カオマイ2日目に出会った、アーチとレック夫妻。

夫のアーチは、大学を出たあと徴兵制で軍隊に入り、
今、自宅でコーヒーショップを営み始めた。
このお店も、まだ開店2ヶ月。できたてほやほや。
近い将来、ここをゲストハウスにしたいんだと夢を語ってくれて、
そのための一歩に、その日もせっせとフラワーガーデンを作っていた。

同居するお母さんを、美人だろ、美人だろ、というアーチ。
一緒に住むことが何よりも幸せなのだと言う。
強くて綺麗なお母さんが、自慢なのだそう。

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郵便局へ行くためにタクシーバスに乗るお母さんを、
アーチは道の反対側まで守って歩く。

72歳のお母さんにとってアーチは三人目の子供。
お姉さんとお兄さんが一人ずついるというので年齢を聞いたら、
お姉さんは52歳、お兄さんは38歳だという。
ちなみにアーチは、28歳。
上のお姉さんとは24歳の差。すごいなぁ。


一方、妻のレックが、私の耳元で「わたし少し日本語を勉強しています」という。
訳を聞くと、彼女はチェンマイ市街地にほど近い日本人夫婦の家に、住み込みで働いているのだそう。

レックは44歳。アーチとは16歳離れている。
「どうしてお互いに惹かれたの?」と聞いてみたら
「考え方が似ているんだ」と言っていた。
義務教育の中で英語が必修ではない彼らが、
自分で英語学校に通っていたときのクラスメイトなのだとか。
素敵だと思った。


私たちのカオマイ最終日の1月5日。
レックの仕事先である日本人のMさんご夫妻が、
レックから私たちのことを聞き、コーヒーショップに遊びに来てくださった。

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夜には、Mさん手配でチェンマイ市街地近くのムーガタレストランに連れて行って頂き、
満腹までムーガタをご馳走になった。

この夜の食事会に至るまで私は気がつかなかったのだけれど、
Mさんの奥様は、おそらく痴呆症のようだった。

今思い返せば、奥様と最初に交わした言葉の一つ一つから、少し違うなと思う節はあった。
でも最後の夕食の時、私が奥様の隣に座って話してみるまで気づかなかったのは、
周りに居たレックを含む三人のお手伝いさんの奥様に対する接し方が
私が今まであまり見たことがないほど、とても温かかったからだと思う。


Mさんご夫妻がチェンマイに移り住んで、もう9年になるそうだ。
Mさんご夫妻には子供がない。
日本にはもう親戚もほとんどいない。
日本には家を持っていたが、それもすべて売却した。
そのお金で、ここチェンマイの生活を賄っているのだとおっしゃっていた。

チェンマイに来た理由は、
「日本は寒いでしょ。病気になったのを機にこちらに来たんです。
治らない病気だから、日本だとこれ以上住めないですからね。」

今後も、おそらく日本に戻ることはないという。
足腰も丈夫そうで、はつらつとしたMさんに病気の影は見えなかったから
もしかしたら病気というのは、奥様のことかもしれない。
日本だと住めないとおっしゃったのが私には堪えた。

三人のお手伝いさんは、
奥様が何度も同じことばかりを口にしても
塩辛い食べ物を、甘いスイーツが入った器に取って「なんやこれは?」と言っても
店の中を歩き回って席に戻れなくなっても、
決して声を荒げず、普通の言葉で接していた。

同じ言語を持つ人同士でさえ、介護を要する方々に対して
理由を言わず行動を止めたり「いけません!」とキツく叱ったり
まるで子供のような扱いをする風があるのに、
この三人はなんて温かくて優しいのだろうと、とても頭が下がった。

奥様は終始楽しげで、笑顔いっぱいだった。


私たちと同じ日本人が、
チェンマイに住んでいるという理由で、隔てなく受け入れてもらって介護までしてもらう。
家事生活の手助けをしてもらうために雇った現地の人々から、
お金を支払うことだけでは本来得られない”愛情”をもらっていること。
苦労して育てた子供からだって、
長いこと住み慣れ親しんだ近所の人からだって、
与えてもらえるかどうか、わからないものを。

貨幣価値の違いゆえ、
タイに移住をして豊かに生活をしていける日本に自分が生まれ育ったことを、考えていた。
これはきっと、この夫妻だけの事例ではないのだろう。
もしかしたら日本が抱えきれない問題を受け止める”受け皿”なのかもしれない。
抱えきれない?
抱えたくない。。。?


是か非か、良いか悪いか、判断など下せない。
でも、私には関係ないよとも、やっぱり言えない。

私たちがアーチにとって、外国人初の”友達”だと言ってもらえたこと。
アーチが、英語を教えて欲しいと言い続けていたこと。
レックがM夫妻の家に住み込みで働いているため、彼らは月に二回しか会えないこと。
Mさんは、レックに一生勤めて欲しいと言っていたこと。

そこが田舎だろうが情報が少なかろうが貧しかろうが、
彼らが彼らの世界の中で、一生懸命生きていることが十分にわかった。

だからと言ってはおかしいけれど、
私も一生懸命生きようと思う。

「僕の初めての外国人の友達だから、もちろん無料で泊めてあげるよ。」
と言ってくれたアーチの夢のゲストハウス完成したら、
またここに行ってみようと思う。