花束の素白き星の
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2011-09-27 17:00:23 テーマ:創作

花束の素白き星の
テーマ:創作
2011-09-27 17:00:23
名の売れたカメラマンだったアタシのパパが京都に来て、
モデルをしていたフランス人のハーフのママと暮らし始めたのは、15年程前だった。
アタシが物心つく前には、パパの愛人の一人だったママは亡くなっていたと思う。
アタシはママがどういう感じの人か知らない。
アタシはママという人がどういう存在なのかが分からない。
アタシが物心ついた時には、すでにアタシの食事はいつもお菓子とケーキとレトルト食品だった。
だから、お菓子とケーキとインスタント、真空パック、レトルト食品がアタシの一番おいしい食事
になった。
だからアタシは料理ができない。
料理ができなくてもアタシは生きている。
だから無問題。
アタシが物心ついた時には、パパがアタシをキレイだったママの代わりにして
いつもいつも特別な事をして、お酒をツケにするほど飲んで、手に入れたクスリも沢山飲んだ。
パパの眼が空ろになって、カメラマンの仕事が来なくなった。
パパのおトモダチとも縁が切れた。
アタシは食事をゆっくり味わって楽しむこともないまま、空ろになったパパと暮らした。
アタシが斜にかまえて得意気に髪をかき上げるしぐさがパパのお気に入りで、
ママを思い出す。キレイだと言ってくれた。
アタシはもっとパパに感謝されたかったから、パパのお酒をツケにしてもらうためならなんでもした。
だからアタシには、友達にそれを聞くまで、それが特別な事だなんてちっとも思っていなかった。
パパが亡くなる前、
「イラストレーターをやっている独身貴族のオマエの腹違いの姉に
オマエを引き取ってもらえないか聞いておいてくれと知り合いに頼んでおいた。」
とアタシに言った。
パパがこんなになってもおトモダチは一人も来ない。
パパは息を引き取った。
ママの代わりだったアタシはパパの死に水を取った。
アタシはパパに最期までアタシの知らないママの身代わりにされた。
アタシはパパの知り合いから、腹違いの姉がアタシを引き取ると聞いた。
パパが亡くなってから、先立つ物も含めてアタシは家に居辛い気分になったし、
愛人の娘のアタシを引き取る気になった独身貴族の腹違いの姉が
どういう人なのかも気になったし、
どうしても特別なことについて腹違いの姉に聞きたいこともあったし、
パパの暖かさがなくなってサムいアタシには亡くなったパパの代わりの暖かさが必要だった。
イラストレーターをやっている独身貴族だったら、そのツテが見つかる確率も高いから、
アタシは腹違いの姉の家に到着するためなら特別な事を含めてなんでもした。
アタシはパパの知り合いから聞いた腹違いの姉の住所をたよりに、
予定よりも1カ月早く住んでいた京都を離れた。
アタシがなんでもしたことですんなり到着した分かりにくい場所にある腹違いの姉の家は
パパとアタシの住んでいたところと違って豪華な邸宅だった。
やっぱりアタシの居場所はここにはない。
窓が開いていたから、アタシはそこから部屋の中を覗き込んだ。
腹違いの姉は、クーラーをつけて、窓を開けてベッドに寝ていた。
アタシは窓から腹違いの姉の寝ている部屋に入った。
アタシは腹違いの姉を起こした。
起きぬけの腹違いの姉は夢を見ているような目でアタシを見た。
アタシをソファーに座らせてからお茶を入れ、ソファーに座った腹違いの姉が、
「京都からは一人できたの?」
とアタシに聞いたけれど、
アタシは、アタシ以外の人にとっては特別な事もしたから何も答えられなかったし、
腹違いの姉が、持ってきた雑誌をソファーに座って読んでいたアタシに
「シャワーでも浴びたら」
と言って腹違いのタオルと姉のバスローブを渡されたけれど、
シャワーを浴びるのがめんどうな気分だったから、
1時間近くもかけて、
牛歩戦術を使ったり、風呂場の手前でその雑誌を読んで時間を潰したり、
お湯の出し方が分からなかったからと腹違いの姉にまだシャワーを浴びていない言い訳をした。
アタシにとってお風呂に入ったりやシャワーを浴びることは人に話せないような嫌なことを
思い出させるから入りたくないし浴びたくない。
腹違いの姉は食事も作ってくれたけど、
