ども。


今回で、「生命」シリーズは一応終了になります。

読みづらい文章を読んでくださった方々に感謝します<(_ _)>


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会計をすまし、待ち合わせの喫茶店に入った。

ヤツはマンガ雑誌を読んでいたが、私に気付くと「大丈夫だったか?」とさも心から心配しているように私に話し掛けた。

「・・・しばらくは、身体を休めた方がいい、って言われた」

涙声だったと思う。でも、ここは喫茶店、ヤツに恥ずかしい思いをさせたくなくて泣くのをこらえ、すとん、とヤツの向かいに座った。

けれど、ヤツは私の手をさっと取り、握りしめ「ごめんな・・・ホントやったら産まれてくるはずやったオレたちのコやのに、お前に辛い思いさせて・・・。言い訳にしかならんけど、オレは男やから自分の身体の中に自分以外の命がある、っていう実感がわかへん。でもオレも哀しいんや。信じてくれ。あぁ・・・お前に負担がかかったのは事実やな・・・ごめんな・・・けど、オレの、オレたちの子ども、抱きたかったな・・・。子どもに罪はないのにな・・・」と泣き出した。



改めていう。

喫茶店の中だ。

声をあげて泣いているわけではないが、やっぱり人目につく。

が、泣いているヤツにバカな私は「やっぱり私が思ってたように、実感がなくて、そのことで辛かったんた」と思った。



私はヤツの涙にごまかされていた。


知らず知らずヤツの手を強く握り返して、私のほうが泣きたいよ!慰めて欲しいよ!せめて一緒に辛い気持ちを分かち合うことをしたいよ!と思う気持ちを心の底に押し込んで「もう、済んでしまったことやし・・・。今の私らには早かったんやと思うよ・・・。もう泣かんといて。実感出来ない分、あなたも辛かったと思うから」と、慰めた。

ヤツは「自分が辛い」ということを色んな表現で言葉を変え嘆くばかりだった。

私への言葉は最初だけで、あとは自分の哀しさ(?)に酔っていたように思う。


洗脳というのは恐ろしい。

私はこんなにヤツを苦しめている自分を恥じていて、一生懸命ヤツを慰めていた。

こういう風にヤツが思い遣り(?)がある人なんだ、といい方向に考える自分がバカだった。と今だから思える。


***

話は少し戻るが、私が会計待ちをしていた時、同じ部屋で麻酔が切れるまで隣に寝かされていた、あの彼女が待合室に戻ってきた。

あ、あのコだ、と気付いた瞬間、彼氏がすばやく彼女に駆け寄ったのが見えた。

彼氏が彼女の手をぎゅっと握り、待合室の椅子に誘った。



羨ましかった。本当に羨ましかった。そして、その彼氏に対して(堕胎のことはともかく)心から彼女を労わる気持ちが伝わってきて、そんな場面じゃないのは判っていたけれど、感動さえ覚えた。

そして、自分を省みて惨めだな・・・と思っていた。



先に会計に呼ばれた私はしばらく身体を休めること、○日に検査にきてくれ、と言われ会計を清算し、病院から出ようとした。

彼女は私に気付いたようで、更に、たまたま彼女たちの席の横を通らなければ外に出られないシチュエーションになってしまっていた。座っていた場所が遠ければ、多分彼女は気付かなかっただろう。

もし、気付いても私は会釈ぐらいはするつもりだった。

あの部屋で手を握り返してくれた彼女に本当に感謝していたから。



ドアに向かうと、彼女は立ち上がって「さっきは、ありがとうございました」と小さな声で話し掛けてくれた。

こみあがるものがあったけれど、それを押さえつつ「私の方こそありがとう。身体、大事にしてね」といい、彼女も「ええ、お互いに大事にしましょう」と二人して涙声になった。

隣にいた彼氏はいつの間にか立ち上がっていて、彼女の腰に手をまわして体調を労わりながら私に会釈をしてくれた。

「じゃね」

そう言って、病院のドアを開け、ふと待合室に視線を戻すと彼女の頭を自分の肩に乗せて、労わっている彼氏の姿が見えた。


***


そして、喫茶店の中に時間は戻る。



ヤツはただ、一緒に病院に来ただけ。

滞在時間は1分か?

私が錯乱状態に陥っていた時、ヤツはどこにいたんだろうか。

待合室で出てくる私を待ってるのでは、という期待はなくもなかった。

が、当人の言葉通りヤツは待合室にいることもなく、慰めることは一切無かった。



今の私ならここで自分にツッコミを入れるだろう。

「あーちゃん、ヤツは妊婦に暴力を振るっていたんやで。暴言吐いてたんやで。ないことないこと周囲に言いまくって職場で孤立無援状態にして精神的にもキツい状況に追い込んだ張本人なんやで、待合室で待ってることも慰めてくれることも期待出来へんってなんで判らんかった?」と。

当時はそう思い至らない精神状態だった、という証左とも言えるが・・・。



産むか産まないかは最終的には女性が決めることだ。

ムリヤリ麻酔等をかがされて、処置されるなら兎も角、自分が決め、自分で病院に行って処置をした。

これは紛れも無い事実だし、このことでヤツに対して責めるつもりはない。

考えに考えた最低の結果だ。

絶対に後悔する、ということも理解はしていた。あくまで、「理解」だ。そのことを思い出すとなんて自分は考え無しだったのだろう、と恥ずかしくなると同時にあまりの愚かしさに自分を責めてしまう。

