ジハード〈5〉集結の聖都 (集英社文庫)/定金 伸治
¥800Amazon.co.jp

【1191年の末、獅子心王リチャードの軍勢はついに聖都イェルサレムに迫った。
おりあしくサラディンが病に倒れ、イスラム陣営は混迷を極める。
ラスカリスとルイセを失い、失意のヴァレリーに、今や十字軍側の参謀となった『蒼狼』ことキヤトが牙をむく。果たしてこの都を守り抜くことが出来るのか?
そして、和平のために、ある「政略」が進行する…。ヴァレリーたちの運命は? 怒涛の第五弾。 】


■ 感想とか色々~

兄さんはもうちょっと言動に気をつけたほうが良いと思う。

最初が「名の呪縛」で最後も「名の呪縛」なんですねー
そういう意味では「シャラザード」と「アル=アーディル(ヴァレリー)」と「エルシード」も名の呪縛かな。あ、「ジョアンナ」さんもそうか。
で、結局お話としては アリエノールと結婚すんの? しないの? だったと思う(笑)

「蒼狼」っていい名前だなあそれだけでカッコいいなあと思ってたキヤトさんが意外と大きくて。ロビンフット視点でも大きかったけど。……ふーん。
楽しそうじゃないのが気に食わないのかな、なーんか妙に冷静で もっと楽しもうよー… と思っちゃう。
まあベレンガリア(かき回しそれを楽しむ人)ともちょっと違うかなあ、と思っていたけど、「流れを見る人」かな?
P185で「沈黙が何になろう。絶対とは灰の中にある」と言ったのは好きだった。破滅的な人だ。
リチャードはまんま「戦いを楽しむ人」だけど、この人の場合は戦略を抜いての戦で、そこに「殺し合い」と「試し合い」のどちらが含まれるのかは解らない。

P34の虫をエルシードが怖がってるのが可愛かった!
いやいやまあ途中で記憶喪失になっちゃってシャラザードに甘えてるのも可愛かった!
神性神性うっさいなあ と思ったんだけど 会談の所で(シャラザードかアリエノールかエルシードか) ああそうだな姐さんがベッドの上で喘ぐ所想像できないなあ と。
逆に言えば、わたしの中の所謂…一般的なものとしての「神さま」はどうやらそういうことをしないらしい。
セックスと暴力は、なんというか、原初に近い。始まりのような…気がする。共に、荒々しい。
(どうでもいいこだわりとして、わたしが「性行為」という言葉をあまり使わないのは、「生殖行為」と言ったときと同じような堅苦しさを感じるからですが、なにより、テストに書くとき画数が多くて嫌気が差すくらい面倒だったのを思い出すからです。)

姫さんにない「女」全部、与えられたのはシャラザードとアリエノール。
ア=デイルは少女かな、マリアンはあんまり感じなかった。ベレンガリアは少女と女の間。
うーん 妹さんは「女」だったねえ。一目惚れだったもんね兄さんに。
この人に「薄笑い」のイメージが付く前にアーディルに会ってそれまでのアリエノールが壊れたから、話としてもわたしの心象としても大分不利なんだけど、それでもやっぱり嫌いだなあ。苦手かな? 恋に身を滅ぼす人は、その心の動きを知っていたとしても、同意が出来ない。同調も出来ない。存在を否定はしないが、たいてい壊れて行っちゃうだけだから、あんまり楽しいとは思わない。
逆にシャラザードの方がまだ解るかな。近いと言い換えられる。好きな人の四肢を落とすこと。閉じ込めること。一生世話をすること。誰にも見せず、誰も見させず。
でも「まだ」をつけたのは、わたし自身が好きな人を追いかけることはともかく、自分の傍にいられるのってあんまり好きではないからだと思う。
姉さんは「大切な人の大切なもの」を奪うことまでは考えませんでしたね。
人はさあ、独りだよ。だから群れるんでしょ? 群れるという言葉に悪意を感じるなら、寄り添うでもいいけど。
独りという気持ちがあるから、「ふたり」があるんじゃなーいの? と。
それに、「シャラザード」にはなにもなくたって、あなたになにかを与えてくれた人はいるし、与えられたものもあるでしょう。それは「あなた」にはならない……のかな。
うーん まあ思わないなら思わないでいいんだ。わたしがそう思うだけで。
P303の「エルシードはおまえのあこがれを満たすための人形ではないよ」が良いと思う……兄さんは姫さんと呼ぶときとエルシードと呼ぶときがある。
能力ではなく精神の強い/弱いの外において、人は逃げる、と思う。

しかしラスカリスを神格化するのは嫌い。これは分類すれば「嫌い」という「箱」で、不愉快だとかざけんじゃねーよとかやすっぽいとかはあんまり思わないし、そういうフォローじみた言い訳をしている時点で作者さんと作品(とラスカリス)には好意的。
P92の「夢」は好きだったんだよ いや嫁さんとかあんたどれだけフラグ作る気!と思ったりもしましたが(笑)
風はやりすぎかなあ。わたしは「死」によって神さまになる、神格化する、という考えが、「死」を特別視しているようで嫌いなんだと思う。(逆にそう思うことは、死を意識的に特別視しないよう扱っている、でもあるんだけど)
あそこで滅びればよかったと? っつーんじゃなくて。それはそれ、これはこれ。
あとこの巻で初めてアル=アーディルをずるいと思った。姉さんが傍にいなくても 優秀な指揮官がひとりいない 以上には中々ならなかったかな。或いは、不安定ではなかった。エルシードはヴァレリーがいないときに大変だったのに! というまあ逆恨みなんだけど。エルシードには戦場での片腕が兄さんしかいないのか作れないのか、まあどちらも奇妙な人達だとは思う。
兄さんはフラグ作りすぎなんだよー シャラザードも兄さんに傾いてるしー。

P255の だが、山の頂上は空の下にあるとは限らん になるほど、と。ロビン名台詞。
兄さんはエルシードに対して時々嬉しいんだよなー P345の自分はエルシードにとって重要な人間であることを許されるのか とか。
P379のエルシードという人間は、いまここにいるわたしのすべてなのです。とか。あー、憎んでいる、には驚いた。アリエノールがエルシードを傷つけたこと自体はあんまり思わなかったな、姫さんがアリエノールを草むらの方へ突き飛ばしたからかね。
タキ兄さんの酷いところは、それを直接息子に言わなかった所だ。
最期の言葉が姫さんに似ている男の子へだったことだ。

全く戦の話をしていない……合間合間に「かたち」とか「性質」とかが入るからそっちに気をとられる…。
だって戦って語り難いんだもん。(投げたー)
まあいつも通り苦しそうなお兄さんでした。

イラスト:高橋常政さん、デザイン:岡邦彦さん


ジハード〈4〉神なき瞳に宿る焔 (集英社文庫)/定金 伸治
620Amazon.co.jp
→(4巻の感想