チェコアニメの巨匠「イジー・バルタ」〜バルタがいる限りアニメは進化する〜 | チェコチェコランドのイベント・商品情報ブログ

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イジー・バルタは、1948年生まれの現在64歳のアニメ作家です。
彼を紹介するとき、“アニメ作家”と言うと、少し違和感を感じます。
なぜなら、彼の映像は、アニメの域を超えているように感じるからです。
彼は、新しい作品に取りかかるときいつも新しい映像を考えます。
その作品にふさわしい表現方法を編み出すのです。
その表現方法は、既存の方法から選択するのではなく、新たに方法を作り出します。
だから出来上がったものは、アニメの範疇におさまるとは限らないのです。

イジー・バルタ監督
イジー・バルタ監督
(C)Animation People, s.r.o.



最新作の雪女」は、小泉八雲の怪談話の「雪女」が原作になっています。
この作品には、バルタが考え出した映像技術が駆使されています。
「“雪女”の美しさ、雰囲気を出すには“ワックス・アニメーション”がベストだ。」
というバルタの言葉で、「雪女」の製作はスタートしました。

ワックス・アニメーション…。聞いたことがある人はいらっしゃるでしょうか。
古い写真の技術をアニメに応用したバルタの生み出した技術なのです。
照明が当てられたワックスのレリーフは、
深い空間表現と霧がかかったような印象を与えます。
19世紀に発明された世界最初の写真技法
「ダゲレオタイプ」がこのような技法だったそうです。
もともとこの「ダゲレオタイプ」の印象的な写真技法からヒントを得て、
ワックスアニメーションを考え出したようです。

正直、この撮影方法については、バルタに何度も説明を受けたのですが、
私自身、よくわかっていません。(苦笑)
でも、映像を見ればその素晴らしさはよくわかります。
「雪女」の魅力は、雪女の“美しさ”と”怖さ“だと思います。
その”美しさ“が際立ち、”怖さ“が肌に突き刺さる作品になっています。

雪女16
イジー・バルタ監督「雪女」より
(C)AT ARMZ.INC



バルタは言います。
「アニメ製作は私にとって“挑戦”です。
挑戦するものでなければ、やる必要はありません。」と。

バルタは、物静かで穏やかです。
何度かお仕事をご一緒にさせていただいていますが、怒ったところなど
見たことありませんし、怒ったところを見たという人も聞いたことがありません。

でも、作品作りには、頑固なくらいこだわります。
頑固どころではありません。
絶対妥協しません。
トルンカ、ポヤル伝統の“チェコアニメの精神”です。
だから、穏やかで優しいバルタですが、その現場はいつも緊張感があふれています。

彼は、トルンカやポヤルのように共産主義時代の
アニメ製作にとって“いい時代”ばかり過ごしていません。
むしろ共産主義政権が崩壊してからの方が、キャリアが長いです。
国の方針で潤沢な資金があった共産主義時代と比べ、民主化になってからは、
国の援助はなくなりましたので、資金的にアニメ製作は厳しくなったのです。

実際、2009年製作の長編アニメ「屋根裏のポムネンカ」は、
1985年の「笛吹き男」以来24年ぶりの長編です。
資金繰りが大変だったというのもあったでしょうか、
でも、彼は“少ない予算”なりの製作はしません。
予算が不足しているならば、作りません。
“いい時代”が終わってもバルタの精神は微塵も変わりません。

作れない間、彼は、大学で教鞭をとっていました。
それが収入源でした。
でも、「屋根裏のポムネンカ」の製作が決まると、
あっさり教職を辞めました。
「屋根裏のポムネンカ」の後は何も決まっていません。
休職とか、なんらかの方法で在籍していた方が、いいのでは、と
私は思ったのですが、
彼は言いました。
「アニメを作るのが私の仕事。それが決まったら
他の仕事をする必要はありません。」