パパにとってのお酒がアタシにとってのお菓子とケーキとレトルト食品。
レトルト食品の味じゃないとおいしく感じない。
白い砂糖の甘さがあればアタシの脳は満足するから、ケーキなんて甘ければ何でもいいし、
白い砂糖とミルクがたっぷり入って苦みの消えたコーヒーじゃないとアタシは飲めない。
ママが亡くなって、物心ついた時にはもう白いお砂糖が入ったお菓子とケーキとレトルト食品に
慣れてしまっていたから、
他人の手作りが余計に不味く感じるし、好きなものを先に食べているからお腹がいっぱいになる
なんてまだ世話になっている腹違いの姉にはとても言えない。
食卓の席で腹違いの姉は
「明日は、買い物をしましょう、学校の手続をしなくては」
とアタシに言った。
腹違いの姉の家でも居場所のないアタシは、キッチンで見つけたおいしいクッキーが入った
缶をアタシの部屋に持って行って、中身のクッキーを食べた後、
翌日朝食を抜いて腹違いの姉の買い物に付き添った。
新しい人形を買った子供のように、アタシに着せたり持たせたりしたい物をいくつも買って
満足した腹違いの姉は、お昼になって
「お腹が空いたね。何がいい?」
とアタシに聞いたけど、
物心ついた時から食べていたお菓子とレトルトの味が一番おいしかったアタシは
「なんでも」
と答えるしかなかった。
「洋食、中華、それとも」
と聞いてくれたけど、
そういう食事をゆっくり味わって楽しむこともなかったアタシは
そういうものを食べる気がしなかったから、
「お腹がすいてないから」
と言った。
お腹が空いた腹違いの姉はそんなアタシとレストランで食事をする気でいる。
歩いている途中でぶつかってきても、アタシのことを可愛いと褒めてくれる雄はアタシにとっては
大事な道具だから義理堅い対応はいつものことなのに、
腹違いの姉はそんなアタシの反応を不審な人を見るような眼で眺めているのが分かった。
腹違いの姉はアタシとレストランで食事したけれど、
レストランの食事が好きではないアタシは少ししか食べられず、
腹違いの姉は
「本当に食べないのね」
と驚いていた。
あたしは少ししか食べられなかったから、お腹が空いてきた。
早く部屋に帰って、あのおいしいクッキーで胃袋を満たしたい。
買い物の帰りに、腹違いの姉がこの店のケーキはおいしいとケーキを買って帰って、
コーヒーの支度を始めたけれど、
アタシはすっかりお腹がペコペコだったから、胃袋にケーキを投げ込む様に早食いした。
コーヒーを持ってきた腹違いの姉がアタシの皿が空になっているのに驚いて
自分の分をすすめてくれた。
まだ足りなかったアタシはそのケーキを貪った。
そんなアタシに驚いたのか、腹違いの姉がブラックのコーヒーを差し出して、
それを飲んだアタシが苦いというのを見て、白い砂糖とミルクをアタシにすすめた。
アタシは、いつもの量をコーヒーに入れて急いで胃袋に流し込んだ。
胃袋が満たされたアタシが眠くなったのを見て、
「甘党だったのね。つかれたでしょ。もうおやすみなさいよ」
と言った腹違いの姉が言った後、アタシは部屋に戻って眠った。
そんなある日、腹違いの姉の仕事絡みで本の装丁を担当するお兄さんと編集さんが家に
やって来て、
家に戻ったアタシは腹違いの姉にコーヒーをカップに移して客間に持ってきてと頼まれた。
早速、ツテのチャンスが到来した。
どういう服を着てどういう反応をすると雄が喜ぶかをアタシは知っている。
アタシは、コーヒーをカップに移した後で腹違いの姉に買ってもらった中で一番キレイに見える
服を選んで髪型を整えて、
冷めたコーヒーを担当のお兄さんと編集さんの前に出した。
コーヒーが冷めていても、どういう反応をすれば雄が喜ぶかをアタシは知っている。
アタシを見た編集さんは
「可愛いな」
と言って、担当のお兄さんに同意を求めて
担当のお兄さんは
「本当に。お姉さんのイラストから抜け出たようだ」
アタシをパパのような表情で褒めてくれた。
「そんな、恥ずかしいわ」
と言いながら、斜にかまえて得意気に髪をかき上げるアタシを見る
腹違いの姉の表情は固まっていた。
アタシは腹違いの姉の隣に座り込んで、編集さんと担当のお兄さんの質問にうつむきがちに
笑顔で答えることでひたすらアタシをアピールした。
その日の夕食の時に腹違いの姉に、
「あなたの少食も困っているし、交代で食事を作ってほしい」
と頼まれたけれど、
