実は、エッセイというジャンル、嫌いです。
いや、嫌いでした。
作品として昇華されていない物語作者の生の声を聞くことに、すごく抵抗があったんですよね。なぜか。作品理解のためにもっと作者を理解する、みたいな欲求はなくて、むしろ物事に対して半煮えの意見を聞かされるんじゃないかと思って、食わず嫌いでいたんです。
それが、ぐわーんと覆されました。
根をもつこと、翼をもつこと
田口ランディ(著)新潮社

田口ランディさんは、ベストセラー「コンセント」をはじめ、作家、エッセイストとして活躍されています。「コンセント」に続く「アンテナ」「モザイク」までは読んだことがあり、なんつーか、スピリチュアルな方向性の方なんだろうなぁーと勝手に想像してたのですが。
「私ねえ、言葉にしてうさん臭いものはやっぱり信じられない。だから、まず精神世界って単語がね、この音がね、好きじゃないの。だから信じられない」
「へえ、他にランディさんが信じられない言葉ってどんなのがあるんですか?」
「ソウルメイト、癒し、ヒーリング、全部だめ。内容的にじゃなくて、言葉の響きがすでにあまり好きじゃないんだなあ」
ーーーーーーーーーーーーp281より
驚きでした。私も、なんというか<説明のつかないもの>を真綿にくるんで雰囲気をつくってる言葉が、正直あまり好きではなかったので。まさに精神世界についてディープに書いている小説の雰囲気から、そのあたりでエッセイは反りがあわんだろう…と思っていたのですが、私の読みはまったくもって浅すぎたようです。とほほ。
「難しいですねえ、じゃあ、逆に信じられる言葉は何ですか?」
「呪い、生命、死、魂、このあたりは信じられる。言葉としてまだ生きている感じがする」
ーーーーーーーーーーーーp281-282より
生々しい音。たぶん、ストレートすぎてあまり使いたがられない、だからこそ誤摩化していない単語を、ランディさんは信じられると書いていました。それを読んで、なんとなくですが、この方の綴る言葉はけっこう信じられるなぁ、生々しいな・・・と、そこまでかなり集中して読み進められたことに、妙に納得したんです。
■タイトルの示唆するもの
まず、なんでこの本を手に取ったかというと、タイトルです。「根をもつこと、翼をもつこと」は、私が個人的にとても好きな「気流の鳴る音」という本の内容とリンクするものがありました。一番近い例えだと『鳥の目と虫の目を両方使いこなす』でしょうか。ま、実際はかなり違うんですが、そのへんは割愛します。
ランディさんの小説「コンセント」では、主人公は最終的に翼をもつことを選んでいたように、私には思えました。普通に現実を一生懸命生きること、つまり根をはることを否定し、空だけを飛ぶ道を選んだように感じられたのです。その後の数作でも、その印象は変わりませんでした。
そのランディさんが「根をもつこと」について書く。
どんな内容なのだろうな、と自然に興味が湧いたのです。
■視線と言葉
広島、えひめ丸の事故、原発臨界事故、水俣病のイベント、痴呆老人といった、一見「社会派?」なテーマが多いです。ですが、ランディさんが視て、考えて、生の言葉で訴えてくるものは、彼女のストレートすぎる感想であって(時には非難も浴びるだろうな、というくらいに!)、決して偽善的な、できあがったメッセージではありませんでした。
聞いているように、読める。
それはランディさんが、イメージさせることをきちんと意識しながら文字を綴っているからなのでしょう。『イメージできるように表現すること』と、彼女自身も書いています。ご自身の見たことの描写は映像に浮かぶように丁寧に、そして、それに対する感想はとことん率直に。そのバランスがとても良いです。
そして、視線。
私はいつも片目で現実を観て、もう片方で「あの世」から現実を観ようとしている。ーーーーp219より
ふたつの視線が、ランディさんの翼と根なのでしょうか。
小説を読んだ方なら、後半の視線が意味するものを理解できると思います。けれど、やっぱり作家として、ひとりの現実を生きている方として、ランディさんはふたつの視線を同時に持たなければいけなかったのだろうな、と思ったのです。
また、ランディさんは「無数の他者として視られること」をとても意識しています。
私は「あなた」の前に居続けたい。一人の他者として。
「あなた」によって照射される無数の自分にのみ執着し続けている。
「あなた」によって限りなく自分を解体することが、たぶん私の趣味だ。
ーーーーーーーーp138より
それをしながら『根』を持ち続けられる強靭さは、どこから来るのだろうと思うと、なんだかゾッとしました。翼をもって、解体された「自分」の重なった『自分』を眺めることは、とても精神的に危うい行為だと思うのです。それだけの強靭さを持っているから「コンセント」が作品として成立したのでしょうけれど。。。
■すきなもの
共感というか、どうしても入ってくるものがあったのは以下。ほかも印象的なエッセイばかりなのですが、自分のひっかかるものがある編を挙げてみました。
・舟送り ー アーティスト内藤礼さんの作品と、個展。
・イメージの力 ー 放射能汚染をリアルにイメージする怖さ。
・祈りと絶望 ー 水俣病のヘドロ埋め立て地での、能の上演。
・えひめ丸の事故に思う ー 海人の海との向き合い方が新鮮。
・旅のテンションを生きる ー ネット依存症の友人とのふたり旅。
・極楽浄土の屋久島(以下略) ー 屋久島と、そこに生きた詩人。
・パズル遊び ー 自我肥大な若人が陥りやすい罠。
・私たちは、出会えるのだろうか? ー 戦争と語り部について。
ランディさんの作品を未読の方でも、一読の価値があるエッセイです。これから他の誰かのエッセイを読むかどうかはわからないけれど、私のエッセイへの偏見はちょっと減りました。そして、田口ランディさんの他の本も…ちょっと、読んでみたいと思っています。
しかし、えらい長くなってしまいました。エッセイっちゅうのは、小説より感想文を書くのが難しいですね。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

