Best of チェコアニメ映画祭の見どころ~ポエム編~後編 | チェコチェコランドのイベント・商品情報ブログ

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1012日から吉祥寺バウスシアターで4週間上映される

Best of チェコアニメ映画祭」の4プログラムの見どころを

前回の記事から紹介しておりますが、

今回は、1週目に上映します「ポエム編」の後編です。

ポエム編」は、前回ご紹介したように以下のようなラインナップです。

 

1. 動物たちと山賊(8分)

2. 飲み過ぎた一杯(18分)

3. もぐらくんとズボン(13分)

4. ベツレヘムの星(11分)

5. 郵便屋さんの話(22分)

6. (18分)

 

今日は、3の「もぐらくんとズボン」からご紹介します。

 

「もぐらくんとズボン」は、1956年の作品で

ズデニェック・ミレル監督の「もぐらのクルテクシリーズ」の1です。

ベネツィア国際映画祭で受賞し、クルテク人気のスタートとなった作品です。

 

 

ズデニェック・ミレル監督「もぐらくんとズボン」より

(c) Země pohádek,a.s.,Zdeněk Miler  

 

 

 

クルテクは、チェコでは知らない人がいないどころか、

ほとんどのチェコ人が愛してるキャラクターだと思います。

日本でも、40年以上前から絵本が出版されていますし、
NHKでもアニメが何度か放送されています。

だから、日本でも、ご存じの方は多いと思います。

 

「もぐらくんとズボン」は、

記念すべき第1作目ということもあるのですが、

最もクルテクアニメの魅力が詰まっていると思うのです。

 

「もぐらのクルテク」を子ども向けのアニメとして

世界一と評価する人は、とても多いです。

では、子ども向けアニメの素晴らしさとはなんでしょうか?

子供向けアニメには、人にとって最も大切なものが

詰まっていると思うのです。

 

 

 

 

ズデニェック・ミレル監督「もぐらくんとズボン」より

(c) Země pohádek,a.s.,Zdeněk Miler  

 

 

 

「もぐらくんとズボン」のストーリーは、

クルテクの欲しがっているズボンを森のたくさんの仲間たちが、

協力して作る話なのですが、クルテクや、森の動物たちは、

ズボンの作り方など、もちろん知りません。

でも、それぞれ、特技があり、何らかの形で協力します。

その協力は、「出来ることなら何でもやるよ。」という

自然な親切心です。

 

こどもに最初に教えることは、間違いなく

やさしさ・思いやりだと思います。

子ども向けアニメには、必要な要素だと思います。

でも、あまり説教臭い内容だと

こどもも関心を持ちません。

 

でも、クルテクアニメは、

心温まるストーリーだけでなく、色彩豊かな絵が、見る人の心をつかみ、

ユーモラスでちょっと変わった森の仲間たちに注目してしまいます。

 

でも、一番のポイントは、クルテクの健気さだと思います。

こんなクルテクのお願いなら、森を挙げてのズボン作り

協力したくなるはずです。

 

クルテクシリーズの第1作。以外とご覧になられた方が少ないかもしれません。

この機会に是非、ご覧になって、世界一と言われるこどものためのアニメ

ご覧になってください。

 

 

 

 

ズデニェック・ミレル監督「もぐらくんとズボン」より

(c) Země pohádek,a.s.,Zdeněk Miler  

 

 

 

そして次は、「ベツレヘムの星」です。

1969年、ヘルミーナ・ティルロヴァー監督の作品です。

以前のブログでもご紹介させていただきました通り、

ティルロヴァーの作品は、ガラス玉や手芸の素材など、

きれいなものを扱ったものが多く、

女の子が、小さい頃、ママごとなどで遊んでいたときの

想像力の世界を具現化したようなおとぎの国のようなアニメばかり、と

書かせていただきましたが、

その中でも、「ベツレヘムの星」は、その世界観がたっぷりです。

手芸の素材だけで作り上げたこのアニメには、

かわいいきれいしかここにはありません。

 

 

 

 

ヘルミーナ・ティルロヴァー監督「ベツレヘムのほし」より

 (c) Krátký Film Praha, a.s.   

 

ここに登場する人形には、がありません。

でも、人形たちの喜び、悲しみ、愛

全て伝わってきます。

何より、主人公のお姫様のがないのに、

きっと高貴で優しい顔をした美人だと思わせる説得力が、

このアニメにはあります。

 

「ベツレヘムのほし」は、

今回が、日本での初公開です。

 

 

 

ヘルミーナ・ティルロヴァー監督「ベツレヘムのほし」より

 (c) Krátký Film Praha, a.s.   
 


