野村 美月, 竹岡 美穂
”文学少女”と飢え渇く幽霊

話の作り方が上手いのかな。
騙されないぞ、騙されないぞ、
前回も思わせぶりなところで考えすぎて罠にはまったんだから、
と警戒をしても、結局騙されちゃいました。
ばっちりきっぱりさっぱりばっさり負けました。
展開、というか話の内容としては、ほとんど表紙裏の粗筋と変わりません。
ただ、何回どんでん返しだよ、と言いたくなりました。

個人的ヒットは“文学少女”天野遠子先輩の下宿先の息子・流人。


「(中略) オレは、精神的マゾなんです。
女に愛憎の混じった目で見つめられて罵られると、ぞくぞくする。
だって、人間の感情の中で1番強いのは憎しみじゃないですか?
愛情は時間が経てば薄れて変わってゆくものだけど、
ホンモノの憎しみはそう簡単には忘れられないものだし、
時間が経つほど大きくなってゆくもんだと思いませんか?
憎んでいる方が愛も長く続いてゆくって、オレは思うっすね。
愛しているから憎み続けることが出来るし、憎んでいるから愛し続けることが出来るって」



この子の何人も居る恋人のうち、ひとりが話の軸になっていて、
他の人を好きになって、流人は振られて、女の子も死んじゃうんですけどね。
こういう考え方の人には初めて会いました。あ、違う。読みました。
正直男でマゾも初めてです。
少し汚いくらいの感情が入っているといいんでしょうね。
キレイすぎると相手も応え切れないんでしょうか。
愛を含んだ憎しみと憎しみを含んだ愛。

最後の最後、自分に母親を重ね合わせ見ていた男の人へ、
軸になった女の子は、その人のことを愛していたにも拘らず、
結局その男は自分の母親を愛しているだけで、自分を愛していないと知らされて、「お父さん」と呼ぶ。
その少女は一週間後、目を覚ますことなく、息を引き取った。


軽く近親相姦。いや、なんにも致してませんけど。
話をかんなり粗く説明いたしますと、男(蒼)は、
女の子(蛍)のお母さん(かやの)の家に拾われてきました。

かやのと蒼は魂を分け合うほどに仲がよく、かやのの両親が死んで、
蒼の立場が危うくなったときも、蒼からもらうもの以外口にしない、と脅しました。
そうしなければ、蒼がどこかへ行ってしまうから。




けれどかやのは、蒼以外の男の人と結婚をします。
そのあと生まれてきたのが蛍。
愛している人に絶望した蒼は行方不明になり、
その後、外国で死んだことを知らされ、かやのも跡を追うように亡くなります。



実は死んでいなかった蒼が帰国すると、かやのはもう亡くなっている。
そのことを許せなかった蒼は、今度、そっくりである蛍に目をつけます。
蛍に「かやの」を演じさせ、数字を暗号として、会話をします。


だけどかやのは、蒼との愛の証を護るために、
他の人と結婚をしたのだと、蛍の口から聞くことになります。
結婚する前からかやののお腹には蛍が居て、
どこの馬の骨ともわからない蒼の子供なんて、
堕胎されるのがおちに決まっているから。

だから、結婚をしたのだと。
それが蒼への優しくて残酷な裏切りだとしても。


「娘として、出会っていれば」
蒼はそう言います。

「オレは、ごめんなさいとか、ありがとうとか、そんな言葉は欲しくなかった」
蛍から、流人への手紙がありました。


わたしを好きになってくれてありがとう、と。
“蛍”を好きになってくれた人は、あなたが初めてでした。
あなたと生きられたら、わたしは幸せになれたと思う。




今までありがとう、と。

「ありがとう」は残酷で、「ごめんなさい」は冷酷で、
続く言葉はきっと、読み手が最も望まない、別離の言葉。


流人が欲しかったのは蛍との“これから”だったのになー…。


「“かやの”の“か”から始まり、『か』は1、『き』は2、『あ』は42、濁点が47、半濁点が48」
対応表を作り、所々ある暗号を文字にしてみました。



14 41 47 3 24 21 43 2 11 3 16 43
      5

14 41 47 3 24 21 43 2 11 3 16 43
      5

14 41 47 3 24 21 43 2 11 3 16 43
      5


“天国へは行きたくない”

“天国へは行きたくない”

“天国へは行きたくない”



46 15 44 6 41 32 36 7 14

“お父さん、許して”


46 1 42 6 41 47 21 16 3 39 11 7 40 27 14
            14

“お母さんではなく、わたしを見て”

13 27 47 30 43 43
      14


47 13 40 44 4 14 30 1 26 39 16 43
21<


“罪でもいい、罰を受けても構わない”

42 46 43 42 43 7 14 43 36

“蒼、愛している“


同シリーズの感想です。別窓開きますのでご注意を。
刊行順、古いものほど上となっています。

文学少女と死にたがりの道化
文学少女と繋がれた愚者
文学少女と穢名の天使