おすすめ本blog★訪問記念にクリックthanksです!
■BOOK LIST
死との向き合い方
コンセント
魂が感じられない
わかる人にはわかる
カウンセリングへの道
ランディさんのベストの一冊です。デリケートなテーマですが、なにか自分を削りながら書かれたような勢いがありますね。実体験をちりばめながら、それでも作品としてきちんと昇華させてる。名作だと思います。
今,この時を生きつくす
カルロス・カスタネダとあわせて読みました
目的のない人生は無意味だろうか?
人生観を変えた一冊。スペインの文化人類学者がメキシコインディアンの老人に弟子入りした経験の手記(計4冊)を、見事に体系的にまとめあげ、ひとつの哲学書としている本です。あとエッセイ的なのが何本か。
生死観や現代社会での価値観に、衝撃をもたらしてくれます。メキシコのインディアンなんて絶対スピリチュアルでうさんくさいでしょ、と思ったら大間違い。現代の暮らしに十分応用可能な実践的なアイデア、考え方が盛りだくさん。良いっす。

おすすめ本blog★訪問記念にクリックthanksです!
いや、嫌いでした。
作品として昇華されていない物語作者の生の声を聞くことに、すごく抵抗があったんですよね。なぜか。作品理解のためにもっと作者を理解する、みたいな欲求はなくて、むしろ物事に対して半煮えの意見を聞かされるんじゃないかと思って、食わず嫌いでいたんです。
それが、ぐわーんと覆されました。
根をもつこと、翼をもつこと
田口ランディ(著)新潮社

