メルセデスベンツに見る「トラの威を借る」マーケティング戦略 | 紺ガエルとの生活 ブログ版日々雑感 最後の空冷ポルシェとともに

メルセデスベンツに見る「トラの威を借る」マーケティング戦略

土曜日に書いたマジメな話 の続きだが。


縮小する輸入車市場全体と。

それとは対照的に成長著しいプレミアムカテゴリ、という構図の中で。


「儲けるためにはプレミアムカー売りましょう」、という極めて当たり前な話を偉そうにしたが。


それ以外にも、儲ける方法は、というと。

安くて利幅の厚いクルマをガンガン売るという、方法もあり。


というか、プレミアム層とアフルーエント層(早い話がプチリッチ)の両方にアピールできるブランドが「勝ち組」ブランド。


もっと正確に言うと、プレミアムカーとアフォーダブルカーの間で相乗効果を生み出せれば、真の勝者。


すなわち。


1. プレミアムカテゴリでブランドイメージを確立

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2. アフォーダブルカテゴリで、それとなくプレミアムカテゴリのクルマを想起させるデザインの車を販売

(大昔、そういえば「レビンって『プアマンズ・ソアラ』だよね…。」などと言ったりしたものだ。なつかしー。)

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3. アフォーダブルカテゴリで、「トラの威を借りて」キツネ(=プレミアムの皮を被った普通の(?)クルマ)を高くたくさん売る


という図式。



この好回転を生めているマニュファクチャラーと、そうでないマニュファクチャラーで、「勝ち組」と「負け組」が分かれているような。


その点、メルセデス・ベンツは上手いぞ。


1. Sクラスに新しいデザインを投入

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2. そのデザインが浸透したところで、Sクラスのエクステリアを微妙に想起させるCクラスを投入

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3. 結果、Cクラスを高い値段で売れ(=利幅の厚いクルマがバカ売れ)、収益に大きく貢献

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4. その収益でよりクオリティの高い車をより安く、よりかっこいいデザインで生産

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という、無間地獄ならぬ「無間極楽」への道を目指していることが、火を見るよりも明らか。


これもレクサスが「完璧か無か」をスローガンに掲げていたドイツ人からしたら信じられないコストパフォーマンスでクルマを作りはじめてしまったせいだが。


それもご丁寧に。

過剰な「エバリ」っぷりに抵抗を感じかねないCクラスの顧客層に対しても。


S Class (←念のためですがSクラスです)

わざわざ「地味バージョン」のCクラスもご用意いただける、周到さ。


NEW C-Class (←新型Cクラス)

頭が下がります。

(こうやって小さな写真で見るとSもCも変わらんなー。)


この「トラの威を借る」作戦が上手くいっているブランドでは。


下位カテゴリのクルマがフラッグシップのクルマに似ているからといって。

フラッグシップカーのオーナーが文句言ったりしない。


つまり。

ニューCクラスがSクラスに似ているからといって。

怒るSクラスのオーナーは、あまり、いない。


逆に

上位カテゴリ → 下位カテゴリ、という相乗効果が上手く働いていないブランドの場合。


下位カテゴリのクルマがフラッグシップカーに似ていると。

フラッグシップカーのオーナーが怒ったり、あるいは単純にフラッグシップカーが売れなかったり。


だから。

「トラの威を借る」戦略が上手くいっていない場合。

裏技として、フラッグシップカーを変えてしまう、というのもありかも。



ところで当たり前のことを念のため指差し確認。

上位カテゴリ → 下位カテゴリ、という順序での相乗効果は、あり。

下位カテゴリ → 上位カテゴリ、という順序では、相乗効果は、普通働かない。

ラトゥールがあるから、レフォールドゥラトゥールがあるのであって。

逆は、当然に、ありえない。


それにいち早く気づいたトヨタは、レクサスを誕生させ。

海外ではさらに低価格帯の若者向けブランド、「Scion」まで作って。


「トヨタ≠レクサス」の不等式を、さらに強化している。

「トヨタ=レクサス」だと、先ほどの失敗パターンだから。


そこにいち早く気づいたトヨタは偉かったが。

残念ながらレクサスは、レクサスブランド内での「トラの威を借る」作戦が上手くワークしていない。


つまり。

LS460/600hが売れて、IS/GSが売れる、という流れが、ワークしていない。


アフォーダブルカテゴリで「これは売れる、レクサス凄い!」というクルマを作って。

LSで確立したブランドイメージで、そのクルマを割高に売り。

それが大ヒットを収め、収益に大きく貢献し、さらにその収益がレクサスブランドの強化につながれば。


「歴史を持つプレミアムブランドへのトヨタの挑戦」という、日本の誇る壮大な実験は、成功といえるようになるかと。