代理人と判明して解任される前後です。損害の確保のみしか頭にないので、遺族の事実へのこだわりに耳を傾けないためです。理論的な中間利息控除利率や制裁的慰謝料の法律的争点についても、慰謝料、逸失利益のマニュアルに従うため、戦う気は最初からありません。むしろこれで戦うと、損保会社から仕事はこなくなるので戦うことは出来ませんし、中間利息控除3%などいえないのです。損保代理人かれ出てくる言葉は『こんなものですよ』『そんなこと言っても通じませんよ』です。
 もっとも良心的損保弁護士は『私は損保の代理人をしているので受けません』と断る人もごく稀にいますが、ほとんどの弁護士はいつもは損保の仕事をしていることを自分では言いません。
 損保代理人は裁判では加害者側の立場で和解をよくしているため、逆の被害者の立場で徹底して裁判できにくい状況を生んでおり、裁判官が好む和解に乗じるのが当たり前です。遺族は示談できないので裁判したことを忘れ、平気で和解を勧めます。損保代理人の口からは平気で示談や和解という言葉が良く出てくるのです。遺族が馴染まないことを平気でします。『裁判官から言われた和解案を断ることは難しい』と。もっとも交通事故の軽度な傷害事件は情報の多さ、迅速性で勝る弁護士もいます。これは仕方がない。
(4)示談や和解を勧める弁護士。
 大阪の弁護士は特に多いのですが、示談、和解が当然と思ってます。上記(2)と関連します。弁護士も商売という面があることは一般の人はわかりません。
 事件をいかに簡単に早く処理できるかに関心がある典型が企業中心の弁護士と損保代理人です。損保の方が『自分は専門家ですから』というので始末が悪いのですが。迅速な示談和解こそ回転を良くすると言う弁護士すらいます。
迅速な事件処理は一般事件の要請でしょうが、交通死亡事故では必要ありません
(5)刑事段階で受け、かつ何もしない弁護士も要注意!
 刑事段階こそ被害者側代理人は行動すべきです。加害者が正式起訴されて公判になる事件でも慰謝料増額事情となるので悪質性は主張すべきですし、罰金や不起訴になる事例が99%なのですから、この段階でこそ弁護士は動くべきなのです。もし事故直後に弁護士委任されたら、弁護士の様子をみるべきです。その弁護士が動かないのであれば、即解任するべきです。
(6)現場に行かない弁護士
 過失相殺が熾烈な争点となる事件で、現場に行かない弁護士。
 警察の捜査は士気がなくなっています。したがって、記録では見えていない事実はたくさんあります。その1つが現場です。記録を読む以上に熱心に現場を見なければならないのが今の不起訴原則主義、警察捜査のずさんさ、を前提とした仕事の仕方です。
 過失相殺が熾烈な問題となる事件で現場にも行かない弁護士は遺族から批判が集中しております。(中略)
(7)弁護士が加害者の刑事裁判に被害者側としてかかわったことがあるかどうか、も問題です。加害者の刑事裁判が終了するまでの間、刑事事件のことを被害者側として相談しても力量をためす機会となります。
 被害者として何ができるかについて、相談しても納得のいく答えがない弁護士は解任しましょう。今の交通事故の刑事裁判には被害者を排除する制度問題が根底にあることを理解していない弁護士は民事でも期待できません。被害者排除問題は共通するのです。
(8)初回の相談はできれば普段信頼している人を連れて行く。紹介者とは関係ない人がいい。弁護士の本来の姿が見えます。ズバズバ言ってもらいましょう。
(9)依頼後も損害の確保のみに関心がある弁護士も要注意です。というのは事故の態様が後日問題となる場合が多いのです。
 前に弁護士が付いていた事件で、結審になる前に弁護士が解任され、受任した事件がありました。前の弁護士は事故態様には関心がまったくありませんでした。また、国家賠償請求事案では『国家賠償請求すると加害者の責任がなくなることとなるから止めましょう』とまで言った為に解任された弁護士もいました。その弁護士には当然着手金は返還してもらいましたが。また、最近受任した事件は事故後1年経たないうちに刑事処分も未了という事件なのに遺族の了解なしに訴状を提出されたものもありました。即解任となりました。ひどい弁護士です。弁護士の関心は損害の確保どころか仕事の確保しかありません。
(10)制裁=刑事事件が終了するまでは弁護士を頼むのは止めましょう。制裁が終わらないと、民事にはいってはいけません。制裁が終わる前から、被害者側が弁護士を頼むことは止めましょう。頼まれた弁護士は勘違いして交渉をしますから。加害者側は刑の減刑の交渉に被害者の弁護士を利用します。被害者側の弁護士は仕事のつもりですが、利用されていることにも気がつかない場合が多いのです。刑事段階で弁護士を利用する場合には特に気をつけないとなにをしても『接触した、交渉した』と刑の減刑交渉の材料として利用されます。それを知らない弁護士に被害者がうかつに頼むと、加害者の弁護人と勝手に連絡係をする弁護士となりますので、頼まない方がましです。刑事段階では『弁護士を頼むな』ですね。
 ここまでいうと、ほとんど弁護士に当てはまりますね。私(=故 松本誠弁護士)も含めてですよ。
 これ以上いうと名誉毀損、宣伝、と言われかねないので止めますが。


 以上は,今は亡き松本誠弁護士が2003(平成15)年にされたアドバイスです。このあと、被害者参加制度が新設されたりして,状況はかなり変わっていますが,今なお,有益なことも述べられています。
 つい最近も家族を交通犯罪で亡くされて、弁護士を探していると言われる方からの相談があったので、もう一度、引用しました。