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【過剰追跡が原因で犯人の少年を死なせてしまった元刑事の須賀原。
そんな彼が働くレンタルビデオ店に、奇妙な少年がやって来た。
『シックス・センス』の DVDを見つめながら、ただ涙を流しているのだ。
しかも毎日…。
心に傷を負う元刑事と、“死者”が見える少年が、霊にまつわる事件を解決していくハートウォーミングミステリー。 】

感動系。
が、嫌いじゃない。狙っている部分込みで好きとも言える。
あ、BLっぽくはなかったです。多分。

● 登場人物

須賀原
心に傷を負う刑事。というよりも、罪悪感と自己批判の人。でした。
基本寡黙。「感動系」なのに嫌いにならなかったのはこの人が語りであったことが大きいと思う。
実直であることは素晴らしいが、素直に素晴らしいと思うが、ああこの人生き難そうだなあと苦笑するような。

明生
死者が見える中学生。触れていると見える他者もいる。時々。
あとはその人の裏側にある真実を見てしまうときもあるとか。
難儀な兄さんだ。まあ1回外出るのもいいと思うよ、向こうの方が進んでるし。
明るく生きるなんて良い名前。

■ 感想とか色々~

交通事故で死んだおばあちゃんが出てくるとおりゃんせ
須賀原さんの足元に虐待された犬が出た秋の桜
ずぶ濡れの少女が「宝箱が見つからない」と呟く氷室の館
狂言自殺で本当に死んでしまった嘘ばかりを繰り返す自惚れ鏡
須賀原さん自身の傷と明生のこれからサッド・バケイションズ・エンド



二年半前と悪しき習慣、それに昔の上司さん、交通事故と重ね合わせた昔、「一生忘れないでくれ」。
最初のほうで、ああ元警察官でなんか悪いことしたお兄ちゃん追ってたらその子交通事故に遭っちゃったのねー(そして多分その子のお父さんは警察官だったんだねー…) と判りました。

それでも、許されたがってはいなかった。詫びるだけだった。
んー……なんていうのかな、わたしからしたら「そんなんどっちもどっちじゃん」なわけです。無関係だからね。
でも須賀原さんにとっては許されざることであって、その許されざることを詫びる先にもし「許し」を得たいと言うのなら、それお前最初に言っていることと矛盾してるよ、ただの自己満足だよって切り捨てることも出来たけど、そうしなかったから、安心して読めました。
「どっちもどっち」と思うことに変わりはないけど、だけどそれは部外者が口出すことでもないし、当事者達が「そう」だというのならそこをスタートラインにする。

そういう理由で、わたし須賀原さんちょっとだけ好きだよー。
無骨すぎる所はあるし、卑怯だけど、話術の上手さや雰囲気作りは凄いと思う。というときっとこの人は嫌そうな顔をするんだろうけど(笑)


明生――このお兄さんは、多分わたしが大分尊敬しているか敬意を払いたいかなので、呼び捨てにしたくないんですが(笑)
好きだけど「こいつすげー」のが上回ってるのかな。苗字覚えてたらそっちでさん付けだったんだけど。
サッド・バケイションズ・エンドで「自分のことしか考えていなかったから、見えなかったんじゃないでしょうか。見えるようになったのは、相手のことを考えたから」
それ、まんまこの人じゃん、と思ったの。思ったら、滲んだ。
死んだ人が見える理由も、目らしき場所に焦点を結んだらもやもやとしたものが急に形を作る理由も、どうして聞こえるかも、どうして振り回されなきゃいけないのかも、解らない。
でも、閉ざさなかった。あなたが言ったことがそうなら、自分だってそうだよ、相手のことを考えたから見えるんじゃないの、と思ったら(読んでるときの思考の大体は瞬間的だと思う) ああもうなんだこの人ーーーー! になった(笑)
「寂しいって、辛い」を真っ当に言われたときって、言葉が出てこない。
動けなくなる。
動くことや言うことが「答え」となるなら、わたしはなんにもしない。
否定も肯定も安易な同調も簡単な同情もしたくない。最後の選択を含め。
ああもう、なあ、この人はこれ以上苦しまずに生きてほしいなあ。


まあとおりゃんせのおばあちゃんは可愛かったし、娘さんの気持ちも綺麗じゃなくてよかった。
秋の桜はわんこ可愛いよわんこっ!
警戒しているお兄さんがとても素晴らしいと思う(笑)
氷室の館はエグかったなー……。顔と足の間が血まみれの人形。
隆さんのこのあとも知りたい。お姉さんが可愛くてカッコよくてよかった。
弟を虐めるなら許さない!ってもーうち来ませんか! ダメですか!
そしてそのあとに自惚れ鏡なんですよねー……嘘ばかりで塗り固められた自分。
そりゃまあ自分の人生で付き合いが一番長いの誰? って「自分」。
誰が知らなくともわたしはわたしを知ってるもん。
あとわたし媚びてる人間ってそこまで嫌いじゃない。違うな、媚と自覚している人間は嫌いじゃない。
媚びてる理由が愛されたいとかだったら嗤えないんだ、そりゃまあ実害あったらちょい待てやとは思うし自惚れ鏡のお姉さんは諸にそうだが。
媚びという言葉が嫌なら他にも置き換えられる。計算する人とか。


最初のほうで「あれこれって武本さんじゃ…?」という描写が(笑)


装画は植田真さん!
あ、いしいしんじさんの「絵描きの植田さん」の植田さん?

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