きらびやかで、うっとりするような女の子が、憧れるようなアニメを

ティルロヴァー作品には、たくさんありますが、

その中でも、美しさ、可愛らしさでは、No.1の作品だと思います。

 

そして、次にご紹介するのは、

郵便屋さんの話」です。

これは、チャペック兄弟の作品です。

このブログでも紹介しました通り、

チャペック兄弟は、第二次世界大戦が終わる前に、

亡くなっておりますので、戦後、彼らの残した原画を

もとにアニメにされました。

 

「郵便屋さんの話」は、有名ですので、

イラストをご覧になられて「見たことがある」と思われる方も

いらっしゃるのではないでしょうか?

 

 

 

チャペック兄弟作「郵便屋さんの話」より

(c) Krátký Film Praha, a.s.

 

 

 

チャペック作品の特徴は、絵も話もとにかく、素朴ユーモラスです。

緊迫した場面、息を飲む場面、一切ございません。

すこし間抜けな愛すべき好人物たちが、あくせくしています。

 

「郵便屋さんの話」は、

郵便局員のコルババが、郵便局の妖精から、

1通の手紙のことを教えられました。

それは、若者が恋人の女性に送ったプロポーズの手紙なのですが、

なんと住所が一切書かれていないので、配達が出来ないのです。

郵便局員の名にかけて、コルババは、世界中を駆け回っても

この大事な手紙を配達することを決心したのです

……

でも、ゆるい話です(笑)

 

好人物しか登場しません。

だから、どんなふうに展開しても

平和でしかありません。

 

 

 

チャペック兄弟作「郵便屋さんの話」より

(c) Krátký Film Praha, a.s.

 

 


コルババが、1通の手紙を届けるために

世界中を駆け巡ります。

皆さんもコルババとともに

宛先をさがしませんか?

 

「ポエム編」のラストは、

」です。

この作品は、このブログでも何度も取り上げています

イジー・トルンカ監督の最後の作品です。

この作品を完成した4年後に

トルンカはこの世を去っています。

 

 

 

イジー・トルンカ監督「手」より

(c) Krátký Film Praha, a.s.

 

 

 

正直、この作品を「ポエム編」に入れるのを迷いました。

いわゆるポエムとは、かけ離れた作品だからです。

どちらかというとホラーです。

もちろん、血が出たり、うわっと驚くような場面は一切ありません。

 

人形の道化師の部屋に、文字通りのがやってきます。

は道化師の生活に干渉し、

徐々には、道化師を追い詰めます

 

自分の生活を何者からか、監視されている、支配されている。

そして、自分の未来に希望などないのだ、と悟らされていく様子から、

本当の意味の恐怖が伝わります。

 

 

 

イジー・トルンカ監督「手」より

(c) Krátký Film Praha, a.s.

 

 


当時、共産主義であったチェコの未来に対する警告のような気がして

なりません。

 

そして、この作品は、カメラワークが随分、変わっているそうなのです。

私には、専門的なことはよくわからないのですが、

人形アニメを撮るときの基本的な撮影方法が一切、無視されているそうなのです。

ですので、当時の撮影担当の方は、随分、戸惑われたのではないか、
という話を聞きます。

逆に言うと、この作品にふさわしいカメラワークを一から考えたのでは
ないでしょうか?

 

この作品は、それまでのトルンカのポエムとファンタジーであふれた

オペラのような作品とは、まったく違います。

ユーモラスな場面も、微笑ましく心温まるシーンは、一切ございません。

でも、心揺さぶるものがあります。

彼が築き上げたチェコアニメの伝統であり、彼の真骨頂でもある

映像の力で恐怖、絶望、そういったものが、沁み込んできます。

 

 

 

 

イジー・トルンカ監督「手」より

(c) Krátký Film Praha, a.s.

 

 

 


この作品は、トルンカ作品の中では、異彩を放つものですが、

でも、トルンカの代表作として、この作品を選ぶ方も多く、

そして、この作品が、トルンカ作品の中で最も好きだ、
という方も多いです。

 

実は、あるアメリカの映画会社だったと思うのですが、

“20世紀の世界の映像物ベスト100というのを

選んだそうなのですが、

「手」が5位に選ばれたのです。

 

対象作品が、アニメとか実写とかフィクションとかドキュメントとか

関係なく、世界中の20世紀に作られたすべての映像物の中から

選ばれたのですから、大きな評価だと思います。

ただ、どこの会社が発表したのか
まったく手元の資料に残ってないので、

説得力がなく申し訳ないのですが、

映像の力ということでは、

この作品に匹敵するようなものはなかなかないのでは、と思います。

ものすごく心が揺さぶられるものが多かったので

「ポエム編」のラストに入れました。

映画が好きな方には、一度見てほしい作品です。

 

というわけで、次回は、

2週目に上映する

ファンタジー編」について

ご紹介したします。