階下で見張りをしていたマ内官もヨンに気付いたが、同じくヨンに声を上げるなと指示される。
ソン内官はマ内官にヨンの意図を仕草だけで伝えるとマ内官は “ええ?!” と困り顔になりながらも部屋を出て行く。
“さっさと行け”と2人を追い払いながらヨンはチラッと眼下に並ぶ内官見習いたちを見る。
こちらにまったく気付いてないサムノムを見つけ、少し大きいチャン内官の帽子とかなり丈が足りない官衣を着たヨンはニヤリと笑う。
問題にザッと目を通すと階下に下り背後からサムノムにソッと近付いた。
***
サムノムの側に立ち後ろから覗き込むと、筆の柄を五角形に軽く削り平らな面に数字を書いて転がし、出た目と同じ番号にチェックを入れている。
ーおお…! 中々に斬新な手法だな(笑)ー
しかし大切な “おもちゃ” だ。
なんとしても合格させてやらねば。
ヨンはサムノムが転がした筆の目が“四”となっているのを背後から手を伸ばして“三”に戻し、サムノムの目の前に指を3本突き出した。
「?!」
驚き振り仰いだサムノムに笑ってやる。
「そこは“三”だ(笑)」
「?!!!」
サムノムは目を見開いた。
ー花若様?!ー
「な、何故ここに?!」
さっきまでマ内官だったはず!
声を上げたサムノムにヨンはまたもや人差し指を唇に当て「シッ!」と静かにするように注意する。
そして辺りを窺い声を潜め「ヒドいな…」と呟いた。
「こんなやり方で合格できるとでも? ひとつでも不合格なら即王宮を追い出されるのだぞ?」
サムノムはあんぐりと口を開ける。
ーこ、この男…まさか私を逃がすまいとして?!ー
それにしても何故?!
ソン内官やマ内官は?!
2人の姿を探してキョロキョロと辺りを見回すが何処にもいない。
ーどうして?! どうしていないの?!!ー
それよりも問題はそこじゃない。
「内官…だったのですか?! 昨夜は別監だったはずでは…っ」
「暗いから見間違えたのだ(笑)」
ーっんな訳あるか!!!ー
「早く書け、“三”だ♪」
またサムノムの目の前に指を3本突き出す。
「………っ」
笑顔で促す男にサムノムは渋々“三”にチェックを付けた。
「内官になるというお前の長年の夢をぶち壊す事などできん。──安心せよ私を信じるのだっ」
わざとらしく真剣な口調でのたまう男を睨む。
ー嘘だと分かってていけしゃあしゃあと…!!ー
まさかこんな形で報復されるとは思いもしなかった。
納得いかない!
何者なんだこの男!!
***
ヨンはとにかくサムノムの邪魔をした。
正解と違う番号にチェックを付けようとすればサムノムの手の上から筆を握り無理矢理正解の番号にチェックを付けさせる。
ーこのままでは合格させられる!ー
焦ったサムノムはさっさと終わらせようと残りの全ての解答を“三”にチェックをつける。
すると即座に新しい解答用紙にすげ替えられ、全問正解を記すまで3度もそんなバカバカしい攻防が繰り広げられた。
「………………」
必死の抵抗も虚しく戦いに負けたサムノムは放心状態で解答用紙を見つめていた。
「よし、これで提出しろ♪」
全問正解をサムノム本人の手で書かせ満足したヨンはポンポンと机の上の解答用紙を叩く。
ーこの~~~~!!ー
ヨンを睨み上げたサムノムは隙を見て解答用紙をくしゃくしゃに丸めると最後の抵抗よろしく口に突っ込み即座にヨンに頭をハタかれ紙を取り上げられてしまった。
「う~~~~!(泣)」
非道い! 非道すぎる!!
***
「合格!」
ーですよね…ー
「あ………はい…」
百点満点で合格したのにちっとも嬉しそうじゃないサムノムに採点した内官が不思議そうに首を傾げている。
合格通知を嫌々受け取り次の試験の説明を受けに行く。
ーどうしよう…チャンスはあと一回しかない…次はどんな試験なの?!ー
「では、最後の試験を行う」
次に行われる適性試験はいわば正解のない問いだった。
各部署の内官が提議した問題に解決策を導き出さねばならない。
しかも、王宮殿と中宮殿の問題は王と王妃が直々に合否を下すという。
「あの…」
ト・ギが手を上げた。
「そこで不合格と判定されたら…」
「もちろん即追放だ」
ー即……追…………そうだ!ー
マ内官の返答にサムノムはこれ以上ない妙案を思い付いた。
これならあの男もどうにもできまい。
サムノムは適当に問題用紙を選ぶ。
ー見てろ~(笑) 吠え面かかせてやるからな!ー
この妙案に中身は重要ではないのだ♪
***
「はぁ~? これはなんという問題なんだ、さっぱり分からんっ」
ト・ギは選んだ問題用紙を広げ嘆いていた。
「どれどれ?」
ソンヨルが覗き込み問題を読み上げ始めた。
「“何も召し上がらず 口数も減り お休みにもならない 笑ったり 泣いたり 怒ったり 御典医が診ても原因は分からない”」
「これが分からなければ追放?! 俺がどんな思いで内官になったと…」
「答えなら知ってるぞ♪」
横で聞いていたサムノムはその症状に心当たりがあった。
「何?! 本当か?!」
ト・ギが顔を輝かせる。
サムノムは回答用に用意された紙と筆を見てニンマリと笑う。
何故ならこれはサムノムの専門分野だからだ。