田口ランディさんは、ベストセラー「コンセント」をはじめ、作家、エッセイストとして活躍されています。「コンセント」に続く「アンテナ」「モザイク」までは読んだことがあり、なんつーか、スピリチュアルな方向性の方なんだろうなぁーと勝手に想像してたのですが。
「私ねえ、言葉にしてうさん臭いものはやっぱり信じられない。だから、まず精神世界って単語がね、この音がね、好きじゃないの。だから信じられない」
「へえ、他にランディさんが信じられない言葉ってどんなのがあるんですか?」
「ソウルメイト、癒し、ヒーリング、全部だめ。内容的にじゃなくて、言葉の響きがすでにあまり好きじゃないんだなあ」
ーーーーーーーーーーーーp281より
驚きでした。私も、なんというか<説明のつかないもの>を真綿にくるんで雰囲気をつくってる言葉が、正直あまり好きではなかったので。まさに精神世界についてディープに書いている小説の雰囲気から、そのあたりでエッセイは反りがあわんだろう…と思っていたのですが、私の読みはまったくもって浅すぎたようです。とほほ。
「難しいですねえ、じゃあ、逆に信じられる言葉は何ですか?」
「呪い、生命、死、魂、このあたりは信じられる。言葉としてまだ生きている感じがする」
ーーーーーーーーーーーーp281-282より
生々しい音。たぶん、ストレートすぎてあまり使いたがられない、だからこそ誤摩化していない単語を、ランディさんは信じられると書いていました。それを読んで、なんとなくですが、この方の綴る言葉はけっこう信じられるなぁ、生々しいな・・・と、そこまでかなり集中して読み進められたことに、妙に納得したんです。
■タイトルの示唆するもの
まず、なんでこの本を手に取ったかというと、タイトルです。「根をもつこと、翼をもつこと」は、私が個人的にとても好きな「気流の鳴る音」という本の内容とリンクするものがありました。一番近い例えだと『鳥の目と虫の目を両方使いこなす』でしょうか。ま、実際はかなり違うんですが、そのへんは割愛します。
ランディさんの小説「コンセント」では、主人公は最終的に翼をもつことを選んでいたように、私には思えました。普通に現実を一生懸命生きること、つまり根をはることを否定し、空だけを飛ぶ道を選んだように感じられたのです。その後の数作でも、その印象は変わりませんでした。
そのランディさんが「根をもつこと」について書く。
どんな内容なのだろうな、と自然に興味が湧いたのです。
■視線と言葉
広島、えひめ丸の事故、原発臨界事故、水俣病のイベント、痴呆老人といった、一見「社会派?」なテーマが多いです。ですが、ランディさんが視て、考えて、生の言葉で訴えてくるものは、彼女のストレートすぎる感想であって(時には非難も浴びるだろうな、というくらいに!)、決して偽善的な、できあがったメッセージではありませんでした。
聞いているように、読める。
それはランディさんが、イメージさせることをきちんと意識しながら文字を綴っているからなのでしょう。『イメージできるように表現すること』と、彼女自身も書いています。ご自身の見たことの描写は映像に浮かぶように丁寧に、そして、それに対する感想はとことん率直に。そのバランスがとても良いです。
そして、視線。
私はいつも片目で現実を観て、もう片方で「あの世」から現実を観ようとしている。ーーーーp219より
ふたつの視線が、ランディさんの翼と根なのでしょうか。
小説を読んだ方なら、後半の視線が意味するものを理解できると思います。けれど、やっぱり作家として、ひとりの現実を生きている方として、ランディさんはふたつの視線を同時に持たなければいけなかったのだろうな、と思ったのです。
また、ランディさんは「無数の他者として視られること」をとても意識しています。
私は「あなた」の前に居続けたい。一人の他者として。
「あなた」によって照射される無数の自分にのみ執着し続けている。
「あなた」によって限りなく自分を解体することが、たぶん私の趣味だ。
ーーーーーーーーp138より
それをしながら『根』を持ち続けられる強靭さは、どこから来るのだろうと思うと、なんだかゾッとしました。翼をもって、解体された「自分」の重なった『自分』を眺めることは、とても精神的に危うい行為だと思うのです。それだけの強靭さを持っているから「コンセント」が作品として成立したのでしょうけれど。。。
■すきなもの
共感というか、どうしても入ってくるものがあったのは以下。ほかも印象的なエッセイばかりなのですが、自分のひっかかるものがある編を挙げてみました。
・舟送り ー アーティスト内藤礼さんの作品と、個展。
・イメージの力 ー 放射能汚染をリアルにイメージする怖さ。
・祈りと絶望 ー 水俣病のヘドロ埋め立て地での、能の上演。
・えひめ丸の事故に思う ー 海人の海との向き合い方が新鮮。
・旅のテンションを生きる ー ネット依存症の友人とのふたり旅。
・極楽浄土の屋久島(以下略) ー 屋久島と、そこに生きた詩人。
・パズル遊び ー 自我肥大な若人が陥りやすい罠。
・私たちは、出会えるのだろうか? ー 戦争と語り部について。
ランディさんの作品を未読の方でも、一読の価値があるエッセイです。これから他の誰かのエッセイを読むかどうかはわからないけれど、私のエッセイへの偏見はちょっと減りました。そして、田口ランディさんの他の本も…ちょっと、読んでみたいと思っています。
しかし、えらい長くなってしまいました。エッセイっちゅうのは、小説より感想文を書くのが難しいですね。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

おすすめ本blog★訪問記念にクリックthanksです!
■BOOK LIST
コンセント (幻冬舎文庫)
posted with amazlet at 09.01.11
田口 ランディ
幻冬舎
売り上げランキング: 33196
幻冬舎
売り上げランキング: 33196
おすすめ度の平均: 






気流の鳴る音―交響するコミューン (ちくま学芸文庫)
posted with amazlet at 09.01.11
真木 悠介
筑摩書房
売り上げランキング: 35818
筑摩書房
売り上げランキング: 35818
おすすめ度の平均: 




生死観や現代社会での価値観に、衝撃をもたらしてくれます。メキシコのインディアンなんて絶対スピリチュアルでうさんくさいでしょ、と思ったら大間違い。現代の暮らしに十分応用可能な実践的なアイデア、考え方が盛りだくさん。良いっす。

おすすめ本blog★訪問記念にクリックthanksです!