髪のきれいな女の子は好きですか?
「ジーザス」と、あなたは言った。私の髪の毛の色を見てあなたは言った。あなたは日本人なのに、なぜかそんな言葉を呟いた。そう言いたい気分だったのだろうか。私は少し悲しくなった。
あなたに「似あうよ」って言われたくて、ちょっと期待してたのに、そんな言葉なんて、悲しいわ。
「なんでそんな色に染めたの?」
あなたは聞いた。私はそうっと、本を差し出した。グリーン・レクイエム、この間読んだ本の名前。あなたが好きな本の名前。あなたはもう立派な大人の男の人なのに、こんなメルヘンちっくなSFが好きだと知って、もっともっと好きになった。
「この本の主人公の女の子みたいになりたかったの?」
私は頷いた。だからそう、私の髪の毛は今、まるで五月の青葉みたいな綺麗な緑色。腰まである長い髪の毛を全て私は緑に染めた。鮮やかな緑、五月の色、木々の色、葉っぱの色、それはきっとあなたを優しく包んでくれるはずだったのに。
「どうして?」
あなたは尋ねた。私はあなたを抱きしめる。
私ね、もっともっと優しいものに本当は生まれたかった。人間なんかじゃなくて、植物みたいな、何も言わなくていい、優しいもの。木のように何百年も立ち続け、生き物に酸素と日陰を与える優しい生き物に生まれたかった。だからかしら?
それに、きっと。私は自分のもうひとつの気持ちを確認しながら、あなたの手を取る。あなたを見上げる。あなたは私の一番近くにいてくれる。あなただけが私の近くにいてくれる。あなたさえいればそれでいい。
そう、この物語の女の子みたいに、そうなのよ。
「ああ、俺と一緒に、逃げてほしかったの?」
あなたは何も言えない私の言葉を読み取ってくれる。私は頷く。
あなたに会う前から、私は植物のように喋ることを放棄した。全ての人に放棄された私を掬ってくれたのは、あなただけだった。
あなたと一緒なら、私はどこまでも逃げられる。きっと。精神的にも空間的にも肉体的にも、きっとどこまでも逃げられる。そんな気持ちを込めて、きっと私は髪の毛を緑色にしたの。
「そうか。分からなくてごめん」
あなたはそう言って私を抱きしめる。髪の毛をすくう。
「最初はびっくりしたけど、よく見たらこの色、綺麗だね。本当に葉っぱみたいだ」
その言葉を聞いて私はようやくにこりと笑った。私のこの葉っぱは、酸素も日陰も作れないけど、あなたに優しさを与えることができるはず。
だからお願い、いつか私をつれてどこまでも逃げてね。お願いよ。
その物語の最後が、どうなってもきっと赦すから。きっと、きっとよ。
「願って願って願って已まない」
お題…replaさま