いっときよく耳にした「絶対音感」という感覚も
20代半ばまでは聞き取れるという高周波音をキャッチする聴力も
ほぼ、ないのだけど、

私の中に、音はいつもある。


4歳のときにピアノを習い始めて
17歳くらいまで毎週レッスンに通って、
ピアノを弾くことは
それまでの私の人生の中で最も多くの時間を費やしたことの一つだったけれど、
大学進学で東京を離れるのを言い訳に
あっさりピアノを辞めた。

ピアノを弾くことは、すごくしんどかったから。



今思えば10歳くらいのときにもう気づいていたのだけど
私の頭の中にある音と
自分が弾くピアノの音と一致しない。

音のピッチと間合いのようなもの。

ピッチが少し高くても低くても
間合いが少し早くても遅くても

パチンとそこにハマらない音を聴くと 
何もかも辛くなった。

実際、思う音が出せない自分の指が憎くて
指や手をよく噛んだ。

それでも
「昼も夜もピアノにかじりついて練習すればできたでしょ?」と言われれば
まあ、それまでなのだけど。
そう。
実際、人は無神経にそう言うんだよね。





この間の実家の建て直しにともなって
私のピアノをどうしようかという話になり、
とりあえず調律だけお願いして
その後ピアノの中を全部掃除して
久しぶりにちゃんとピアノを弾いた。



実はここのところ
フジコヘミングのこの音を
気持ちよくてたまらなくて何度も何度も聴いているのだけど



何度も聴いているうちに
彼女が出すこの音が
うちのピアノの音と、
高校時代に熱中したフルートの音と、
頭の中の音と、
同じ音であることに気がついて

すごく救われた。


私の頭の中に鳴る音の、あの感じを
彼女もきっと感じてるんだね。
だからこの音を出すし、この音を許すんだよね。


昔、指を噛んで責めた自分を
認めてあげられた気がする。

ほったらかしにされていたうちのピアノが
今聴けば、私の頭の中の音を出してくれるピアノだったことにも気がついた。

今手元にあるフルートも、もう一度吹いてみなくちゃね。



現実、フジコヘミングがこの音を出すためにしていることを考えると
もうそれだけで彼女は天才だと思う。

感じるものを形にすることが人より優れてできるのか
形にするための努力をすることが人より優れてできるのか
どっちかわからないけど
本当にすごいなぁと思う。