あるところに
気前のいい和尚さんが住んでいました。
あんまり気前がいいので
不思議に思った村人が
「和尚さんはどうしてそんなに気前がいいの?」
と尋ねました。
「それはお前達をとって食ってしまうためだよ。」
ばりばりばり!
突然気前のいい和尚さんの顔が破れて中から
気前のいい和尚さんが姿を現しました。
「わぁ!」
慌てた村人は急いで逃げ出しました。
どこまで走っても気前のいい和尚さんは追いかけて来ます。
途中、村人は懐の中に
気前のいい和尚さんにもらった
ありがたいお札が三枚あったことを
思い出しました。
三枚まとめて
気前のいい和尚さんに投げつけようと
後ろを振り返ると
さすが気前のいい和尚さんです。
ありがたいお札をかごからわんさか
振りまきながら追いかけて来ます。
村人は泣きながら走って逃げました。
どうにか自分の家に逃げ込むと
戸を閉めて開かないようにしっかりとおさえました。
戸の外で気前のいい和尚さんが
追いついて来た足音がします。
気前のいい和尚さんは咳をすると
声色を変えて呼びかけました。
「お母さんですよ。開けてちょうだい。」
騙されるわけがありません。
村人がじっと息を殺していると
戸の隙間から真っ白い手の先が押し込まれました。
「あんた、わたしですよ。開けてちょうだい。」
さっきよりも高い良い声で奥さんのふりをしています。
これはきっと白墨を食べて指にも塗ったのに違いありません。
村人は戸を開けたりしませんでした。
「わん!わんわん!」
やけを起こしたのか気前のいい和尚さんは
犬の鳴き真似を始めました。
なかなか上手いものでしたが
村人は決して戸を開けません。
「ぎゃー犬だ!助けてくれー!!」
気前のいい和尚さんの叫び声と走り去るような物音がしました。
なるほど犬の鳴き真似をしたのは
犬が怖くて逃げ出したような芝居をするためだったのです。
しかし村人は気前のいい和尚さんよりも賢いのでお見通しです。
戸は開けません。
しばらく静かになったあと
戸を叩く音がします。
とんとん。
「開けてくださいまし。私は先日よくしていただいたガチョウの子でございます。」
がらがら!
なんとうっかり村人は戸を開けてしまいました。
動物の好きな村人は本当にガチョウの子によくしてやった覚えがあったのです。
開けてがっかりそこに居たのは気前のいい和尚さんでした。
「やっと追いついたぞ。一人残らず食ってやろう。」
恐ろしくて動けない村人の後ろから
家の奥にいた
村人の一人息子が現れて
気前のいい和尚さんに言いました。
「私達はまさかこんな人生の終わりを迎えるなんて思いもよりませんでした。
こんな災厄が訪れるなら
昨日のうちにお札を百枚ほど家の周りに貼っておけば良かったなぁ。
そうだ。気前のいい和尚さん。
気前のいい和尚さんなら気前のいいというくらいですから
なにとぞ昨日の私達にお札を百枚渡してきてはもらえませんか。」
気前のいい和尚さんは困ってしまいました。
気前のいい和尚さんでいるためには昨日に行ってお札を百枚渡さなければならないのです。
しかし明日はともかく昨日へいく方法がわかりません。
にっこり、息子の機転に気づいた村人が調子を合わせて言いました。
「昨日へ行く方法がわからないのですね。それなら簡単。
昨日へ辿り着くまでひたすら走れば良いのです。止まっては行けませんよ。
良かった良かった。
気前のいい和尚さんのことですからきっと昨日の私達にお札を百枚届けてくださいますね。」
父子は勝ったと思いました。
お札を抱えて朝から晩まで走る
気前のいい和尚さんが浮かびました。
ところが気前のいいはずの和尚さんは言いました。
「ひと足遅かった。気前のいい和尚さんだったのはさっきまでの話。
今はお前達を一人残らず食う和尚さんだ。」
和尚さんは気前のいいという呼び名や自分の性質に特にこだわりやそこまでの執着は無かったのです。
お前達を一人残らず食う和尚さんを目の前に父子は震え上がりました。
その時。
お前達を一人残らず食う和尚さんの後ろから鳥の鳴き声がしました。
そうです。
いつか村人がよくしてやったガチョウの子が本当に恩返しに来たのです。
恩人の危機を悟ったガチョウの子は
お前達を一人残らず食う和尚さんの
目をつぶし関節を極めて泥舟に乗せ火のあがる焚き木を背負わせ負った火傷に味噌を塗り上から臼や青い柿の実を落として赤い靴を履かせてずっと踊らせたりしました。
それはそれは見事な攻撃ぶりでした。
踊らせている間ガチョウの子は持って来た小さなつづらから様々な道具を出して
最後にお前達を一人残らず食う和尚さんをどうするかを考えていました。
不思議な瓢箪はお前達を一人残らず食う和尚さんをお酒に変える事が出来ますが
そんなものを飲みたい人はいません。
打ち出の小槌は扱い辛いし、
竜宮城の玉手箱を開けばたちまち死んでしまう年齢ですからそれはあまり後味が良くありません。
ガチョウの子はつづらをひっくり返しましたが
お前達を一人残らず食う和尚さんを処分するいい考えが浮かびませんでした。
長い時間お前達を一人残らず食う和尚さんが上手に踊り続けるのを見ていた村人は
あまりの光景に目眩がしたので
ガチョウの子にもうこのへんで許してやるように言いました。
ガチョウの子は恩人が言うのだからと赤い靴を脱がしてやり
一からやり直してほしいと願いを込めたという建前で
そこら辺に落ちていたわらしべを一本手に握らせ
お前達を一人残らず食う和尚さん改め
わらしべ和尚さんの新たな門出の背中を押してやりました。
厄介払いです。
ガチョウの子の言いたいことに気づいたわらしべ和尚さんは
わらしべをふりふり何処へとも無く歩いて行きました。
まさか長者になれるなんて思ってはいません。
ガチョウの子が恐ろしくて早く逃げ出したかったからです。
ガチョウの子に大変感謝した村人は
ガチョウの子を家において大層可愛がって育てました。
しかしガチョウの子が大きくなると
池を遠くに見てはさみしそうに鳴くようになりました。
そんなある日ガチョウは村人たちに言いました。
「今まで育ててくださってありがとうございます。もうそろそろ池からのお迎えが来ます。そうすればもうお別れです。」
息子は悲しくなったので池からの迎えが来てもガチョウとわからないように
ガチョウの羽を金色に塗りました。
美しい金色のガチョウ。
抱き上げようとした息子の手はどういうわけか金色のガチョウにくっついてとれなくなってしまいました。
次の日息子がなんとか金色のガチョウを手から離そうとしていると
ガチョウの言葉通り池からよちよちとたくさんのお迎えのガチョウが現れました。
お別れです。
村人は
「達者で暮らせよ。」
と両手を大きく振って
ガチョウの群れと息子の哀れな後ろ姿を見送りました。
終