「あつーーーーい」 「あついっすね」
外回り中、合言葉のように部下と何度もこのやり取りをした。
これ以外の言葉を交わした記憶がない。
あの日は、暑かった。
灼熱の太陽から降り注ぐ痛いくらいの陽射しとアスファルトの照り返し
そこから逃げるように日陰に移動したが、体にまとわりつく湿気で
すでに40歳を過ぎた私の体は、体内の水分をすべて外に
排出しているのでないかというくらいの
大量の汗をかき、疲労していた。
すべての打ち合わせを終え、あと少しで会社に到着しそうなとき
軽やかな音が、私のスマホから聞こえてきた。
仲の良い同僚からの電話だった。
「おつかれさ〜ん」 同僚の声は、この暑さを知らない脳天気さを醸し出していて
少しイラッとした私は、「疲れたぁ・・・暑くて溶けそうだよ」と
相手を労う言葉もなく不満をぶつけた。
「脂肪が溶けるなら、さなにとって最高の環境だな」と
笑っていいのけた同僚に完敗。
そして同僚は続けた。
「あのさ・・・アポなしで小野さんが来て・・・さなと話がしたいって・・・
それでさ・・・立場上、強く言えなくてですね・・・」
バツの悪そうな言い方で、すぐに状況把握。
「小野さん、お待ちなんですね。15分くらいで戻ると伝えておいて・・・。」
5分もかからず行ける距離にいたが、アポなしだし少し待たせてやれと
いけずな私の心が囁いた。