海はいつでも寄せては返す波に覆われている。ひとときといえでも同じ表情を見せることはない。

波は命あるもののように近づき去っていく。

見ていて飽きることがない。


太古の昔、命は海から出て、やがて大地に生きる命となった。

寄せては返す波の前で命は、波に鼓動がシンクロしてノスタルジーを感じるのだろう。

波が月によって生まれたことは忘れて。


そして
人の心も寄せては返す。
山は言う
小さき者よ、一体どうしたいんだ
と。

木霊は囁く
迷える者よ、何故怯えているんだ
と。

黄土色した虻がブンブンやかましく、行く手を遮る。

山道を下るだけ、
やがて
営みの街に出る。

振り返っても、手を振る者はいない。
歩いて来た道は緑に覆われている。

もう風は語らない。

車を叩く土砂降りの雨
外は全てが濡れている
窓に滴る幾筋もの水滴
洗い流されていく、何もかもが

車の中はいつもの時間が流れている。
快適な空調とエンジン音

瞳は窓を見ているのか
窓の外を見ているのか
今は
心はどこにあるのか
どこにいこうとしているのか
車の外それとも中

窓の水滴を追って指先だけが濡れている