なんとなく物語~親子ゲンカ~
母さんなんか大嫌いだ。
昨夜、一学期の期末テストのことで母さんとケンカした。
中学3年生ともなると、本人ばかりでなく、周りの人間も受験を意識してピリピリしてくるものだ。
それはわかっているのだけれど、一度、不平不満を口にしたら、せきを切ったように二人とも感情を抑えられなくなった。
父さんは怒るでもなく、半ば、どうしようもないな、といった具合で「それぐらいにしたらどうだ」と一言、仲裁に入った。
それでもボクの気は済まなかった。
今日、学校にいる時もたびたび昨夜のことを思い出してはイライラした。
友だちに「何かあった?」と心配されてしまった。
帰宅して、今、家にはボクひとり。
父さんは仕事、母さんは買い物にでも行ってるんだろう。
怒りが冷めないボクは、今のうちに母さんの大切な物を捨ててやろう、と思い立った。
父さんと母さんの寝室に入り、タンスの中をしらみつぶしに調べた。
すると、いかにも大事にしてるような古ぼけた箱を見つけた。
その中にはたくさんの手紙が綺麗に束ねられてしまってあった。
一通、手に取って読んでみる。
内容からして30年ほど前の物だと推測できた。
母さんは中学生の頃、同い年の女の子と文通をしていた、という話を聞いたことがあった。
つまり、この手紙は、その文通相手から送られてきた物だと思われる。
たしかに、これは母さんの所有物ではある。
だけど、文章を読んでいくにつれ、ボクが知るはずのない文通相手の人の顔が頭に浮かび、捨てるという意思は申し訳なさそうに消え入ってしまった。
それどころか、興味が先行してしまい、ボクは次から次へと手紙を手に取って目を通した。
途中、ボクは読み進める目を留めた。
そこには、こう記されていた。
「もう子どもの名前考えてるなんてすごいね。あなた照れてたけど、優しい人になってほしいから『優太』っていうの、私、素敵だと思うな」
ひとつ、まばたきをすると涙が頬を伝った。
それがきっかけだったかのように、気がつくとボクは肩を震わせて泣いていた。
「母さん…何で」
ーーーーーーーー
「ただいま」
しばらく居間でくつろいでいると、母さんが帰ってきた。
「はい、これ」と言って、母さんは居間のテーブルに取っ手のついた正方形の箱を置いた。
中にはホール型のケーキが入っていた。
ボクの目から再び涙がこぼれた。
そう、今日はボクの誕生日だった。
「やだ、そんなに感動した?」
母さんは微笑んで言った。
「母さん、これ…」
ボクはさっきの手紙を差し出した。
「何、あんた。これ読んじゃったの?恥ずかしいわぁ」
「優しい人になってほしいから『優太』って…」
「まぁね。その頃からいろいろ考えてたのよ」
「じゃあ何で…まぁいいや」
この時にはもう、怒ることがバカバカしく感じられるようになっていた。
初めからケンカなどしていなかったかのように、気持ちは穏やかだった。
「何よ?あ、そうだ。シュークリームもふたつ買ってきたから、お父さんが帰ってくる前に食べちゃおっか」
ボクは笑って「うん」と言って頷き、続けて言った。
「ただ、ケーキに名前入れられるのはさすがに恥ずかしいんだけど」
「いいじゃない。いつまで経っても、あんたは私の子なんだから」
「その気持ちは嬉しいんだけどさぁ、ボクの名前って…」
「あぁ、それは私がただ単に好きだったからつけたのよ」
ケーキの上に置かれたホワイトチョコレートでできたプレートには『キャベツ太郎くんおたんじょうびおめでとう』と書かれていた。
昨夜、一学期の期末テストのことで母さんとケンカした。
中学3年生ともなると、本人ばかりでなく、周りの人間も受験を意識してピリピリしてくるものだ。
それはわかっているのだけれど、一度、不平不満を口にしたら、せきを切ったように二人とも感情を抑えられなくなった。
父さんは怒るでもなく、半ば、どうしようもないな、といった具合で「それぐらいにしたらどうだ」と一言、仲裁に入った。
それでもボクの気は済まなかった。
今日、学校にいる時もたびたび昨夜のことを思い出してはイライラした。
友だちに「何かあった?」と心配されてしまった。
帰宅して、今、家にはボクひとり。
父さんは仕事、母さんは買い物にでも行ってるんだろう。
怒りが冷めないボクは、今のうちに母さんの大切な物を捨ててやろう、と思い立った。
父さんと母さんの寝室に入り、タンスの中をしらみつぶしに調べた。
すると、いかにも大事にしてるような古ぼけた箱を見つけた。
その中にはたくさんの手紙が綺麗に束ねられてしまってあった。
一通、手に取って読んでみる。
内容からして30年ほど前の物だと推測できた。
母さんは中学生の頃、同い年の女の子と文通をしていた、という話を聞いたことがあった。
つまり、この手紙は、その文通相手から送られてきた物だと思われる。
たしかに、これは母さんの所有物ではある。
だけど、文章を読んでいくにつれ、ボクが知るはずのない文通相手の人の顔が頭に浮かび、捨てるという意思は申し訳なさそうに消え入ってしまった。
それどころか、興味が先行してしまい、ボクは次から次へと手紙を手に取って目を通した。
途中、ボクは読み進める目を留めた。
そこには、こう記されていた。
「もう子どもの名前考えてるなんてすごいね。あなた照れてたけど、優しい人になってほしいから『優太』っていうの、私、素敵だと思うな」
ひとつ、まばたきをすると涙が頬を伝った。
それがきっかけだったかのように、気がつくとボクは肩を震わせて泣いていた。
「母さん…何で」
ーーーーーーーー
「ただいま」
しばらく居間でくつろいでいると、母さんが帰ってきた。
「はい、これ」と言って、母さんは居間のテーブルに取っ手のついた正方形の箱を置いた。
中にはホール型のケーキが入っていた。
ボクの目から再び涙がこぼれた。
そう、今日はボクの誕生日だった。
「やだ、そんなに感動した?」
母さんは微笑んで言った。
「母さん、これ…」
ボクはさっきの手紙を差し出した。
「何、あんた。これ読んじゃったの?恥ずかしいわぁ」
「優しい人になってほしいから『優太』って…」
「まぁね。その頃からいろいろ考えてたのよ」
「じゃあ何で…まぁいいや」
この時にはもう、怒ることがバカバカしく感じられるようになっていた。
初めからケンカなどしていなかったかのように、気持ちは穏やかだった。
「何よ?あ、そうだ。シュークリームもふたつ買ってきたから、お父さんが帰ってくる前に食べちゃおっか」
ボクは笑って「うん」と言って頷き、続けて言った。
「ただ、ケーキに名前入れられるのはさすがに恥ずかしいんだけど」
「いいじゃない。いつまで経っても、あんたは私の子なんだから」
「その気持ちは嬉しいんだけどさぁ、ボクの名前って…」
「あぁ、それは私がただ単に好きだったからつけたのよ」
ケーキの上に置かれたホワイトチョコレートでできたプレートには『キャベツ太郎くんおたんじょうびおめでとう』と書かれていた。