物心ついたときにはレトルトで舌が慣れてるから、料理は出来なくても生きてるし
そんなことをしなければならない理由もさっぱり分からないから、腹違いの姉の問いを、
アタシは無視した。
更に、腹違いの姉に
「料理を教えてあげる」
と言われたけれど、もうそれを説明するのも返事をするのも、アタシはめんどうだった。
その後、アタシは腹違いの姉のクッキー缶の中身を隠れて全部食べてしまったのを隠したかった
からクッキー缶があった場所に腹違いの姉が洗って乾かしておいたコーヒーメーカーをクッキーの
代わりに押し込んだ。
翌日の朝、アタシは腹違いの姉に学校の帰りにしてきてと材料が書かれた買物メモを渡された。
好きなものがあったら買ってきていいと言われた。
財布の中には一万円が入っていた。
アタシは角のスーパーでレジに誰がいるかを確かめてから、
メモに書かれた材料とアタシの好きなもの、お菓子の類を買った。
少しお金が足りないけれど、どうすれば雄が喜ぶかをアタシは知っている。
少し足りない分は、いつものようにツケにしてもらった。
翌日、腹違いの姉が支払いに行っても、きっと愛想良く対応してくれるはずだ。
アタシが家に持ち帰った買物袋の中のお菓子の類の多さに腹違いの姉は驚き、
メモしてもらった物はちゃんと買ってきたし、少し足りなかったからツケにしてもらったと話したら、
腹違いの姉が更に驚いている。
腹違いの姉を驚かせて嬉しかったアタシは煙草のかすかな残り香が残っているのに気がついた。
客間のテーブルの上の灰皿には煙草の吸殻が沢山残っている。
アタシはあの担当のお兄さんの表情とやり取りを思い出していた。
アタシを見据える腹違いの姉の表情が幾分強張っていたから、
きっと、アタシがいない間にあの担当のお兄さんがアタシの話で来ていたのだ。
アタシは担当のお兄さんの連絡先を捜して書き写したものを鞄にしまっておいた。
いつかこれが役に立つはずだ。
腹違いの姉は忙しそうだし、アタシにとってはこの方がお互いに便利で精神的に合理的だから、
アタシはツケを支払った後の腹違いの姉の様子を確認してから、
角のスーパーに行ってアタシにとってはおいしいインスタント、真空パック、レトルト
食品を沢山買い込んだ。
腹違いの姉は、アタシが買い込んできたインスタント、真空パック、レトルト食品の山を見て、
いくら忙しくてもこんなもの食べられないと言ったから、
ついにアタシは、このほうがおいしいと断言した。
やっぱり、アタシにとってレトルトは物心ついた時から食べているから、おいしいし、食べようと
いう気になれる。
食べきれないまま捨てたパックがどんどん投げ入れられたごみ袋を見て、腹違いの姉は、
「こんなことは不経済だ」
と言ったけれど、
アタシは腹違いの姉がなぜそんなことを言ったのかも分からなかったし、
アタシは
「姉さんがお金持ちなのに意外と」
と、言った。アタシにとっては節約家に思えた。
目線を反らして話すアタシの顔を腹違いの姉は不気味な物を見るような目で眺めている
のがアタシには分かった。
不気味な物を見るような目で見られるのが怖いし、うらやましいと思っている人から
そんな目で見られたくないからアタシは腹違いの姉から目を反らしている。
結局、腹違いの姉はアタシに買い物を頼むのを止めたから、アタシの自由な時間が
京都にいた時と同じ位に増えた。
アタシは、書き写しておいたあのお兄さんの連絡先に電話した。
アタシが、
「この間はとても楽しかったです。先日、姉の家にいらしてたんですね」
と言うと、
あのお兄さんは
「知り合いのTVのCMをやっている代理店の連中が妖精のような子を探してて、
僕がついうっかり君のことを強調して、連中がぜひ一度お会いしたいと
乗り気になったから、
君の姉さんにTVのCMの件で君を連中に紹介したいって大事なお話をしたけれど、
キツイ口調で断られたから、君の意見を聞きたいと思っていたんだ」
と言った。
アタシが大事なお話に乗り気なことが分かると、あのお兄さんは喜んで夜遅くまで
アタシに付き合ってくれた。
やっぱり、アタシにとってはレトルトが一番おいしいから、あのお兄さんはこったお店に
連れて行ってくれるけれど、好きじゃない。だから少ししか食べられない。
でも、パパの代わりが見つかって一まず安心。
あのお兄さんの都合でツケにしてもらう時間がとれなかった。
今夜はすぐにお腹が空きそうな気がする。