責めてもあのコは戻らないのには判っているのだけれど・・・。



前回のあとがきみたいなところに書いたけれど、私が自分の子どもを作らない、と決意したのは今回の事で自分にその価値はない、とその時思ったからだった。

加えて、ヤツの前妻さんが子どもを産んでいるんだった、という事実をすこーんと忘れていた。

そして、その子どもに対して愛情を持っていない、とヤツが一度ならずも言い切っていたことも。

既にいる自分の子どもに愛情がない、というその口で「自分には子どもがいるから」と私に堕胎を迫っていたのに・・・。これらを完全に忘れていた、と思い至るにいたって、更に自分の愚かさに絶望した。


※実際は子どもが欲しい、と強く思った時期があった。

その時は今の夫に出逢ってから芽生えたものだったけれども、ヤツといた時の出来事での決心に加えて他の意味で自分は子どもは作らない、と決めていたので耐えた。



さて、ヤツを慰めるのに1時間はかかったと思うが、喫茶店を出て、職場に戻った。

すぐに雇い主に報告をした。

そして、しばらく休まなければいけないことを話していたら、横からヤツが「オレ、こいつについててやりたいんで、オレも休みます」と言い出した。

え?と思う反面、やっぱりホンマは心配してくれてるんや、産婦人科の待合室は女性の割合が高かったから居辛かったのかな?あのカップルの男性の方が珍しいのかも、と思ってしまっていた。とことんバカだ。私は。

が、雇い主は「いや、キミはシフト通り明日から仕事。あ、彼女に負担をかけたらあかんから、ちゃんと自分で起きてこい。寝坊すんなよ」とサクっと言い切った。



自室に戻ったヤツは雇い主の言葉に憤慨していた。

「オレがお前の心配してるの判っとるくせに、なんであんな冷たいこと言えるんや!なぁ、そう思わんか?」

「また病院にいかなあかんのやろ?休んでる間に出血でもしたら、すぐ病院に連絡せんとあかんし、それはオレのやるコトやと思うぞ、なぁ?」

言っていることはそれなりに正当だったかもしれない。

けれど、手術と、喫茶店でのヤツとのやり取りで気力も体力も完全に使い果たしていた私は、とにかく早く横になりたかった。

が、ヤツのグチは止まらない。

ヤツの言葉に頷くしかなかった。聞かなければヤツの怒りの矛先は私に向くのは判っていたし、何より本当に気力がなかった。

しばらくして「トイレ行ってくる」と言ったヤツに「ごめんやけど、ちょっと横になっていい?」とやっと自分の要望を伝えた。

流石に術後、しかも堕胎手術のあとだということはヤツにも重々判っていて(けれどはぁ?なんでオレの話を聞いてくれへんのや?」という不満そうな目をしていた)「え?あぁ、ゆっくり横になっとれ。今日は疲れたやろうから」と言って、とっととトイレに行った。

病院では、出来るだけ安静にして、モノを持つとかはしないようにと言われていたが、布団の用意をヤツに頼めるわけもなく、「横になるから」という言葉にヤツが察して布団を用意してくれる、という気遣いなんて出来ない男だと判っていたから私は自分で押入れから布団を出し、横になった。


ヤツがいない部屋で、布団にもぐりこみ大きなため息をついた(ため息をつくこともヤツの気に障ることなので、一人の時にしか出来なかった)。

睡魔が完全に私を包むまで、私はずーっと声を出さずに、今は空っぽのお腹を押さえて「ごめんな、ごめんな・・・ほんまにごめんな」と心の中で謝り続けていたのを覚えている・・・。

そして、私は死んだように眠りに入っていった。



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他にもいろいろあったと思うのですが、覚えてる限りではこんな感じでした。

アメーバーで知り合った方たちに、本当にどん引きされてるだろうなぁ、と思いながらの連投の記事UPでした。

この「生命」シリーズは全て勢いで書いています。下書きに書き溜め、推敲し、公開ボタンを押すことに毎回ひるんでいました。


堕胎に関しては、基本私は否定派です。

バースコントロールをきちんとすべきである、ということを痛いほど実感しています。

しかし、子どもを作る行為は二人で行わなければいけないわけで・・・。

責任の分散じゃないけれど(まして、私が他人様に言える立場じゃないのは毛頭判っていますが)、確実な避妊が出来ないのであれば、そして、どうしても産めない状況になるのであれば、当事者の一人である男性に、どうか想像力を持って接してあげて欲しい、とお願いしたいです。

立ち直るにはどれだけかかるか、それは人によって違うと思います。

なので、終わったことをぐずぐずと、と思っていたとしても言わないで欲しいです。

勝手な言い分だと承知してます、すみません<(_ _)>


私の場合は避妊をしていなければ、子どもが出来る・・・そんな当たり前のことなのに、それをしなかった自分がバカだったんです。避妊を頼むと殴られる、という恐怖から私は人殺しになってしまったわけです。

ヤツの洗脳に染まっていた、というのは言い訳にはならない、と私は思ってます。

守れた生命を守れなかった。

事実はコレだけです。


ちょっと疲れました。

少しだけ、このカテゴリーを休みます。

ここまで読んで下さって本当にありがとうございました<(_ _)>


それでは・・・。