11月で彼は、65歳になります。
でも、彼は現役バリバリです。
創作意欲が全身にみなぎっています。


10月12日から始まります吉祥寺バウスシアターの
「Best of チェコアニメ映画祭」の期間中、
イジー・バルタの作品は、レイトショーで上映されます。
雪女」が
10月12日(土)~10月18日(金)までの1週間、
ポヤル監督の「Hiroshi」、「ぼくのともだち」とともに
19時の回で上映されます。


屋根裏のポムネンカ」が、
2週目の
10月19日(土)~10月25日までの1週間、
やはり19時の回で上映されます。


雪女」は、以前の記事でも書きましたが、
俳優の佐野史郎さんにプロデューサーとして参加していただいております。
佐野さんは、ご出身が島根県で小泉八雲とゆかりがあり、
小泉八雲の「怪談話」の朗読をライフワークとされています。
プロデューサーとしてだけではなく、
ナレーターとしても参加していただいております。
「怪談話」の醍醐味を隅々まで知り尽くした
佐野さんの独特の語り口は、物語の効果を最大に広げています。

雪女16-2
イジー・バルタ監督「雪女」より
(C)AT ARMZ.INC



さらに“雪女”役に人気女優の貫地谷しほりさんに担当していただきました。
雪女の持つ、母性、優しさ、そして怖さ、それを見事に貫地谷さんが表現されています。
貫地谷さんは、ご存じの方も多いと思いますが、映画やドラマだけでなく、
声優やナレーターとしても評価が高い女優です。

「雪女」の魅力は、“美しさ”と”怖さ“です。その両方を見事に映像が
肌に突き刺さってきます。

そして、最後にバルタから
小泉八雲さんこと、ラフカディオ・ハーンさんに素敵なメッセージが描かれています。

かつてない映像技術、美しくて怖い世界観、是非ご覧になってください。
経験したことのない映像体験ができると思います。



そして「屋根裏のポムネンカ
屋根裏に捨てられ、すっかり忘れ去られていた
人形たちが、実は、人知れず生き生きと暮らしていたお話です。
ポムネンカは、かわいいお人形で、みんなのアイドルです。
ある日、悪の帝王にポムネンカはさらわれ、みんなが助けに行く
冒険ストーリーです。

屋根裏のポムネンカ16
イジー・バルタ監督「屋根裏のポムネンカ」より
(C) BIO ILLUSION s.r.o.



バルタのそれまでの作品は、シュールな作品が多かったのですが、
この作品はファンタジーいっぱいです。
おもちゃ箱を目の前にした子供のワクワクした気持ちを
映像にしたような映画です。

私は、このブログで、チェコのアニメ作家が、アニメを作るきっかけとして、
幼い頃、親に買ってもらったおもちゃで遊んでいた頃、頭の中で描いた想像力が、
原点になっている、と何度か書きました。
ティルロヴァーは、それを具現化したようなアニメをたくさん作りましたし、
トルンカポヤルもおとぎ話のようなファンタジーたっぷりの作品を作っています。

でも、この「屋根裏のポムネンカ」は、そういった
“こどもの頃、夢に描いた世界”のファンタジックなアニメの集大成だと思います。
バルタは、本人も言っていますが、トルンカやポヤルの影響を大きく受けており、
彼らの系譜の下に自分がいることに誇りを持っています。
彼は、チェコアニメの”最後の継承者“という言い方をされますが、
彼の作品は、先駆者たちのものとは、まったくの異質です。
独自のオリジナリティを持っています。
ティルロヴァーともトルンカともポヤルとも違うファンタジー…。
でも、集大成を思わせるような
夢のような“おもちゃの世界”が
屋根裏のポムネンカ」です。

屋根裏のポムネンカ16-2
イジー・バルタ監督「屋根裏のポムネンカ」より
(C) BIO ILLUSION s.r.o.



この作品も、声に貫地谷しほりさん佐野史郎さんに出演していただいています。
ヒロインの“ポムネンカ”の声を貫地谷しほりさんに、
悪の帝王“フラヴァ”に佐野史郎さんに担当していただいております。
この作品も日本の名優たちが彩っていただいています。


是非、お楽しみください。