アタシは夜、あのお兄さんに家の近くまで送ってもらったところを、
急ぎの買い物の帰宅途中だった腹違いの姉に見られた。
見られてしまったのは仕方がない。
ここでは言い訳もできないし、したくない。
アタシは、
「ごめんなさい。今日も遅くなって」
といつものように腹違いの姉から目を反らして謝ることで開き直った。
今が潮時。アタシは覚悟を決めた。
腹違いの姉にまで同情されても困るだけだから、アタシはことさら無邪気に演技することにした。
その晩、アタシはお腹が空いたからケーキかお菓子が欲しくて腹違いの姉の仕事部屋に
乗り込んだ。
腹違いの姉は、
「たっぷり食べてきたんじゃないの」
と言ったけれど、アタシは
「こったお店に連れて行ってくれるんだけれど…好きじゃない、
なのに少食だ少食だと驚くの」
と答えてからピーナツバターと、ジャムがあるのを思い出して、
ピーナツバターと、ジャムがたっぷりのったトーストとグラスの半分がジャムのロシアンティーを
腹違いの姉の仕事部屋に運んで、それを食べながら、
“腹違いの姉以外に誰にも聞かれたくなくて、
アタシにとっては特別な事でなくても、アタシ以外には特別な事”について一方的に話した。
最初は、腹違いの姉はアタシが何を言っているのか分からない様だった。
それでアタシは、パパが腹違いの姉には“他の友達の家庭でもしない特別な事”をしていない
ことがはっきりと分かって、なおさらアタシは空しくなって、話し続けた。
腹違いの姉はアタシの言っていることが分かるまでは憮然とした表情をしていた。
ママの身代わりに特別な事をされたことを思い出しながら熱っぽく話すアタシを見る腹違いの姉
の表情は完全に固まっていた。
その時、アタシには腹違いの姉の張っていた意地のようなものが完全に消えたように見えた。
アタシは、腹違いの姉にアタシの居場所がこの家にない理由を話したことで
心のつかえが取れてスッキリした。
もうここにいる理由もない。
腹違いの姉もアタシが出て行った理由を察してくれるはず。
明日の夜はあのお兄さんのところに泊まろう。
アタシはどうすれば雄が喜ぶかを知っている。
アタシは残っていたお菓子を全部食べて眠った。
アタシがいた部屋に残ったゴミは、後で腹違いの姉が元通りにしておいてくれるはず。
翌日、アタシは、学校が終わってから、
あのお兄さんのところに連絡して
大事なお話の続きがしたいからと言って迎えに来てもらった。
アタシはあのお兄さんに感謝されたかったから、あのお兄さんに感謝してもらう
ためならなんでもした。
あのお兄さんにはアタシの言う通りに、アタシを預かって装丁を下りたと、
アタシの腹違いの姉に夜遅くに連絡してくれた。
あのお兄さんがアタシを預かってから、アタシのCM出演の話は、とんとん拍子に進んで
スポンサーから、沢山いただいた。
秋になってアタシのCMが流れ始めて他の仕事も受けるようになった頃、
アタシは腹違いの姉の本を本屋で見かけた。
アタシのことがきっかけになったのか、すっかり絵柄が変わっていたけれど、
そんなことは、TVCMに出演したアタシにとってはどうでもよかった。
そんなことよりアタシは今のパパ達に感謝されたかったから、今のパパ達に感謝してもらう
ためならなんでもした。
アタシは今度の大河ドラマに出してもらえることになった。
大河ドラマにでたら、あちこちの民放の番組に出られる。
もっと、沢山の人に褒めてもらえるし、沢山もらえる。
もっと、もっと、もっと欲しい。
腹違いの姉よりも有名になって、お金持ちになれば、アタシは絶対幸せになれるはず。
今のアタシにとってお菓子の代わりがパパのような沢山の酒とクスリになっている。
キレイと褒めてもらえるアタシがクスリでキメているなんて、誰も気づかない。
酒とクスリが、もっと、もっと、もっと欲しい。
アタシが欲しいものはどうせお金で買えないものだから、
代わりにお金で買えるものが、もっと、もっと、もっと欲しい。
新しいパパは、パパと同じカメラマンの予定。
アタシに似た男の子が欲しい。
結局アタシは、“ロバの皮”を着ることが出来なかったお姫様だった。
TVでは、アタシのような子供たちが“プチエンジェル”として大人の人形にされていた事件を
やっていた。
アタシは、甘くキケンで、嫌で悲しい香りを感じてすぐにTVのスイッチを消した。
アタシが欲しいものはお金で買えない目に見えない物だということを、誰も分かっちゃくれない。